『乙女の願いの糸を手繰る』 監督:優水

本編ログ|雑談ログ

目次

プリプレイ

監督:ステラナイツ!始まります!
監督:まずは自己紹介から参りましょう。
監督:第一ペア!ライルートさんとハルさん!
【キャラシート】
ライルート:はい。
ライルート:ライルート・シュオレグナード。
ライルート:ロアテラの襲撃により滅びた王国で、近衛騎士をしていました。
ライルート:剣の腕前が高く、次期筆頭候補みたく扱われていましたが
ライルート:同僚の天才女騎士には一度も勝てていません。
ライルート:国が滅ぼされてからは隣人を多く受け入れるSoAに入学し悪戦苦闘しています。
ライルート:マジで訓練ばっかしてました 他のことはぜんぜんダメです
ライルート:ステラナイトとなったので故郷を取り戻すために研鑽を続ける所存です。
ライルート:困ったことは……その同僚がシースだということくらいでしょうか。
監督:まあ大変
ライルート:花章は青のバラ。機動しながら攻撃する高速紙耐久アタッカーです。
ライルート:やられる前にやります よろしくおねがいします!
監督:よろしくお願いします!ではシースのハルさん、どうぞ!
ハル:はーい
ハル:ハル・メリア・マグノリアです。
ハル:ライルートと同じく滅びた王国で騎士団に所属していました。
ハル:のんびりした雰囲気と気の抜けた態度ですが、剣に関しては天才的。
ハル:また戦いに関しては手段を選ばない苛烈な一面もあります。
ハル:ライルートと違って日々の生活で色んなことをしています 天才なので
ハル:滅んだ故郷を取り戻すために彼には頑張ってほしいですね
ハル:そんな感じです よろしくお願いします!
監督:よろしくお願いします!

監督:では、第二ペア!ミシェルさんとユミナさん!
【キャラシート】
ミシェル:はい!
ミシェル:ミシェル・シュクロウプです。生まれつき盲目の9歳です。
ミシェル:物心つくかつかないかくらいの頃に両親も亡くしており、決して恵まれているとは言えない境遇ですが
ミシェル:シトラ女学院でいつでも明るく楽しく過ごしています。
ミシェル:盲目だけど好奇心旺盛で何にでも手を出したがるのでやや危なっかしいかもしれません。
ミシェル:シースであるユミナさんと一緒に暮らしていて、身の回りの世話をしてもらっているのですが
ミシェル:さらにステラバトルの際にのみ目が見えるようになったりします。
ミシェル:楽しい暮らしと美味しいご飯のために頑張ります。よろしくお願いします。
監督:よろしくお願いします!では、ユミナさんどうぞ!
ユミナ・イチノセ:はぁああーーーーミシェルちゃんかわいい!かわいいよぉ!!
ユミナ・イチノセ:もうユミナさんなんでもしちゃう!むしろなんでもして!カモン!オウイエス!!
ユミナ・イチノセ:というわけでミシェルちゃんの身の回りのお世話をしているユミナ・イチノセと申します
ユミナ・イチノセ:ミシェルちゃんが寂しい思いをしないように毎日もう……そう、常に、寂しい思いをしないように!!常に一緒にいるわけです!!
ユミナ・イチノセ:ミシェルちゃんのお母様には大変お世話になって……なっていたんです
ユミナ・イチノセ:いやまあそれはね?物心ついたときから既に手の届かない存在でしたけども……そう言った意味で手の届かない存在になっちゃうことないじゃないですか
ユミナ・イチノセ:だから誰が何と言おうとミシェルちゃんはユミナさんが……ユミナさんが絶対に守るって決めたんですよ
ユミナ・イチノセ:ほらっ!ユミナさん超かっこよくないです!?惚れて!惚れなおして!
ユミナ・イチノセ:というわけでおいしいごはんとおいしいミシェルちゃんのために頑張ります!よろしくお願いします!
監督:よろしくお願いします!すごいパワーだ

監督:では第3ペア!マリア&リシャール!
【キャラシート】
マリア・エルカサンドラ:はぁーっはっはっはっは!わたくしですわ!わたくしが来ましたわ!
マリア・エルカサンドラ:マリア・エルカサンドラですわよ!!
マリア・エルカサンドラ:当然のことですけど、わたくしにできないことは何もありませんわ
マリア・エルカサンドラ:人を助け!弱きを助け!強きをも救い!輝く世界を作るのですわ!!
マリア・エルカサンドラ:そう、世界はわたくしが輝かせる!!わたくしの為に世界が回っているのと同じように!!道理ですわね!!
マリア・エルカサンドラ:さあ!早くわたくしのためのお菓子とお茶を用意なさい!!このマリア・エルカサンドラが来たのですから!!
マリア・エルカサンドラ:紫色のヒガンバナ、その美しさを見せて差し上げます!
マリア・エルカサンドラ:どうぞ特等席でごらんくださいな!はーっはっはっはっは!
監督:よろしくお願いします!
監督:では、シースのリシャールさん。
リシャール・ギー:「あ〜、それホントにおれがやんなきゃダメなやつです?」
リシャール・ギー:リシャール・ギー。エルカサンドラ家に使える執事。
リシャール・ギー:過去どこにいたのかを語りたがらない。
リシャール・ギー:非常にやる気がなさそうな男ではあるが、
リシャール・ギー:マリアが危機に陥った時は身を擲ってでも彼女を助ける。
リシャール・ギー:つまり、その忠誠心はとても厚い。
リシャール・ギー:マリアに対してかつての自分の夢を重ねており、
リシャール・ギー:「あーまあよーするに。やるときゃやりますよって話です」
リシャール・ギー:以上、よろしくお願いします!
監督:よろしくお願いします!

監督:ラスト!4ペア目、芳乃さんとカーラくん!
【キャラシート】
芳乃百夏:「はい。芳乃、百夏……ブリンガーです。ね、カーラ。今日は何食べようか?」
芳乃百夏:矢印がパートナーであるカーラにしか向いてない少女です。
芳乃百夏:両親、友達、信頼できる仲間、従者、世界の全てを失い
芳乃百夏:最後に残った最愛の従者であるカーラとステラバトルに挑みます。
芳乃百夏:彼女の願いはパートナーの笑顔。それだけ。
芳乃百夏:本質的にはこの世にいいことなんて何もないと思っていますが
芳乃百夏:カーラの存在でその全てを繋ぎ止めています。あと、ちょっとひどくするのも愛だと思っています。
芳乃百夏:愛のために頑張ります!以上!
監督:はい、ありがとうございます!ではカーラくんどうぞ!
カーラ:はい。
カーラ:カーラ。隣人。
カーラ:元は無限に続く迷宮のような世界の探索者であり、
カーラ:パーティでの探索をしていました。職業はクレリック。
カーラ:その世界が滅んでからは、芳乃百夏の従者の一人として彼女に付き従っていましたが
カーラ:今では一人となりました。前線のやつから死んでいく……
カーラ:彼女の執着は唯一の生き残りであるからだけだと理解していますが
カーラ:自分にとっても彼女以外にはなにもないので、最後まで見届けるつもりで居ます。
カーラ:そういう感じでやっていきます よろしくお願いします。
監督:よろしくお願いします!

監督:では、最後にプロローグを貼って…始めていきましょう!

異端の騎士が現れる
心と願いを歪ませた、星喰の騎士が現れる
此度の決闘、願いの決闘場に咲き乱れるは、青のバラ、白のオダマキ、紫のヒガンバナ
そして舞台の中央に咲くは一輪の歪な黒のアネモネ

『銀剣のステラナイツ』

願いあるならば剣をとれ
二人の願い、勝利を以て証明せよ

第一章

青のバラ

ライルート:スポーン・オブ・アーセルトレイ 訓練場
ライルート隣人(ネイバー)を多く抱えるSoAには、幾つか彼らに合わせた訓練施設が設えられている。
ライルート:そのうちの一つ。地球の中世欧州地域の装飾を思わせる舞台のような訓練場。
ライルート:そこに一組の男女の姿がある。
ライルート:「……」少年は剣を佩き、深く一礼。
ライルート:後ろ髪を三つ編みにした、碧眼の見目麗しい少年。SoAの制服姿。
ハル:「さ、どっからでも掛かってきなよ」
ハル:ゆったりと、あるいは悠然と佇む少女。
ハル:すらりとしたしなやかな肢体に、瑠璃の瞳。ゆるくウェーブの掛かった黒髪は渡り鴉を思わせる。
ハル:脱力した構えから、挑発するように剣先を揺らす。
ライルート:「……では、行きます」正眼に構えて。
ライルート:「はっ!」神速の踏み込み。そこからの真っ直ぐな突き。
ライルート:尋常でない速度。並の学生であれば、反応すらままらないほどだが。
ハル:突きの軌道が逸れる。機先を捉え、切っ先を横合いから叩いた。
ハル:「ほら」
ハル:晒された脇腹に回し蹴りを見舞う。
ハル:「いくら速くても、来るってバレバレじゃ意味無いよ」
ライルート:「……ぐっ!まだ!」よろめきながらも即座に切り返し、横薙ぎに払う。
ライルート:教則通りの、美しく、眼を見張るほどに速い一太刀。
ハル:「うわ」上体が消えた。ように見える。驚異的な柔軟性で、身体を逸らして避ける。
ハル:「あぶな~」ヘラヘラ笑って距離を取る。反撃をする気配もない。
ライルート:「!」即座に剣を引き戻して防御の姿勢。そう動けと教わっている。
ライルート:反撃の様子もないのに、ただ防御の刃だけが自分の目の前に。
ライルート:「……遊んでいるんですか」
ハル:「ライくんは遊びが足りないんだよ」
ハル:「教科書通りの剣だから、どうしてくるのかすぐ分かっちゃう」
ハル:「僕だって教科書くらい読んでるからね」
ライルート:「騎士団に連綿と受け継がれた正しき技が、誤っているとは思いません」
ライルート:「君に対応の余地を与えている私の未熟です」
ハル:「そこにプラスしなってことだよ、ライくん」
ハル:ゆらゆらと身体を揺らしながら。
ハル:「君が新しく教科書に書き足すくらいの心構えじゃなきゃ」
ハル:「そうでなくちゃ、僕には一生勝てないよ」
ライルート:「守ることこそが我々の使命でしょうに」
ライルート:「……参ります。正しき技で君を打倒しなければ意味がない」
ハル:「いいでしょう。来なさい」
ハル:くい、と手招きする。
ライルート:正面から踏み込み、幾条もの剣閃。
ライルート:8の字を描くように剣を動かしていく、王道の剣。
ライルート:速度と膂力で圧倒するはずの、難易度こそ高いが、やはり基本を外さない技。
ハル:まともに受け合わず、流すように打ち込みを捌いていく。
ハル:「お~。速い速い」
ライルート:「……!」それでも愚直にその動きを繰り返していく。
ライルート:「このまま押し切れば、いずれ!」
ハル:幾重にも火花を散らしながら、それでも余裕の表情は崩れない。
ハル:「……あっ」
ハル:不意にぴたり、と、その動きが止まる。
ライルート:「えっ」つられて動きを止める。
ライルート:「……どうしました?」
ハル:「今日スパッツ履いてなかったわ」
ライルート:「な……は!?」
ライルート:「今それが試合に関係ありますか!」
ハル:一瞬で屈み込み、ライルートの視界から消える。
ハル:動揺の不意を突いて、膝裏から足払いを掛ける。
ライルート:手は完全に止まって。「うわっ」
ライルート:思い切り前のめりに膝をつく。
ライルート:「何を……」起き上がろうとして。
ハル:その眼前に、鈍く光る切っ先が突き付けられる。
ハル:「一本~」
ハル:にやりと笑って。
ハル:「僕の勝ち」
ライルート:「……」溜息を吐いて、剣を置く。
ライルート:「……褒められたやり方ではないですよ」
ライルート:「正道に悖る行いです」
ハル:「これが実戦でも同じことを言うの?キミは」
ハル:「首を斬られてから、ずるいよ~って文句言うつもり?」
ライルート:「誇りを捨ててまで勝とうとは思いません。それに」
ライルート:「私達が戦う、ロアテラの尖兵――エンブレイスは、意思疎通不能の怪物です」
ライルート:「そのような手管を使ってくるわけではないでしょう」
ハル:「そうかな?擬態や人質くらいはあるかもしれないじゃん」
ライルート:「それは……見破ります」
ハル:「今出来なかったのに~?」半目になって
ハル:「誇りがあるって言うなら、猶更汚い手なんかに負けちゃいけないんじゃないのかなあ」
ライルート:「これは剣の訓練です。そういう振舞ばかりされては、剣の訓練には……」
ライルート:「というより!」
ライルート:見上げる。
ライルート:「どうしてハルさんはそうなんですか」
ライルート:「ぜんぜん真面目に取り合わず……」
ハル:「僕は真面目だよぉ。訓練だってこうして付き合ってるじゃん」頭の後ろで手を組む。
ハル:「大体、ライくんが真面目すぎるんじゃないの?訓練以外のことも知らないと、強くなれないよ?」
ライルート:上体を逸らしたためか、スカートの裾が翻りそうになり。
ライルート:目をそらして立ち上がる。
ライルート:「……必要ありません」
ライルート:「むしろ足りないくらいです。訓練が」
ハル:「そもそも、あの程度で動揺するのが悪いよ」
ハル:「君さあ、彼女の一人くらいいないの?モテるでしょ」
ライルート:「……どうにもそういう風に見られていることは知っていますが」
ライルート:「生憎とうつつを抜かすつもりはありません」
ライルート:「騎士が清貧を保たずしてなんとしますか」
ハル:「せっかくこんな世界に来たのにそれだもんね」
ハル:「クラスでも浮いてるじゃん。行ったことある?カラオケとか」
ライルート:「来てしまった、です」
ライルート:「ありませんが……」
ライルート:「詩を吟じ合う催しでしょう。貴族の子女の行いです」
ライルート:「一介の騎士には無用なものかと」
ハル:「ライくんだって今は学生のくせにー」
ライルート:「ハルさんはあるんですか」
ハル:「僕はあるよ?キミと違って友達多いし」
ライルート:「……」押し黙る。
ハル:「ほら、見る?」
ライルート:「見る?何を」
ハル:スマートフォンのカメラロールに入った友人との写真をスライドして見せる。
ライルート:「あ、遊び呆けている……」
ハル:「失敬だな君は……学生ならこの程度普通だよ」
ライルート:「普通の学生がそうだとして。我々が普通になるわけには行かないでしょう」
ライルート:「星の騎士として、この世界の女神に選ばれた存在です」
ライルート:「使命に邁進し、故国を取り戻す事を第一義に……」
ハル:「これだよ」芝居めかしてかぶりを振る。
ハル:「だいたい、訓練場に篭ってばかりの世間知らずの騎士より、外界で見識を広めている騎士の方が強そうだと思わない?」
ライルート:「それはありません」
ライルート:「ハル・メリアよりも精強なる騎士が、そこらで見つかると思いませんから」
ライルート:「君と戦うのが一番目的達成に近いでしょう」
ハル:「平行線だなあ」嘆息して。
ハル:「ライくんには期待してるんだから、頑張ってほしいんだけどなあ」
ハル:「君はいずれ、きっと僕より強くなるからね」
ライルート:「……全くそうは思えませんが」
ライルート:「ハルさんに敵う者など、誰も居なかったのに」
ハル:「僕が言うんだから、間違いないよ」
ハル:「君より強い僕がね。僕が嘘をついたことがあったかい?」
ライルート:「……いつもすぐつくでしょう」
ライルート:「何度騙されたことか……」
ハル:「あ、さっきのは本当だよ?ほら」スカートをたくし上げる。
ライルート:「や……やめなさい!」
ライルート:「年頃の!子女が!」
ハル:「ウッソ~~」けらけら笑う。スカートの下には生地の厚いスパッツを履いている。
ライルート:「……」
ライルート:「……」
ライルート:黙ってムスッとする。
ハル:「あ、怒った?」
ライルート:「怒っていませんが」
ハル:「怒ってるじゃん」
ライルート:「怒っていませんが……一つ忠告をするのであれば」
ライルート:「たとえその下衣を身につけていたとしても、捲るのは止すべきです」
ハル:「なんで?」
ハル:小首を傾げる。
ライルート:「その……不埒な振舞いだと思います」
ライルート:「そのように……振る舞うのは……」
ハル:「不埒!あははは!不埒か~!」
ハル:「ホントに真面目だねえ、ライくんは。黙っておけばまた見られるとか思わなかったんだ?」
ライルート:「な……」
ライルート:「思うわけがありません!そのような邪な振舞いをして」
ライルート:「そういうものを……見ようとは……あり得ません」
ハル:「へえ……邪なやり方じゃなければ見たいって気はあるんだ」
ハル:「意外だなー。やっぱライくんも男の子なんだねえ」
ライルート:「は、いや、そうではなく!」
ライルート:「むしろハルさんの振舞いを案じて……」
ハル:「あぁーはいはい。分かりました。肝に銘じておきます」
ハル:「……でもキミ、ほんとに大丈夫なの?相手が女の子だった時とか……ちょっと本気で心配になってきたよ」
ハル:「よし、団長代理命令」ぱし、と手を叩いて
ライルート:「……なんです」
ハル:「一緒にカラオケにでも行こう」
ライルート:「身命を賭して。……」
ライルート:「……は?」
ハル:「決まりだね。じゃあ行こっか」
ライルート:「いや、その……」
ライルート:「こちらの詩については何も……」
ハル:「マイクはあるんだから歌えるでしょ。僕の聞いてるだけでもいいし」
ハル:「もう少し遊びと女の子に慣れてくれないと、いざという時に困るなあ」
ライルート:「なんですかいざとは……」
ハル:「……」
ライルート:「……ハルさん?」
ハル:「……もしかして、僕と一緒に遊ぶの、嫌?」
ハル:不安げな表情で顔を見つめる。
ライルート:「え?いや、そういう訳では……?」
ハル:「じゃあいいね。決まり」
ハル:パッと元の表情に戻る。
ハル:「さ、行こ行こ。遅くなると門限引っかかっちゃうよ。騎士としてまずいでしょ」
ライルート:「ええ……え」
ライルート:「今から!?」
ハル:「今からに決まってるよー。何かまずいことでもある?」
ライルート:「……いや……?」
ライルート:「たしかに別にありませんが……」
ライルート:どうせ普段も訓練を続けていただろうだけだ。
ハル:「それじゃあいいじゃん」
ライルート:「……ええ、まあ……」
ハル:ライルートの手を握り、引く。
ハル:「ほらぁ、早く行くよ?」
ライルート:「いやエスコートであれば私が……」
ハル:「知ってるの?場所」
ライルート:「……」
ライルート:せめてその手を引かれまいと、隣に並んだ。

紫のヒガンバナ

マリア・エルカサンドラ:エルカサンドラ家
マリア・エルカサンドラ:それは代々続く貴族の家系であり、その地位はすでに盤石の物である
マリア・エルカサンドラ:汚い手を使いうまく立ち回っていると噂するものもいるが……
マリア・エルカサンドラ:彼らの家系はいつだって正々堂々と、強く生きてきただけなのだ
マリア・エルカサンドラ:だがそんなエルカサンドラ家に生まれたマリア・エルカサンドラは一族始まって以来の問題児とされていた
マリア・エルカサンドラ:行動を起こせば問題を起こし、口を開けばわがまま放題
マリア・エルカサンドラ:エルカサンドラ家にふさわしくないと言う従者すらいた。
マリア・エルカサンドラ:~マリア・エルカサンドラの部屋~
マリア・エルカサンドラ:「誰かー、誰か来なさーい!」
マリア・エルカサンドラ:「ケーキと紅茶を用意するのよ!!いますぐ!!30秒よ!!」
リシャール・ギー:「はいはい、お嬢さん。お呼びで?」
リシャール・ギー:その手には緑茶が握られている。
リシャール・ギー:盆すら使っていない。
マリア・エルカサンドラ:「わあ、見て、茶柱が立っているわ。うふふ」
リシャール・ギー:「そりゃ、めでたい」
マリア・エルカサンドラ:「違う!!!」
リシャール・ギー:「おおっと」
マリア・エルカサンドラ:「こ・う・ち・ゃ!!ミルクティー!!!ノーグリーンティー!!!」
リシャール・ギー:「あ〜〜……紅茶…お紅茶すね……じゃあ、ちょいとお待ちを」
リシャール・ギー:そう言って部屋を出ていき…
リシャール・ギー:30秒。
リシャール・ギー:まだ戻ってこない。
マリア・エルカサンドラ:「……」
リシャール・ギー:1分。まだだ。2分。まだ。3分。
リシャール・ギー:…たっぷり5分かけて、彼は戻ってきた。
マリア・エルカサンドラ:「……遅い」
リシャール・ギー:銀色の盆に乗った皿とソーサー。その上のショートケーキと紅茶。
リシャール・ギー:紅茶はそれはそれは良い香りを立てている。
マリア・エルカサンドラ:「わぁ……」
マリア・エルカサンドラ:「まあ、いいわ、この際時間のことは不問にしてあげましょう。わたくしは優しいですからね!!」
リシャール・ギー:「そりゃあ、ありがとうございます」
マリア・エルカサンドラ:「青空のように澄み切って広い心を持っているのよわたくしは」
リシャール・ギー:「よおく存じておりますとも」
リシャール・ギー:「是非お召し上がりを。結構いい茶葉なんですよ」
マリア・エルカサンドラ:「だいたいわたくしが緑茶を命じたことは一度もないでしょうに、どうしていの一番に持ってくるのが緑茶なのかしら」
マリア・エルカサンドラ:「どうしてあの迅速さを最初からここに活かせないのか、まずはそこを改善なさいね!」飲む
リシャール・ギー:「そりゃ、おれが緑茶派だからですね」
リシャール・ギー:お茶はめちゃ熱い。
マリア・エルカサンドラ:「あぁあっつぅいッ!!!」
リシャール・ギー:「おおっと、大丈夫ですかい」
リシャール・ギー:「氷。いります?」
リシャール・ギー:特に側に氷はない。
マリア・エルカサンドラ:「いくら熱くてもホットの紅茶に氷入れることないでしょうが!!そもそもないし!!」
マリア・エルカサンドラ:「というかミルクティーをどうやったらこんなアツアツのまま出せるのよ!逆に才能があるんじゃなくて!?」
リシャール・ギー:「いやあ、しっかり鍋で煮て出来立てのを持ってきたんでさ」
リシャール・ギー:「もう少し冷ます時間を取った方が良かったですかね?」
マリア・エルカサンドラ:「紅茶が美味しい温度って70度だって知ってまして?」
マリア・エルカサンドラ:「まあ冷ませばいいわ!ケーキよケーキ!」食べる
リシャール・ギー:「そりゃ、失礼を」
リシャール・ギー:「ああ、そのケーキ」
リシャール・ギー:「パティシエ曰く、特別製だそうで」
リシャール・ギー:「いやあ、お嬢さんが羨ましいです」
マリア・エルカサンドラ:「ふふん、あげないわよ」
リシャール・ギー:ケーキは……なんか、からい。
リシャール・ギー:スパイスが効いている。
マリア・エルカサンドラ:「……ごほっ!げっほっ!!」
マリア・エルカサンドラ:「え、なんですのこれ!?」
リシャール・ギー:「え?」
マリア・エルカサンドラ:「聞いていいかしら」
マリア・エルカサンドラ:「パティシエとあなたと、頭がおかしいのはどっち?」
リシャール・ギー:「あー……そういやあ、それ」
リシャール・ギー:「新しく開発した薬膳ケーキ、らしいすよ」
マリア・エルカサンドラ:「薬膳」
リシャール・ギー:「なんでも体に良い薬草、薬味をたっぷり使ったとか」
リシャール・ギー:「そりゃあもう美味しいんだろうと思いましてね」
リシャール・ギー:「真っ先にお持ちしたわけですよ」
マリア・エルカサンドラ:「なるほどね、確かにケーキにも健康志向は必要よね」
マリア・エルカサンドラ:「味が!!台無し!!!」
リシャール・ギー:「あれえ?おっかしいなあ……」
リシャール・ギー:クリームを指で掬って。
リシャール・ギー:「……いや、美味いじゃないすか」
リシャール・ギー:味覚が異世界。
マリア・エルカサンドラ:「頭がおかしいのはパティシエとあなたの両方だったわけね」
マリア・エルカサンドラ:「ちょっと想定外だったわ」
リシャール・ギー:「いやあ、照れますって」
マリア・エルカサンドラ:「あなたなんでも褒め言葉として受け取ってくれそうね。罵詈雑言を放ってもよろしいかしら?」
リシャール・ギー:「え〜おれにだって傷つく心はあるんすよ?」
リシャール・ギー:へらへらしている。
マリア・エルカサンドラ:「なるほどね、じゃあ物理的に傷つかないうちに適温のミルクティーと甘いケーキを今すぐ用意して。もう一時間とかかからなければいいから」
リシャール・ギー:「さすがはお嬢さん。めっちゃお優しい」
リシャール・ギー:「じゃあ行って参ります、くつろいでてください」
リシャール・ギー:部屋を出ていく。
マリア・エルカサンドラ:「……」
マリア・エルカサンドラ:「……」思案
マリア・エルカサンドラ:「決めたわ」
マリア・エルカサンドラ:「わざわざ薬膳ケーキなんてものを作ってしまうくらい、パティシエは疲れているのかもしれない」
マリア・エルカサンドラ:「少しの休養と待遇の改善、そして美味しい薬膳ケーキの作り方を打診しましょう」
リシャール・ギー:少しして、戻ってくる。
リシャール・ギー:10分ほどだろうか。
マリア・エルカサンドラ:「まあちょっとその分しわ寄せがきてしまうかもしれないけどそこはなんとか……って」
マリア・エルカサンドラ:「思ったより早かったわね、今度は3時間かけてくるかと思ったわ」
リシャール・ギー:今度はティーカートにケーキスタンドとミルクティーを乗せてきている。
リシャール・ギー:「まあ、それなりにやればそれなりにできますよって」
リシャール・ギー:「今度はお気に召すと良いんですが」
マリア・エルカサンドラ:「いただくわ」
マリア・エルカサンドラ:「リシャール!!薬膳ケーキを作ったパティシエには休みを与えなさい!!そして他のパティシエには全員美味しい薬膳ケーキを作らせなさい!!」
リシャール・ギー:「りょーかいしましたっと。ちゃんとその旨お伝えしてきます」
リシャール・ギー:今度はミルクティーもケーキもまともだった。
リシャール・ギー:それどころかとても美味しい。
マリア・エルカサンドラ:「そうよ……これが欲しかったのよ」
マリア・エルカサンドラ:「なんで最初からこれが出ないのかと思わされるけど、まあよろしい」
リシャール・ギー:「んー」
マリア・エルカサンドラ:「なによ」
リシャール・ギー:「や、ありがとうございます、お嬢さん」
リシャール・ギー:へらりと笑う。
マリア・エルカサンドラ:「はあ?何がよ?」
リシャール・ギー:「やっぱ嬢さんは人の上に立つべき器だなあと」
リシャール・ギー:「そう思ったわけですよ」
マリア・エルカサンドラ:「また調子のいいことを言って……」
リシャール・ギー:「…マジですって」
リシャール・ギー:「あんたはこの世の光だ」
マリア・エルカサンドラ:「いい?わたくしはこんなケーキを作るパティシエが気に入らなかっただけ!そしてどうせ作るなら全員で協力して美味しいものを作らせるべきだと思っただけ!」
マリア・エルカサンドラ:「……今のわたくしでは、こんな我を通すやりかたでしか何かを変えられない」
マリア・エルカサンドラ:「でも、それでも変えられるべきを変えていこうとするきっかけを作るのが、今のわたくしにできること」
リシャール・ギー:「…へへ」
リシャール・ギー:「ガンガン我を通してくださいよ」
リシャール・ギー:「おれ、全力で戦いますから」
リシャール・ギー:「……時々は、」
マリア・エルカサンドラ:「……?」
リシャール・ギー:「いや、いいんです」
リシャール・ギー:「まあ、嬢さんを退屈させる気だけはないんで」
リシャール・ギー:「楽しみにしといてください」
マリア・エルカサンドラ:「確かに退屈はしないけど」
マリア・エルカサンドラ:「紅茶が熱かったのはなんの関係もなかったわよね!?」
リシャール・ギー:「いや〜〜」
リシャール・ギー:「ちょーっとしたサボ…遊び心ですって」
マリア・エルカサンドラ:「……はあ……」
マリア・エルカサンドラ:「……世界は輝きに満ちている。誰だってきっと、もっと良い世界を作りたいに決まってる」
マリア・エルカサンドラ:「わたくしがわがままを言うことでそれを少しでも変えられるなら、例えどう思われようと構わない」
マリア・エルカサンドラ:「別に真面目になんて言わないわ。リシャール」
マリア・エルカサンドラ:「わたくしは、あなたが同じ夢を持っていると知っているのですから」
リシャール・ギー:「……うん」
リシャール・ギー:「おれは、あんたを守りますよ」
リシャール・ギー:「その輝きが曇らんようにね」
マリア・エルカサンドラ:「ええ、ついてきなさい」
リシャール・ギー:「お望みのままに、我が君」
マリア・エルカサンドラ:「ええ、あなたがわたくしのわがままの真意を見抜いたように」
マリア・エルカサンドラ:「わたくしとて、あなたの真意は見えているつもりですから」

白のオダマキ

ミシェル:シトラ女学院、学生寮。外界から隔絶された、少女たちの住まう場所。
ミシェル:その一室、よく陽の差し込む角部屋に、十近くも歳の離れた、二人の少女が暮らしている。
ミシェル:一人はまだ幼く、小さい。そしてその両の眼は閉ざされ、開かれることはない。
ミシェル:陶器のような白い肌、銀糸のカーテンのような髪の下。たとえその瞼を上げたとしても、ガラス玉のように何も映しはしないだろう。
ミシェル:少女の名はミシェル・シュクロウプ。彼女は生まれついての盲目だった。
ミシェル:「ねえ、ユミナ」
ユミナ・イチノセ:「どうしたのミシェルちゃん!?結婚する!?」
ミシェル:「ううん、しないわ」
ミシェル:かぶりを振る。僅かに掠れがかった、鈴の揺れるような声。
ユミナ・イチノセ:「あ、はい。で、どうしたの?」
ミシェル:「この前買って貰ったこれ、とても良いわ」
ミシェル:そう言って抱えるのは、小さな黄緑色のビーズクッション。
ミシェル:ぎゅむぎゅむと揉んで形を変える。目が見えない分、触って楽しめるものを集めるのが趣味だ。
ユミナ・イチノセ:「あっいいでしょうそれ、黄緑色でね、ミシェルちゃんによく合うと思って買ったんですよ!」
ユミナ・イチノセ:「はぁー……私もミシェルちゃんにもみくちゃにされたい……」
ミシェル:「黄緑……そうなのね」クッションを撫でる。
ミシェル:「すべすべで柔らかくて、でもぎゅっとすると固くなって、不思議な感じ」
ミシェル:「ずっと触っていても飽きないわ。ありがとう、ユミナ」
ミシェル:声のする方ににこりと笑い掛ける。
ユミナ・イチノセ:「どういたしまして!ミシェルちゃんに喜んでもらえて本当によかったです!」
ミシェル:「ユミナったら。いつも大袈裟なのだから」可笑しそうにくすくす笑う。
ユミナ・イチノセ:「大袈裟なんかじゃないですよ本当に、ミシェルちゃんが喜んでくれるんなら私空でも飛びますとも」
ミシェル:「まあ、空を?本当?楽しみ!」
ユミナ・イチノセ:「飛ぶか……空に……」
ユミナ・イチノセ:「あっそうだミシェルちゃん」
ミシェル:「ああでも、折角飛んでくれても、わたしでは分からないかも……」
ミシェル:「なあに、ユミナ?」
ユミナ・イチノセ:「せっかく褒めてもらえたので!いつものお願いします!」そっとミシェルの前に座って頭を差し出す
ミシェル:「そっか。忘れるところだったわね」
ミシェル:小さな掌を前に出す。少し宙を彷徨って、ユミナの頭の感触を見つける。
ミシェル:「えらい、えらい」
ミシェル:そうして、小さな子供にするように頭を撫でる。
ユミナ・イチノセ:「うぇっへへへへへ……もうね、飛んじゃう」
ミシェル:「よく頑張ってくれました。ユミナのお陰で、わたしはいつも助けられてばかりだわ」
ミシェル:「……少し、前より髪が痩せてるかも?疲れていない?ユミナ」
ユミナ・イチノセ:「なにをなにを!ミシェルちゃんがいてくれる限りユミナさんは無敵ですよ!」
ユミナ・イチノセ:「こうして撫でてもらえるだけでもうね、疲れも取れるし寿命も延びちゃう」
ミシェル:「本当に?すごいのね、ユミナは……」素直に感心している。
ユミナ:「ミシェルちゃんがいるからユミナさんは生きているようなもんですよ」
ユミナ:「すごいのもミシェルちゃんです」
ユミナ:「例え目が見えなくたってその心は真っすぐで、前を向いていて」
ユミナ:「肌は綺麗で体はすべすべで声はかわいくて」
ユミナ:「ほっぺはぷにぷにで身体は軽くてもう本当に天使のようで」
ユミナ:「ああーもうね、甘い香りもしますもんね、首筋とかもうね、ふーっふーっ」
ミシェル:「もう……やめて。褒め過ぎよ、ユミナ」くすぐったそうに笑う。
ミシェル:「髪や肌だって、あなたがいなかったら、わたし一人ではお手入れだって出来ないのよ」
ミシェル:「あなたはわたしのヒーローだわ…… あら、ユミナは女の人だから……ヒロインというのかしら?」
ユミナ:「ヒーロー……ヒロイン……」
ユミナ:「ふふ、それもミシェルちゃんですよ」優しく頭をなでる
ミシェル:「あっ……そうだわ」
ユミナ:「ミシェルちゃんを綺麗にしてあげるのはユミナさんの義務というかもはや人類の義務ですし、お洋服もユミナさん好みに……ごほっごほっ」
ミシェル:「ユミナ?」
ユミナ:「いえいえいえなんでもないんですよ!そのうちすけすけな服とかとかそういうことは全然思ってないですからね!!」
ミシェル:「すけすけ……?」ピンと来ていない。
ミシェル:「……あ、それでね。ユミナにひとつ、お願いがあるのだけれど。……いいかしら?」
ユミナ:「あ、いえいえ、それより何か用事ありました?」
ユミナ:「お菓子食べます?音楽聞きます?結婚します?」
ミシェル:「結婚はしないわ。この前ラジオでね、気になる話を聞いたの」
ミシェル:音楽とラジオも、ミシェルの趣味のひとつだ。
ユミナ:「ミシェルちゃんの気になる話はユミナさんも気になっちゃいますね」
ミシェル:「わたし、それに一度触ってみたくて……どうしても欲しいの」
ミシェル:「お手伝いしてくれるかしら?ユミナ」
ユミナ:「ほうほうほうなるほどなるほど」
ユミナ:「もちろんですとも!ミシェルちゃんが望むものだったらなんだって手に入れますからね!!」
ミシェル:「よかった!」両手を合わせて、嬉しそうに笑う。
ミシェル:「やっぱり、ユミナは頼りになるわね。わたしのお願いを、何でも叶えてくれるのね」
ユミナ:「ええそうですよ、本当に、ユミナさんはなんだってやりますからね、もう道具のように扱ってください」
ユミナ:「むしろ道具扱いして!雑に扱って!あっだめ、ミシェルちゃん!ああん!」
ミシェル:「お友達をそんな風に扱っては駄目よ、ユミナ」
ユミナ:「あ、はい、おっしゃる通りです」
ユミナ:「それで一体、何を?」
ミシェル:「ええ」
ミシェル:「クレナイオオイカリナマコよ」
ユミナ:「……」
ユミナ:「くれない、おおいかり、なまこ」
ミシェル:「ええ!」ニコニコ笑う。「世界最大のナマコなのですって」
ユミナ:「……」宇宙の真理を覗いたかのような顔
ユミナ:すぐさまスマホでチェックする
ミシェル:「ナマコって、ぶよぶよしてぐにゃぐにゃしているのでしょう?」
ミシェル:「でもクレナイオオイカリナマコには、固い骨もあるのよ」
ユミナ:「……なるほど」
ミシェル:「触ったら一体、どんな感じなのかしら……とっても気になると思わない?」
ユミナ:「いや、ユミナさんちょっと触手ものはどうかと……」
ユミナ:「あっ違う、間違えた」
ユミナ:「確かに興味はそそられないことはないかもですけど……これは……ちょっとあんまり触るべきでは……」
ミシェル:「……そうなの……?」眉を下げる。
ミシェル:「……そうね。ユミナがそう言うなら……やめておいたほうがいいわね」
ミシェル:「ごめんなさい、無理を言ってしまって……」
ミシェル:しょんぼりした様子でかぶりを振る。
ユミナ:「……い、いえ、ちょっと待ってくださいね」
ユミナ:「……毒はないし……気を付ければ怪我もしないか……ええと……」
ユミナ:「いえ、いえ!平気です!なんとかしますとも!」
ミシェル:「本当!?」明るい笑顔になって
ミシェル:「やったぁ!流石ユミナね!」
ユミナ:「どこいるんだこれ……奄美大島か……一日で行けるか……?輸送は……連れて行った方がいいか……?」
ミシェル:「それじゃあ、一緒に海に行って、捕まえましょうね!」
ユミナ:「あ、行く気満々なんですね!さすがミシェルちゃん!!」
ミシェル:「海に行くのも初めてだわ。しょっぱいのよね?」
ユミナ:「ええそれはもう、あ、でも飲んじゃだめですよ」
ユミナ:「いや、でも舐めるくらいならまあ……でもどうせ舐めるならユミナさんを舐めてもらって……」
ミシェル:「そうなの?でも、海って大きいのよね?少しくらい飲んでも無くならないんじゃないかしら?」
ユミナ:「いやいやほら、海って飲み水とは全然違いますから」
ユミナ:「本当にしょっぱいですし、お腹壊しちゃいますよ」
ミシェル:「お腹を壊すのは嫌ね……」
ユミナ:「……さすがにダイビングはできないだろうから、なんとか私が見つけて引き上げるしかないか……見つけられなかった時のために体験コーナーがある水族館も手配して……」
ミシェル:「海といえば、しょっぱくて、大きくて……あとは何だったかしら?そう、確か……お弁当を鳥に攫われるのよね?」
ミシェル:「楽しそうだわ。わたしもお弁当を攫われてみたいわね」
ユミナ:「いやいやお弁当減っちゃいますからね」
ユミナ:「攫われたいというなら弁当と言わずミシェルちゃんごとユミナさんが攫ってきゃっきゃうふふと……」
ミシェル:「?攫わなくても、わたしはユミナとずっと一緒じゃない」
ミシェル:不思議そうに首を傾げる。
ユミナ:「……」
ユミナ:「ほんとだ……」
ミシェル:「ユミナって、本当に面白い人ね」くすりと笑って。
ユミナ:「えへへ」
ユミナ:「(そうやって笑っている顔を見ると……本当にあなたのお母様のことを思い出します)」
ユミナ:「(……我ながら難儀ですよね、初恋の相手が人妻は……そして、永遠に手の届かない存在になってしまった)」
ユミナ:「ミシェルちゃんが笑っていてくれるなら、ユミナさんは本当に幸せですからね」
ミシェル:「それじゃあ、わたしはいつも笑っていないといけないわね」楽しそうに言って
ミシェル:「そうだわ、今日は早く寝ないといけないわね」
ユミナ:「(ミシェルちゃんは決してあの人の代わりじゃない。だからこそ、私はあの人の代わりにミシェルちゃんを笑顔にしないと)」
ユミナ:「ええ、いつでも笑っていてください……?」
ユミナ:「早く寝るんですか?何かありましたっけ?」
ミシェル:「?」
ミシェル:「だって、明日は海に行くのでしょう?」
ミシェル:「よく寝て備えないといけないわ。そうだ、途中で聞くお歌も選ばなくちゃ……」
ユミナ:「行動力の化身!!」
ユミナ:「いえいえ大丈夫です!ユミナさんちゃんと手配しますからね!!任せておいてください!!」
ミシェル:「楽しみだわ!よろしくお願いね、ユミナ!」
ユミナ:「だからミシェルちゃん、いつでもとびっきりの笑顔と、ご褒美のなでなで、してくださいね!」
ユミナ:「ユミナさん的にはおまけにちゅっちゅとかぺろぺろとかエンゲージリングとか結婚とか初夜とかそういうのがあっても大歓迎ですけども!」
ミシェル:「結婚はしないけど。行きましょうね、一緒に!」
ユミナ:「ふふ、はい!」

黒のアネモネ

芳乃百夏:アーセルトレイ公立大学。
芳乃百夏:黒いスーツに膝上のタイトなスカート。
芳乃百夏:影のある装いの少女が、校門を出る。
芳乃百夏:「……じゃあ、帰ろうか」
芳乃百夏:独り言のように呟かれた言葉。
カーラ:ふ、と。何もなかったはずの虚空に、白衣の男。
カーラ:最初からそこに居たのかのように、灰色の陰鬱そうな男が傍らにある。
芳乃百夏:その姿を見て、ふわり、と微笑む。傍目には、さして変わらないが。
芳乃百夏:「今日は、どうする?」
芳乃百夏:「またいつものパン屋に寄ってく?」
カーラ:「俺が決めることではない」
カーラ:「百夏。お前がしたいようにしろ」
カーラ:「俺はそれに従う」
芳乃百夏:「んん……じゃあねえ、じゃあね」
芳乃百夏:「一緒に食べに行こう」
芳乃百夏:「最近、美味しいお店が開いたんだって」
カーラ:「ほう?」
芳乃百夏:「ほら、これ」クチコミサイトを携帯で見せる。
芳乃百夏:洒落た店内が映っている。
芳乃百夏:料理の盛り付けも美しい。
カーラ:「ふん……この学府の近くの店に、さほど期待はしていないが」
カーラ:「見目が麗しくてもな。問題は味と、何より栄養だ」
カーラ:「お前の体に合うものがあればいいがな」
芳乃百夏:「あはは。カーラは相変わらずだねえ」
カーラ:「俺に変わってほしいか?」
芳乃百夏:「ううん」
芳乃百夏:「そのままがいいな」
芳乃百夏:「そのままがいいよ」
カーラ:「お前が望むならそうするが。……そうか」
カーラ:「であれば、俺は変わらずに居るとしよう」
芳乃百夏:「大丈夫、きっと美味しいよ。百夏さんは結構嗅覚が鋭いの」
芳乃百夏:「ふふふ」
カーラ:「そうか。お前は確かに、引き当てる」
芳乃百夏:そして。
芳乃百夏:料理店・アーセルトレイ・ド・リュヌ
芳乃百夏:席に座って肘を突き、ぼんやりとカーラの方を見ている。
カーラ:「……なんだ」
芳乃百夏:「見てたの」
芳乃百夏:「好きだなあって」
カーラ:「……俺を?それは……」
カーラ:「いい趣味だな」無機質に返して。
芳乃百夏:「でしょう」目を細めて笑う。
芳乃百夏:穏やかな笑顔。しかし、どこか影がつきまとう。
カーラ:「それは、俺からもそう返答があることを期待しているのか?」
芳乃百夏:「え〜、してないよ?あったら、嬉しいけど」
芳乃百夏:「カーラはあんまりそういうの言わないでしょ」
カーラ:「ああ。そのような言葉を、俺が使うことはない」
芳乃百夏:「うん」
芳乃百夏:カラン。水が入っていたグラスの氷が落ちる。
芳乃百夏:「ああ…ほら、料理」
芳乃百夏:料理が運ばれてくる。鶏のガランティーヌ。
カーラ:「……ああ」マセドワーヌ・ボンヌ・ファム。豆類を煮込んだスープ。
芳乃百夏:「……豆、好き?」
芳乃百夏:「結構よく食べてるよね」
芳乃百夏:ナイフで肉を切り分けながら。
カーラ:「……命を喰らうのは、自分で仕留めたものだけと決めている」
カーラ:「本来であれば、肉食自体を禁じてはいたがな。探検ではそうも言ってられん」
芳乃百夏:「そっか。そうだよね」
芳乃百夏:「私は、そういうの全然ないけど」
芳乃百夏:「クレリック……だものね」
カーラ:「百夏はそれでいい」
カーラ:「俺が仰ぐべき神も、もはやない。この戒律に意味などあるものか」
カーラ:「ただの郷愁のようなものだ」
芳乃百夏:「…郷愁、かあ」
芳乃百夏:「懐かしいよね。お母さんがいて、お父さんがいて、結衣がいて、智がいて」
芳乃百夏:「ドーラがいて、カインがいて、ミントがいて。……今はいない」
カーラ:「……」
芳乃百夏:暗い瞳は、あなたを映している。
カーラ:その瞳を見返して。
カーラ:「百夏。眠れているか?」
芳乃百夏:「眠れ……てるよお」ほんの少し、目が泳ぐ。目の下には薄い隈。
カーラ:「顔色が悪い。お前の美しい顔に翳りをもたらしているぞ」平坦なトーンで。
芳乃百夏:「ぴっ……」
芳乃百夏:顔が赤くなる。
カーラ:「俺の前で下らぬ嘘を吐くな……」
芳乃百夏:「ご、ごめん…なさい」
芳乃百夏:「じゃあじゃあ。寝るとき側にいてよ。カーラが」
芳乃百夏:「それならよく眠れるし」
カーラ:「……」(まだ、残っては居るか)
カーラ:(人らしき情動が……)「……却下だ」
カーラ:「俺がそうしてやった時の、お前の振舞いを忘れたか?」
芳乃百夏:「………えっと……あれは、ですね……」
カーラ:「顔が見たい、まだ眠りたくない」
カーラ:「逆効果だ」
芳乃百夏:「だ、だってカーラの顔見てると落ち着くから…」
カーラ:「顔が見えずとも」
カーラ:「姿が見えずとも。俺はお前の傍を離れることはない」
カーラ:「それでは不服か?」
芳乃百夏:(ああ)(ぎゅうってしたいなあ)
芳乃百夏:外なので、それはしないが。
芳乃百夏:「…勿論、いてくれるのは知ってる」
芳乃百夏:「だけど……」
芳乃百夏:「あなたの姿が見えないと、」
芳乃百夏:「この世にひとりぼっちだと思う」
カーラ:「……俺を使うときも、そう思っているのか?」
カーラ:「星の騎士として、立つときも」
芳乃百夏:「……ううん」
芳乃百夏:「あのときは」「あなたが一番近くにいるときだから」
芳乃百夏:まるで、ひとつになったような気がして。
芳乃百夏:「嬉しい」
カーラ:「……そうか」
カーラ:「また奴らが来るぞ。凶兆が見えた」
芳乃百夏:「……そっか。今回は誰と一緒に戦うんだろう」
芳乃百夏:ステラバトルの時は、いつも二人の仲間が側にいる。
芳乃百夏:……嫌いではない。
カーラ:「……」押し黙る。決闘場に咲く、花の数は見えている。
カーラ:舞台の中央に咲くは、一輪の歪な黒のアネモネ。
カーラ:それだけであると。
カーラ:「……行けば分かるだろうな」
芳乃百夏:「そうだね。……うん」
芳乃百夏:「大丈夫だよ」
芳乃百夏:「カーラがいてくれるなら」
芳乃百夏:「それで、私は生きられるから」
芳乃百夏:ナイフとフォークを置く。
カーラ:「……そうか。だが、待て」
カーラ:「それだけで生きられるわけがないだろう。食事を……」
芳乃百夏:「もうお腹いっぱいだし……」
芳乃百夏:「美味しかったけど、ちょっとだけ多かったかな」
芳乃百夏:半分ほど、残している。
カーラ:「全然食べていないだろう」
カーラ:「食事は資本だ。それを疎かにしては立ち行かなくなるぞ」
芳乃百夏:「んうぅ」
芳乃百夏:しぶしぶ、ナイフとフォークを手に取る。
芳乃百夏:「カーラ、時々お父さんみたいになる」
カーラ:「残さず食えば、お前に称賛の声があるだろうな」
カーラ:「……父か」
芳乃百夏:「……」もぐもぐ。少しずつ食べている。
カーラ:「……お前に精をつけさせるためなら、父親とだろうが振る舞ってやろうとも」
芳乃百夏:「……ふふ」軽く、口を親指で拭って。
芳乃百夏:「いつも、私のこと考えてくれてる」
芳乃百夏:「……嬉しい」
カーラ:「それは何よりだな」
芳乃百夏:(屹度、貴方の肉であれば)
芳乃百夏:(幾らでも食べられるのに)
芳乃百夏:「ねえカーラ」
カーラ:白い指がスプーンを操って、スープを掬い。
カーラ:それを口へと運んで。「……なんだ」
芳乃百夏:「ずっと私のことだけ考えていてくれる?」
芳乃百夏:首を軽く傾げて、微笑む。
カーラ:「……ああ、そうしているとも」
カーラ:「俺にはお前以外居ないのだからな」
芳乃百夏:「うふふ」
芳乃百夏:「私もだよ」
芳乃百夏:「あなたのことだけ、考えてる」
芳乃百夏:「ずっと」
芳乃百夏:「ずうっと」
芳乃百夏:その目は暗く輝いている。
カーラ:(……お前は失いすぎている)
カーラ:(俺に父を求めるようにまでなって)
カーラ:(次は何であることを求める?)
カーラ:「ずっとか。そうであるためには」
カーラ:「お前が健康でなくてはな」
芳乃百夏:「……はあい」
カーラ:「肉を食え。正しく眠れ。外を出歩け」
カーラ:「その全てに俺は付き従おう」
芳乃百夏:「…じゃあ、食べる」
芳乃百夏:「…だからそばにいてね」
芳乃百夏:(いつかは)
芳乃百夏:(あなただけの笑顔を、わたしに見せてね)

第二章

青のバラ

ライルート:いつもの訓練場。
ライルート:思い切り振りかぶった一撃は空を切り、小手を突かれて剣を取り落した。
ライルート:「く……」
ハル:「はい1」
ハル:腿に仕込んだ訓練用のナイフが、ライルートの掌をつつく。
ハル:「2~~……」
ハル:腕の腱に沿って刃を滑らせ、
ハル:「3ね」喉元に切っ先を突きつける。
ハル:「……ライくんさ、集中できてないんじゃないのー?」
ライルート:「……」剣を取り戻そうとした手を止める。
ライルート:「……そういう訳では……」
ハル:握った手を広げると、さらさらと砂が零れ落ちる。目潰し用に用意していたものだ。
ハル:「もうすぐステラバトルなのに、そんな調子じゃ心配だな」
ライルート:「ただ……分からなくなってます」
ハル:手を払いつつ「何が?」
ライルート:そんなものまで用意していたのか、とでもいいたげに顔をしかめて。
ライルート:「ハルさんにどうすれば追いつけるのか……」
ライルート:「その道行きが描けていません」
ハル:「うーん……そうだね」
ハル:「……ライくんはさ、どうして騎士になったの?」
ライルート:「シュオレグナードは、代々騎士の家柄です」
ライルート:「私も父祖に恥じぬように、と」
ハル:「家のことが好き?騎士だった君の家族と先祖のこと」
ライルート:「ええ。誇りに思っています」
ハル:「誇りかあ」少し笑って。
ハル:「なら、大丈夫かな」
ライルート:「……それが、何なんです?どういう意味ですか?」
ハル:「……ね、ライくん。この後時間あるかな?」
ライルート:「え?ええ……」
ハル:「よかった。キミに見せたいものがあるの」
ライルート:「今度はなんです。またカラオケですか?」
ライルート:「あれが強さにつながっているとは、どうにも考え難かったですが」
ハル:「ううん」かぶりを振って「僕の部屋だよ」
ライルート:「そうですか、ハルさんの……」
ライルート:「……はい?」
ハル:「付いてきてくれる?あんまり遠くないからさ」
ライルート:「えっいやっ、待ってください」
ハル:「どうしたの」
ハル:歩き出そうとして振り向く。
ライルート:「どうしたではないでしょう……!」
ライルート:「未婚の淑女が、男性を部屋になど招くものではないでしょう」
ハル:「……え~?やだなー、ライくん」
ハル:冗談めかして身体の前面を腕で隠す。
ハル:「そんなえっちなこと考えてるの?」
ハル:「何されちゃうのかなー、僕」
ライルート:「は……はあ!?」
ライルート:「いや違、そういう邪なことを……考え」
ライルート:「私が考えるとかではなく!」
ライルート:「振舞いを……!」
ハル:「別に、誰にでもこんなことしてるわけじゃないよ?」
ハル:首を傾げる。
ハル:「ライくんはしないんでしょ?じゃあ、大丈夫じゃん」
ライルート:「……そうですけど……」
ライルート:「まあ、誰にでもしないのであればそうとやかくは……」
ライルート:「ううん……」
ハル:「真面目な話があるんだよ。外では出来ない話」
ハル:「それとも、ライくんの部屋に行く?」
ライルート:「……」その目を見て。
ライルート:「男子寮にハルさんを連れていくわけには」
ライルート:「……分かりました。君が真面目な話だというのなら」
ライルート:「行けばいいんでしょう」
ハル:「うん。ありがと」
ハル:微笑して、その手を取る。
ハル:「じゃ、行こっか」
ライルート:またこれか……と思いながら、引かれないように横に立つ。

ハル:ハル・メリア・マグノリアの部屋は、学生寮でなく通常の集合住宅の一室だった。
ハル:少女らしい小物の類に、主に剣に関する蔵書、衣類を仕舞うタンスが多い。意外にもきちんと片付いている。
ライルート:「片付いている……」意外そうに言う。
ハル:「何だと思ってるのさ、人のことを」
ハル:「ごめんね、椅子無いんだ。そこ座ってくれる?」部屋の端、一人用のベッドを示す。
ライルート:「いやハルさんのことなので……はっ?」
ライルート:「いや寝台には流石に……別に床でいいですよ」床に座る。
ハル:「いや、だってね」
ハル:ベッドに膝で乗り上げるようにして、その先、傾いた西日の射しこんできている窓に、遮光カーテンを引く。
ライルート:それを見上げるようにして。「だって、何です」
ハル:それから、電灯のリモコンを手に取る。ピッ、という小さな音と共に、部屋は真っ暗になる。
ハル:「ほら、何も見えないでしょ」もう一度電気をつける。
ライルート:「ええ、見えませんが……それが?」
ライルート:「馬鹿にしているんですか……?電灯はそういうものでしょう」
ハル:「今から電気、消すから」
ライルート:「?」
ハル:「危ないから、こっち座ってて」ぽふぽふとベッドを叩く。
ライルート:「危ない……?」
ハル:「転んだりぶつけたりするでしょ」笑って。
ハル:「別に襲い掛かったりしないから、安心しなよ」
ライルート:「……いやそうは思っていませんけど……」渋々といった様子で座る。
ライルート:「……意図が読めません」
ライルート:「普段から読めませんけど……今は特に読めません」
ハル:「ん。ちょっと待ってて」
ライルート:柔らかな感触に落ち着かないな……と思いながら待つ。
ハル:頷いて、再び電気を消す。
ハル:真っ暗な闇が部屋を包む。遮光カーテンから僅かに漏れる光では、互いの輪郭程度しか分からない。
ハル:「……見えてないよね?」
ライルート:その輪郭をぼんやりと見つめている。
ライルート:「見えていませんが……」
ハル:「そっか。よかった」
ライルート:「何です?夜目を慣らす訓練ですか?」
ライルート:「ステラバトルに置いてそんな状況が起きるとは思い難いですけど」
ハル:「ダメだよ、慣らしちゃ」
ハル:「ちょっと待ってて」
ライルート:「ええ……?」
ハル:少しの間があって、やがて闇の中から、するすると小さな衣擦れの音が聞こえてくる。
ライルート:「ハルさん……?」
ハル:静かに落ちた布──まだ体温の残る上衣が、ライルートの手に当たる。
ライルート:「はっ?」
ライルート:「いや何してるんです……?」
ライルート:「ハルさん……?」
ハル:「……」
ハル:こつん、と顎に軽い衝撃。手の甲らしき固いものが当たる。
ハル:「あっ、ごめんね」
ライルート:「ごっ」
ライルート:「何なんですか……!?」
ハル:「……んー?」闇の中、伸びてきた手が身体をまさぐるように動く。
ハル:「ごめん、手、どこ?出して」
ライルート:「はい……?ここです」うごめくなにかに、とんとんと手を添える。
ハル:「ん」
ハル:その手をぎゅっと握って、ゆっくりと引く。
ライルート:「わっ」
ハル:掌が柔らかなものに触れる。滑らかな肌の感触。他人の体温。
ハル:そして、心臓の鼓動を感じる。
ライルート:「ハルさ、え、何、を」
ハル:握った掌をゆっくりと動かす。押し付けた肌の上を滑るようにして、やがて何か異質な感触に行き当たる。
ライルート:極力その温もりを感じないように心がけながらも、その感触に違和を覚える。
ライルート:顔は逸らしている。見えはしないのだが。
ハル:周囲の肌より固くて、突っ張ったような触感。
ハル:──傷跡。否、縫合された跡。
ハル:「……分かる?」
ライルート:「これ……」
ライルート:「……ええ。向こうでですよね?」
ハル:「うん」
ハル:「2、3年くらい前かな」
ハル:「大きくなってきちゃってさ」
ハル:「剣を振るのに邪魔だったから」
ライルート:「……知りませんでした……え」
ライルート:「え?」
ライルート:「戦傷ではないんですか……!?」
ハル:「うん。自分でやったの」
ハル:「反対側も同じだよ。触ってみる?」
ライルート:「なんで……」
ライルート:「なんで、そんな……」
ハル:「……」
ハル:「……僕の故郷ね、小さな村だったんだけど」
ハル:「騎士団崩れの盗賊に襲われて、みんな死んじゃったんだ」
ライルート:「……」
ハル:「それで、僕は剣を取るしかなかったんだ。まあ、よくある話でしょ?」
ライルート:「よくある話だとは思いますが。あって然るべき話だとは思いません」
ライルート:「私は、そういうものを無くすために、この剣を……」
ハル:「……それなんだよね」
ハル:微笑混じりの嘆息が聞こえる。
ハル:「僕は復讐の為に、ずっと剣を振り続けてきた」
ライルート:「……復讐」
ライルート:「であれば、今は……」
ハル:「うん」
ハル:「世界が滅ぶ少し前、ようやく念願を果たしたのさ」
ハル:「騎士団にとってはいつもと変わらない、討伐任務のひとつだったけど」
ハル:「僕にとっては、人生の目的を果たした瞬間だった」
ハル:「それで…………」
ハル:息を吐く。
ハル:「それで、その後は、何も無くなっちゃった」
ライルート:「……」
ハル:声色は軽い。闇の中、表情は見えない。
ハル:「……僕はね、ライくん。君が羨ましいよ」
ハル:「これから背だってもっと伸びる。身体の力は、もう僕よりも強いよ」
ハル:「訓練の時、まともに受けるのを避けてるの、気付いてるでしょ?」
ライルート:「え、ええ……」
ライルート:「……からかわれているのかと」
ハル:「……それにね、ライくん」
ハル:「僕にはもう何も無い。剣を振るう目的は失くしてしまった」
ハル:「女の子らしい幸せなんて、ある訳ないと思っていたから……こんなことをしたけれど」
ハル:「……今は、ちょっとだけ後悔してるかな」
ライルート:「何もない事はないでしょう。ステラナイツとして、共に剣を……」
ライルート:「故国を……」自分の言葉が滑っていくのを感じる。
ハル:「……だけどね、ライくん」
ハル:「君には希望がある」
ハル:「剣を振る目的が。戦う意味がある」
ハル:「単純な計算さ。考えてみてよ」
ハル:「僕の持ってる技を、ぜんぶ君に伝えられたとしたら……」
ハル:「戦う理由がある奴と、そうでない奴。どっちが強いかなんて、考えるまでもないよね」
ハル:「だから言ったのさ」
ハル:「君は、必ず僕より強くなれる」
ライルート:「ちが……違います、私は、ハルさんに技を教わりたいわけではなく」
ライルート:「君のように……気高く、自由に……」
ライルート:「いつも、優雅に、笑顔で、居られるような」
ライルート:「そういう……」顔を見る。暗くて見えない。
ハル:「……そんな風に思ってくれてたの?」
ハル:声だけが響く。
ライルート:黒く艶やかな髪も。吸い込まれそうな瑠璃色の瞳も。いつも絶やさぬ笑みも。
ライルート:「思っていました。それが……」
ライルート:「それが、ハルさんの重荷になっていましたか?」
ハル:「……まさか」
ハル:「言ったでしょ。期待してるんだよ、君に」
ハル:「君が、そんな風に思ってくれるなら──」
ハル:ベッドが軋み、ゆっくりと倒れるように体重を預ける。
ハル:「……ちょっとは、誇りに思えるかも」
ハル:「自分のことを。これまでにしてきた事が、無意味じゃなかったって思える」
ライルート:その身体を抱えるようにして支える。
ライルート:「私は、君に追いつきたいと。君を超えたいと思っていました」
ライルート:「だけど、それは、私の研鑽と、向上によってです」
ライルート:「ハルさんに、立ち止まっていてほしいわけではありません」
ハル:「……」
ライルート:「私の届かぬ理想で、ああ、いえ……」
ライルート:「これも身勝手かもしれませんが……その……」
ライルート:「何といいますか……」
ライルート:「これまでのように。そうあってほしいと願っています」
ハル:「……もう。めんどくさいなあ……」
ハル:「……ふふ」
ハル:言葉とは裏腹に、嬉しそうに。
ライルート:「……面倒です。言われ慣れています」
ライルート:「ですが、楽のために道を違える気はありません」
ハル:「あーあ」
ハル:「……また頑張らなきゃいけないじゃん」
ライルート:「あ、その、それが苦痛ならば」
ライルート:「無理をせよと言っているわけでは……」
ハル:「ばか」
ライルート:「な……」
ハル:軽く頭をはたく。
ライルート:「何故……」
ハル:「……じゃあ、証明してみせて」
ライルート:「……証明?」
ハル:「ステラバトルで勝ち続けて、僕に教えてほしいな」
ハル:「君がいつか、僕を越えられるって。誰より強い、本物の騎士になれるって」
ハル:「そうしたら、僕ももう少し、頑張れるかも」
ライルート:「ええ、必ずや。その時には、きっと」
ライルート:「ハル・メリア。君には、女の子らしい幸せを」
ライルート:「それを求められる世界を」
ハル:「うん……」
ハル:「……」
ハル:「……あれ、何、プロポーズ?今の」
ライルート:「……え」
ライルート:「はっ!?いや違っ」
ライルート:「そのような軽薄なものではなく……」
ライルート:「……」触れているものの感触を強く感じる。
ハル:「なーんだ、違うんだ」
ハル:「あーあ、やっぱ削らなきゃよかったなあ」
ライルート:「あっいや、その」
ハル:「元のままなら、今頃この距離ならライくんに押し付けられるくらいあったのにな」
ライルート:「魅力を感じていないとか、そういう意味ではなく!」
ライルート:「……っ」息を呑む音が漏れる。
ハル:「……」言いながら距離に気付く。
ハル:「……いつまで抱き締めてるのさ?」
ハル:「ライくんのエッチ」
ライルート:「やっ、わっ」ばっと離れて壁に頭を打つ。
ライルート:「違、違います!」
ライルート:「これはハルさんが……」
ハル:「あーあ、先が思いやられるなー」
ハル:暗闇で良かったと思う。こんな顔を見せるわけにはいかないから。
ハル:「ほら、着替えるから目瞑っててよ」
ハル:「あっち向いてて。電気つけるよ」
ライルート:「脱ぐ必要ありましたか……?」素直に目を閉じる。
ライルート:……脳裏に浮かぶものを振り払う。
ライルート:「私は騎士……」
ライルート:「本物の騎士は斯様なものは……」
ハル:下着を着けながら、その後ろ姿を見る。
ハル:いつか彼に、自分を越えてほしいと思う。けれどその一方で、ずっと今のままでありたいとも思う。
ハル:胸の内に相反する感情を抱えながら、ぶつぶつと呟く彼の姿に、くすりと笑みを浮かべた。

紫のヒガンバナ

リシャール:願いの決闘場。
リシャール:普段空のはずの花壇には3種の花が咲き乱れ。
リシャール:その庭園に足を踏み入れる大きな影と小さな影。
リシャール:「と、いうわけで」
リシャール:「下見です、嬢さん」
リシャール:たくさんの荷物をキャリー台に乗せている。
マリア:「ここが、決闘場なのね」
リシャール:「ええ、ええ。そうなりますね」
リシャール:「おれらが願いを叶えるために戦う場所」
リシャール:「未来への一歩です」
マリア:「……リシャール!わたくしがここでまず何をすべきか、何をしようとしているか、わかるかしら!」
リシャール:「お茶ですかい?」
リシャール:ポットと水筒を取り出している。
マリア:「お茶……」
マリア:「お茶……も……まあ、そうだけど!」
マリア:「ここに来たからには、ってことよ!」
リシャール:「さて。所信表明ってとこですかねえ。どーも下々なんでわかりやせんや」
マリア:「まあ、あえて問うてみただけよ」
マリア:そう言うとマリアは花壇の前にひざまずくように座り
マリア:祈りはじめる
リシャール:「……」
リシャール:腕を胸の前に置き、目を閉じる。
マリア:「ここは願いを叶えるための決闘場」
マリア:「でも、叶えられなかった者が大勢いる」
リシャール:「なが〜いこと戦い続けて」
リシャール:「願いを叶えらんねえままエクリプスになっちまった方もいるって話です」
マリア:「そうよ」
マリア:「輝く未来を目指すわたくしたちはそれらから目を背けてはいけない」
マリア:「彼らの願いを叶えることはできない。全部背負うこともできない。そんなことは当然わかってる」
マリア:「それでも忘れてはならないの。彼らが願いを持って戦ったことを」
リシャール:「……」じっとその小さい後ろ姿を見る。
リシャール:「……おれとあんたが出会った時のこと、覚えてます?」
マリア:「……出会った時の事ね」
リシャール:「おれは……まあ、そりゃもうボロボロで」
リシャール:「今日のメシのことも考えらんねえような有り様で」
リシャール:「それで、地面に這いつくばってた」
リシャール:「……そんな俺を見て、あんたが何を言ったかって!」
マリア:「お父様!わたくし使用人が欲しいわ、そこに落ちているのでいいから早く雇ってちょうだい!」
リシャール:「……いやびっくりしましたねあれにゃあ」
マリア:「偶然使用人が欲しくなったのよ」
リシャール:「その偶然に感謝せにゃなりませんね」
リシャール:偶然。運命。どこが違うって?たいして変わりゃしない。
マリア:「だってわかってしまったから」
マリア:「何を望んであなたがそんなにボロボロだったのか」
リシャール:「………」「そう」
リシャール:「おれはあんたと会って、夢を取り戻せたんだ」
マリア:「……」
マリア:「でも当然拾ったからには使いつぶすつもりなのよ?」
リシャール:「ええ、それはもう。どんどん使い潰してください」
リシャール:「今日もほら」
リシャール:台には重箱がみっしりと乗っている。
リシャール:「しっかりオーダーの料理詰めて来たんで」
マリア:「ええ、当然この場でいただくんですもの、豪華な料理でなくてはね!」
リシャール:「飲み物も色々ありますよ〜」
リシャール:「紅茶に緑茶にカルピスにココアにヴィシソワーズ」
リシャール:ポットと水筒が合わせて5つぐらい。
マリア:「うんうん、いろいろあるわね」
マリア:「ひとつずつ言うわね」
リシャール:「はい」
マリア:「また緑茶!!」
リシャール:「緑茶です」
マリア:「カルピスの原液!!」
リシャール:「濃い方が美味いじゃないですか」
マリア:「粉!!」
リシャール:「ほら、デザートにかけたりできるし」
マリア:「ヴィシソワーズは、スープ!!」
リシャール:「スープ持ち歩くにはポットですからねえ」
マリア:「そしてなんで水筒の紅茶が煮えてるの!?ミラクル!?」
リシャール:「魔法の瓶ですね」
リシャール:「まあまあ。実は牛乳も持って来たんすよ」
マリア:「……はあ」
マリア:「……こんなバカみたいなやりとりできるの、あんただけなのよ」
リシャール:「割とみなさん、こう…なあなあでやりますからねえ」
リシャール:「おれもあんたのオーダーに応えるのは嫌いじゃないですよ」
マリア:「あんたを拾って後悔したことは何度もあるけど」
マリア:「拾わなければよかったと思ったことは一度もないわ」
リシャール:「……へへ」
リシャール:「なあマリア」
マリア:「一応雇い主になあってことある?」
マリア:「まあいいけど、何よ」
リシャール:「勝とうな。ステラバトル」
リシャール:「願いを叶えよう」
マリア:「……当然よ」
マリア:「すべてを背負う覚悟はできている」
リシャール:「俺もだ」
リシャール:「この先どれだけかかってもいい」
リシャール:「…ふ」
リシャール:「願いが叶う頃には……」
リシャール:「お前もいっぱしのレディになってるのかねえ」
マリア:「今がいっぱしのレディじゃないみたいな言い方するわね!!」
リシャール:「ははっ、まだまだがきんちょでしょう」
リシャール:「…心は別としてね」
マリア:「余計なことを言わずに素直に褒めればいいのに」
リシャール:「そりゃ失敬。育ちが悪いもんで」
マリア:「まあ、わたくしがレディになったらあなたはお爺さんですわね、執事にはちょうどよくなるでしょうし。セバスチャンとでも呼んであげましょうか」
リシャール:「おれにはリシャールって名前がちゃんとあるんですけどね」
リシャール:「それと、まだそんなに歳食ってねえし!」
リシャール:「せいぜいおじさまだろ!」
マリア:「おじさまとおじさんは似て非なるものでしてよ?」
リシャール:「あっまるでおれがおじさまにはなれないような言い草」
リシャール:「知りませんよ〜?あとからおじさまって言いたくなっても聞きませんからね〜」
マリア:「あっそう、それならまずは」
マリア:「生きなさいね」
リシャール:「……ああ」
リシャール:「御意」
マリア:「あなた誰かを庇って死ぬタイプですもの」
リシャール:目を細める。
マリア:「……ええ、この命令だけは」
マリア:「素直に聞きなさいね」
リシャール:「……」頷く。

白のオダマキ

---
---:数年前 アーセルトレイ
---
ライラ・シュクロウプ:「ユミナちゃん、今年で幾つになった?」
ライラ・シュクロウプ:髪の長い、柔らかな雰囲気の女性。ゆったりと椅子に腰掛けながら、少女に声を掛ける。
ユミナ:「えと……えっと……13、です」
ライラ・シュクロウプ:「それじゃあ、もう中等部に上がるのね」
ライラ・シュクロウプ:「学校はどう?楽しいかしら」
ユミナ:「あ、はい、とても楽しいです」
ユミナ:「その、友達も、できました」
ライラ・シュクロウプ:「本当?良かったわ!」
ライラ・シュクロウプ:「私なんて、学生時代は遊んでばかりだったもの」
ライラ・シュクロウプ:「こっそり授業や寮を抜け出して、いつも怒られていたわ」
ユミナ:「そ、そうなんですか……!」
ライラ・シュクロウプ:「ええ。学校の外にはもっと素敵なものが沢山あるはずなのに、じっとしていられない……ってね」
ライラ・シュクロウプ:「若かったのよね。学校には学校でしか味わえない素敵なことが、沢山あったのに」
ユミナ:「……」
ライラ・シュクロウプ:「友人に会うといつも驚かれるわ。あのライラが母親なんて、って」くすくす笑う。
ユミナ:「……ライラさんは、とっても素敵なお母さん、だと思います」
ユミナ:「(……そう、本当に素敵な)」
ユミナ:「(いくら焦がれても、届かない……)」
ライラ・シュクロウプ:「そうかしら……」首を傾げる。
ライラ・シュクロウプ:「でも娘には、私じゃなくてユミナちゃんみたいな真面目な子に育ってほしいわ」
ユミナ:「い、いえ、そんな、私なんかは……」
ユミナ:「真面目なんて、そんな……ただ、固くて憶病なだけで……」
ライラ・シュクロウプ:「そんなことはないわ」柔らかく笑んで、そっとその手を握る。
ユミナ:「あっ……そ、その、あの」
ユミナ:「えっと……」
ライラ・シュクロウプ:「あなたは本当に人を思い遣ることの出来る、優しい子よ」
ライラ・シュクロウプ:「臆病なんかじゃない。思慮深いだけ」
ライラ・シュクロウプ:「誇りに思うべきよ」
ユミナ:「……あう……その……」
ユミナ:「はい……」
ユミナ:「(真面目でなんてあるものか)」
ユミナ:「(だって、今だって、こんなにドキドキしている)」
ライラ・シュクロウプ:「……ね、ユミナちゃん。ちょっと変なこと言ってもいい?」
ユミナ:「はえっ!?へ、へんなこと!?」
ユミナ:「あ、いえ、その、あの」
ユミナ:「ど、どうぞ」
ライラ・シュクロウプ:「うん……」
ライラ・シュクロウプ:「……私達にもしものことがあったら、あの子のこと、お願いできるかしら」
ユミナ:「えっ……」
ユミナ:「その、それは、どういう……」
ライラ・シュクロウプ:「そんなに深刻にならないで!もしもの話よ、もしも」笑って
ライラ・シュクロウプ:「私達には、親類がいないから。あまり頼れる人が居ないの」
ユミナ:「……そ、そう、ですか……」
ユミナ:「……あの、私」
ユミナ:「(もしこの場であなたのことが好きだと言って、口づけて、受け入れてもらえれば聞いてもいいですよ、なんて言ったら)」
ユミナ:「(どんな反応をするだろう)」
ユミナ:「……あの、その……私なんかで、よければ……はい……」
ライラ・シュクロウプ:「本当?良かったわ。万が一のことを考えると、心配でね」
ライラ・シュクロウプ:「別に、本当の意味で面倒を見てって言ってるわけじゃないのよ」
ユミナ:「……あの、私、もし、そうなったら」
ユミナ:「その、私、できるだけ、明るく接してみたいと、思います」
ユミナ:「私は……ミシェルちゃんには」
ユミナ:「あなたみたいに、育ってほしいと、思います」
ライラ・シュクロウプ:「ユミナちゃんったら」笑う。世辞として捉えているような気楽な態度で。「でも、そうね。お願いできるかしら」
ライラ・シュクロウプ:「あの子がどこか……施設や遠い場所で過ごすようになった時は」
ライラ・シュクロウプ:「時々、顔を見せて……話し相手になってあげて。それだけでいいから」
ユミナ:「……(本当は、そもそもこんな前提の話をしているだけでも嫌なんだけど)」
ユミナ:「(それでも、もしそうなった時、そうなってしまった時に私にできることがあるなら)」
ユミナ:「いえ、私は……できる限り、一緒にいられるように、したいと思います」
ユミナ:「私が……そうしたい、ので」
ライラ・シュクロウプ:「ええ」
ライラ・シュクロウプ:屈託の無い、明るい表情。
ライラ・シュクロウプ:「──ありがとうね、ユミナちゃん」

---:現在 アーセルトレイ 海岸

ミシェル:「──ユミナ!」
ユミナ:「ん……んん……」
ユミナ:「……あ……れ……」
ユミナ:「はっ……も、もしかしてユミナさん寝てました!?」
ミシェル:弾む声。露出の少ない、フリルの付いた子供用の水着。
ミシェル:「そうなの?」
ミシェル:「確かにお返事が無かったけれど」
ユミナ:「な、な、なんていうこと、ミシェルちゃんの水着姿を前に寝るなどと!!」
ユミナ:「一生の不覚!!」
ユミナ:「……そうだ、ちょっとミシェルちゃんの着替えが終わったから興奮をさまそうと少し椅子に座って休んでようと思ったら、まさかこんなこととは……」
ミシェル:「これが海なのね、ユミナ」
ユミナ:「そうですね……どうですか、さわってみた感想は」
ミシェル:「風がべたべたするわ。それに足も……さらさらで、ペタペタして、何だか不思議」
ユミナ:「潮風ってそういうものですよ、塩分がたくさんありますから」
ユミナ:「海で遊んだあとはちゃんと体を綺麗にしないと肌や髪が痛んじゃいますから」
ユミナ:「そう、だから……泳ぎ終わったら……べたべたなミシェルちゃんを……こう嘗め回すようにきれいに……ふふふへっへえ」
ミシェル:「じゃあ、水だけじゃなく、風もしょっぱいのかしら」小さな舌を出す。
ミシェル:「……わからないわね……」
ユミナ:「あっあっミシェルちゃんだめですそんなかわいい舌をこんなところで出しては!!」
ユミナ:「どこで危ない人が見てるかわかりませんからねっ!!」
ミシェル:「ユミナ以上にわたしに興味ある人なんていないから、大丈夫よ」
ユミナ:「えっ……そんな……それは、その、愛の告白ですか?結婚ですか?」
ミシェル:「結婚はしないわ。波打ち際はどっち?わたし、舐めてみたい!」
ユミナ:「そんな、舐めるなんて……いえいえ、ほんとにちょっとだけですからね、こっちですよ」手を引く
ミシェル:「ふふ!楽しみね!」慣れた様子で手を引かれていく。

ミシェル:「……まさかオオイカリナマコがあんな感触だったなんて……」
ミシェル:数時間もたっぷり遊んで、橙の夕陽が砂浜を照らしている。
ユミナ:「……」
ユミナ:「……獲れるもんですね……」空を見て
ミシェル:「カルチャーショックだったわ。海の水はしょっぱいし、波に引っ張られる感覚も面白いし、いか焼きは美味しかったし……」
ユミナ:「ミシェルちゃんが喜んでくれてユミナさんもとっても嬉しいですよ」
ミシェル:「ええ!とっても楽しかったわ!」
ミシェル:「ありがとうね、ユミナ」
ミシェル:余韻に浸るように、心地よさそうに波の音に耳を傾ける。
ユミナ:「……ミシェルちゃんは、ミシェルちゃんのお母さんに本当によく似ています」
ユミナ:「その好奇心旺盛で、なんでもやってみようと思うところなんて特に」
ミシェル:「そうなの?」
ミシェル:「……わたし、あまりよく覚えていないの。お父様とお母様のこと」
ミシェル:「まだ小さかったから……それに、まだステラバトルもしていなかったから、顔も知らない」
ユミナ:「仕方ないですよ、その時まだミシェルちゃんはもう、こんなにちっちゃかったですから、こんなに」手のひらの上に小さな貝殻を乗せて
ミシェル:「こんなに?嘘!」貝殻を握って笑う。
ユミナ:「いやあもうこんなにですとも、ふふふ」
ユミナ:「……素敵な人でしたよ、ミシェルちゃんのお母さんも、お父さんも」
ユミナ:「(……お父さんの方は、私は一方的に嫌ってましたけどね。今思えば少し申し訳なかったな)」
ミシェル:「もっと色々、話してみたかったな。二人と」
ミシェル:「目が見えるようになったって聞いたら、きっとびっくりするわね」
ユミナ:「ええ、そうですね」
ユミナ:「(ステラバトルの時だけなんて……残酷すぎるけれど)」
ユミナ:「(でもいいんです、あなたの瞳が濁らぬように、闇は全て私が引き受けますから)」
ミシェル:「……」
ミシェル:「……ねえ、ユミナ」
ユミナ:「どうかしましたか?けっこ」
ミシェル:「ううん、結婚はしないけれど」
ユミナ:「あ、はい……それで、どうしましたか?」
ミシェル:「学校の先生にお願いしてね、調べて貰ったの」
ユミナ:「はあ……何をです?」
ミシェル:「わたしみたいな、目の見えない子のお世話をしてくれる施設って、アーセルトレイに幾つかあるのですって」
ユミナ:「……」
ミシェル:「そこなら身の回りの世話をお任せして、今まで通り学校にも通えるのですって」
ミシェル:「……わたしね、そこに行ってもいいかなって思ってるの」
ユミナ:「……どうして、ですか?」
ミシェル:「……」
ミシェル:「時々ね、考えることがあるの」
ミシェル:「ユミナは、いつもわたしと一緒に居てくれるでしょう?」
ミシェル:「ずっと傍に居て、お世話をしてくれて、何でも聞いてくれて……」
ユミナ:「……」
ミシェル:「でも、本当は……」
ミシェル:「ユミナにはユミナの人生があるはずなんじゃないかって」
ミシェル:「わたしの為に使う時間で、あなたはもっと違うことが出来るはずじゃないのかって」
ユミナ:「……ミシェルちゃん」
ユミナ:「じゃあ、ミシェルちゃんはユミナさんのことが嫌いになったわけじゃないんですね?」
ミシェル:「そんな訳は、ないけれど……」
ユミナ:「ミシェルちゃんがユミナさんのことが嫌いで嫌いで仕方なくてステラバトルの時にしか顔を合わせたくないとか、そういったことだったなら」
ユミナ:「ユミナさんはそれでもかまいません」
ミシェル:「そ……そんなこと、ある訳がないじゃない!」
ミシェル:「あなたのことは大好きよ、ユミナ。でも……」
ユミナ:「ごめんなさい、いじわる言っちゃいましたね」
ユミナ:「いいんです、ミシェルちゃん、いいんです」
ユミナ:「私があなたと一緒にいるのは、私がそうしたくてしていることなんですから」
ミシェル:「……。……でも……」
ユミナ:「それにねミシェルちゃん」
ユミナ:「学校の外には素敵なものがいっぱいあるんです。それをミシェルちゃんと味わってる時が、ユミナさんにとって一番幸せな時なんですよ」
ユミナ:「学校でしか味わえないこともあるかもしれないけど、ユミナさんはミシェルちゃんと一緒に楽しんでいる時の方が大事なんです」
ミシェル:「……わたしは……」
ミシェル:「……あなたの重荷に、なっていない?」
ユミナ:「もう何をそんなことを!重荷だなんてあるわけないじゃないですか!」
ユミナ:「むしろミシェルちゃんの重みなら四六時中感じていたい!もっと!もっと抱き着いてきたりしてもいいんですよ!ヘイカモン!」
ミシェル:「……」
ミシェル:声のするほうに身を寄せて、ユミナにゆっくりと抱き着く。
ユミナ:「あ、あれあれ」
ユミナ:「きょ、今日はそんな素直に……あれれ」
ミシェル:「……ありがとうね、ユミナ」
ミシェル:抱き着いたまま、小さな声で言う。
ミシェル:「ありがとう」
ユミナ:「……」優しく抱きしめ返して
ユミナ:「ユミナさんのほうが、もっとありがとうですよ、ミシェルちゃん」
ユミナ:「ユミナさんの事、思ってくれてありがとう」
ユミナ:「(ねえ、もしユミナさんが、このあと本気でミシェルちゃんに口づけでもしちゃったら、どう思います?)」
ユミナ:「(……結局私は、何も変わってないです、ライラさん)」
ユミナ:「(……ライラさんの時も、今も、どうしようもないくらい本気で、でも憶病で)」
ユミナ:「(でも……守ってみせます。今度こそ。私の大事なものを。絶対に)」」
ユミナ:「じゃあ、この勢いのまま結婚を……」
ミシェル:「しないわ」
ユミナ:「はい……」

黒のアネモネ

芳乃百夏:───その日は、酷い汗をかいて目覚めた。ベッドの中、横たわったまま目を見開き、空を掻く。
芳乃百夏:「カーラ、カーラ」
芳乃百夏:激しい呼吸。ひぃひぃと、喉の奥が鳴る。
芳乃百夏:「カーラ どこ」
カーラ:ひた、と額に手が触れる。
芳乃百夏:「あ」
カーラ:最初からそこに居たのかのように、姿を表す。
カーラ:「俺を呼んだか?」
芳乃百夏:その感触に、呼吸が少し深くなる。
芳乃百夏:「……うん」そう言いながら。
芳乃百夏:くい、とその袖を引いて。
芳乃百夏:「こっちにきて」
カーラ:「診るか?……ああ」
カーラ:「どうした」かがみ込むように。
芳乃百夏:そのまま、腕を背の後ろに回して。
芳乃百夏:体重をかけて、自分の方に引き倒す。
カーラ:抵抗もなく引き倒されて。
カーラ:「……どうした」再び訊ねる。
芳乃百夏:「こわい、の」
芳乃百夏:「ここに、いるよね?カーラ」
カーラ:「怖い?」
カーラ:「ああ。俺はここにいるが」
芳乃百夏:「あなたがどこにもいなくなる夢を見たの」
芳乃百夏:「あなたが…壊れて」
芳乃百夏:「傷だらけになって」
芳乃百夏:「そのまま消えてしまう……」しゃくりあげる。
カーラ:「俺は壊れてなど居ない」
カーラ:「俺の身の何処にも、傷はない」
カーラ:「知っているだろう、それは、お前も」
芳乃百夏:「うん……うん」ぺたぺたと、片手で彼の胸のあたりを触る。
カーラ:シースの身体は、異形化により、消せぬ傷跡をもたらすことがある。
カーラ:彼はだが、ステラバトルにおいて、一度も、それを行っていない。
カーラ:代わりに、歪んだものは。
カーラ:頬に手を差し入れるようにして、髪を梳く。「それから」
芳乃百夏:はあ、と息を吐く。
カーラ:「どこへも行きはしない。そんなものは、ロアテラの唆しに過ぎない」
芳乃百夏:「……わかってる……わかってる、けど」
芳乃百夏:顔を寄せて、口付ける。
芳乃百夏:「ん」
カーラ:それにも抵抗をせず、唇を奪い返す。
芳乃百夏:拙く、舌を出して、動かす。
カーラ:「……落ち着いたか?」
芳乃百夏:「………」目を潤ませて見上げる。
芳乃百夏:「さいごまで」
芳乃百夏:「おねがい」
カーラ:「お前が俺を、それで繋ぎ止めようとする必要はない」
カーラ:「そんなことをせずとも、お前の元を離れることはない」
芳乃百夏:「………ばか」ちょっと赤くなりながら、むくれて。
芳乃百夏:「女の子が頑張って言ってるのに」
芳乃百夏:「……だめ?」手に手を絡ませて。
カーラ:「……強情だな」
芳乃百夏:「……強情です」
芳乃百夏:本当に、こわいのだ。
芳乃百夏:離れないとわかっていても。
芳乃百夏:こっちを向いてくれていても。
芳乃百夏:ひどく、ひどく遠く感じる。
カーラ:「俺は本来、そのような行いは、慎むようにとの戒律だが」
カーラ:「……今更か」
カーラ:「俺の仕えるべきは、俺の世界に祝福を与えなかった神ではない」
カーラ:「一つ、忠告する」彼女の顎先を捕まえる。
芳乃百夏:じっと、その青い瞳を見る。
カーラ:「もしも、恐ろしくなったら。そう告げろ」
カーラ:「そうしたら、止めにするが。それによって、俺が百夏から離れることはない」
芳乃百夏:目を細めて笑う。
芳乃百夏:「うん」
カーラ:それを聞くと、再び口づけをし、その口腔を貪るようにした。
芳乃百夏:ああ。
芳乃百夏:なんだか、とても嬉しいのに、とてもさみしくて。
芳乃百夏:身体の熱は上がっていくのに、心の芯は冷たいままで。
芳乃百夏:だから、より深く、求めてしまう。
芳乃百夏:たまらなく愛おしいと、感じながら、
芳乃百夏:頭の中まで掻き混ぜられていくような気がして、
芳乃百夏:涙を秘密のまま心に落とした。
カーラ:彼女を掻き抱きながら、思う。
カーラ:本当に、彼女が求めているのは、このような振舞いなのだろうかと。
カーラ:ただ、自分が、この位置に居ようとしているだけなのではないかと。
カーラ:芳乃百夏に必要なのは、親代わりでも、恋人気取りでもなく。
カーラ:かけがえのない、友だったのではないかと。
カーラ:だが。今更自分には、そのような振舞いは望むべくもない。
カーラ:彼女の思いを知っている――からのみではない。
カーラ:今、自らの手の中にある、美しく、哀れな少女。
カーラ:それにまだ、触れ続けていたいと思う。
カーラ:その熱に。その光に。
---:--
---:---
芳乃百夏:「……ごめんね」
芳乃百夏:背中を向けて少女は言う。
カーラ:「何を謝る?」その背中を見ながら、男は言う。
芳乃百夏:「その。……いや、じゃなかった?」
芳乃百夏:今更何を、と自嘲する。
カーラ:「お前にいやいやと付き合うものか」
カーラ:「それにだ。お前のあのような振舞いが見られるとはな」
カーラ:ふ、と。仏頂面を崩し、笑みが漏れる。
芳乃百夏:ちら、と視線を背中越しに投げて
芳乃百夏:「……今、笑ってた?」
芳乃百夏:見逃した、気がする。
カーラ:「……どうだろうな。俺は別に、何が起きても笑わぬ者であるつもりはないが」
芳乃百夏:「…ふふっ」
芳乃百夏:「でも、すっごくレアだと思うよ」
芳乃百夏:「うるとられあ」
カーラ:「そういうつもりはないのだがな」自らの白衣を、その背中にかける。
カーラ:「好きに振る舞っているだけだ」
芳乃百夏:「そう?そうならいいんだけど」
カーラ:「……体は平気か?」
カーラ:「ステラバトルも近いだろう」
芳乃百夏:「うん。思ったより平気」
カーラ:「……そうか。これで不調を引きずっては、シースの面目が立たん」
芳乃百夏:「えへへへ」
芳乃百夏:へにゃり、と笑う。
芳乃百夏:「大丈夫。戦えるよ」
芳乃百夏:「一緒にいるんだもん。無敵だよ」
芳乃百夏:一緒にいるなら、それで平気。
カーラ:「ああ。俺はお前とともにあるとも」
カーラ:「お前を死なせることはない」
芳乃百夏:「あなたのことも」
カーラ:彼らは一度も異形化をしていない。
カーラ:彼らを歪ませたのは、度重なるもう一つの共鳴。
カーラ:イモータル・ライフ。お互いを”死なせない”ための力。
芳乃百夏:そう。
芳乃百夏:永く共にあるために。
芳乃百夏:(ああ、だけど)
芳乃百夏:(なんでだろう)
芳乃百夏:(あなたに傷が入るのが見たい、なんて)
芳乃百夏:(もっと私のものにしたい、なんて)
芳乃百夏:欲望が昏く、広がっていく。
芳乃百夏:「きっと、二人ならなんでもできるよ」
芳乃百夏:世界を壊すことだって。
カーラ:「ああ、何だってしよう」
カーラ:お前を守るためなら。
カーラ:どちらからともなく。あるいは、カーラからだったか。
カーラ:顔を近づけ、再び口づけを交わした。

幕間

青のバラ

ライルート:いつもの訓練場。
ライルート:いつも通り、二人の少年少女の姿はあるものの。
ライルート:訓練を行っている様子はない。
ライルート:「……」ふうー。と、息をゆっくりと吐いている。
ハル:「コンディションはどう?ライくん」
ハル:自然体のまま、傍らに佇んでいる。
ライルート:……ちらりと見る。直視できていない。「……万全です」
ライルート:「いつまで経っても慣れませんが……」
ハル:後ろ手に手を組み、自ら回り込んで視界に入る。
ハル:「そ、良かった」
ライルート:「うえっ」思わず声を漏らす。
ハル:「……ホントに万全なのかなあ」
ライルート:「……大丈夫ですとも」
ライルート:「ハルさんと戦うわけでもなし……」
ハル:「戦いはするでしょ」
ハル:「一緒にさ」
ライルート:「……ええ」顔を見返す。
ライルート:「それほど心強いことは他にない」
ハル:「……喋れないからって、変なトコ触っちゃダメだからね?」目を細める。
ライルート:「えっちょっと待って下さい!?」
ライルート:「どこが変なトコに当たる部位なんですか変身時って……!?」
ハル:「え~?女の子の口から言わせる気……?」
ライルート:「……」
ライルート:「なるべく触れぬように。それから、触れさせぬようにします」
ライルート:「そう戦えば、問題ないでしょう」
ハル:「うん、その意気」涼やかな笑みを浮かべる。
ハル:「キミのかっこいいとこ、見せてよ」
ライルート:「ええ。君にそう言わせてみせます」
ライルート:模造剣を佩き、天に掲げる。
ハル:同じく剣を抜き、切っ先を交差させる。
ライルート:そうして、口上を口にする。
ライルート:「我らの許には歓びの王都あり、」
ハル:かつて失われた故郷、今は二人を残すのみとなった騎士団。その誓約の言葉。
ハル:「我らの許には久遠の誉れあり、」
ライルート:今は、2人だけのための。
ライルート:「我らの許には繁栄の臣民あり。」
ハル:「義は我らが偉大なる王を、我ら騎士を突き動かす。」
ライルート:「聖なる威光、深き智慧、大いなる慈愛、によって我らは成る。」
ハル:真剣な、そして信頼の眼差しで、ライルートを見つめる。
ハル:「その武勇において、我らの先をゆく者はなし、しかして我らは最も後ろにこそ立つ。」
ライルート:その眼に答えるように頷いて。
ライルート:「ここに騎士たる剣を佩く者は、剣に奉仕する他の一切を棄てよ。」
ライルート:剣を鞘に戻して、片膝をつく。
ライルート:「……手を」
ハル:「……ん」
ハル:白く滑らかで、少し骨ばった手を差し出す。
ライルート:その手を取り、甲に口付ける。
ライルート:「必ず、勝利を」
ハル:「うん」
ハル:その身が燐光と共に分解されていく。薔薇の花弁、彼女の瞳の色にも似て。
ハル:「勝利を」
ライルート:その美しい瑠璃色を見た。
ライルート:分解された彼女の身体が、彼の周囲に再構成されていく。
ライルート:鎧だ。かつての騎士団で使われていたものによく似ているが。
ライルート:相違もある。彼自身が使っていたものというよりも、どこか女性騎士向けの装丁のそれ。
ライルート:どちらかと言えば、かつてハル・メリアの身につけていたものに近い。
ライルート:そして、その色。鮮やかなる青。
ライルート:それは彼女の瞳にも似て。
ライルート:彼女が見ているような錯覚を、否。
ライルート:実感を得る。
ライルート:その手には一本の剣。そこに立つは一人の少年騎士の姿。
ライルート:「我が名はライルート・シュオレグナード」
ライルート:「星の騎士としての務めを、今、ここに果たしましょう」
ライルート:胸元にバラの徽章が咲いた。
監督:【青のバラ:ブリンガー/ライルート・シュオレグナード シース/ハル・メリア・マグノリア】
監督:【ブーケ:347 願いの決闘場へ】

紫のヒガンバナ

リシャール:「さて、時間です」
マリア:「……そうね」
リシャール:「やりますか。お飲み物はいりませんか」
マリア:「今はいらないわ」
リシャール:「…わかりました」まあ用意するのは緑茶だ。
マリア:「まあ、そんなことだろうとは思っていたけども」
マリア:「いいじゃない、戦いに赴くのはこの身ふたつ。賭けるのもこの身ふたつで」
リシャール:「そうですね」向かい合って立つ。
リシャール:そして、小さな体の前に跪く。
マリア:「行きましょう、我が剣」
リシャール:「仰せのままに」
マリア:胸に手を当てる。変えて見せる。世界を。
リシャール:その決意を知っている。だから、守る。
マリア:リシャールの手を取り、そして口上を述べる
マリア:「世界を照らすは我が輝き」
リシャール:「その輝きは私を救い」
マリア:「その救いは私の輝き」
リシャール:「輝きの輪廻こそ貴方の力」
マリア:「さあ、廻れ世界よ。私の力で!」
リシャール:「この身を剣とし、我が君に捧ぐ!」
マリア:「感情を励起せよ!ハート・アクティヴェート
リシャール:その言葉と共にリシャールの体が輝き、粒子となってゆく。
リシャール:「我が君」
リシャール:「ご武運を」しっかりと目を見て告げる。
リシャール:それと共に光はマリアのものとなる。
マリア:「感謝する」その光は剣となり、身体はドレスに包まれる。
マリア:紫色のドレス。装飾は非常に少なく、ただ美しく輝く。
マリア:それはいつか頂点に立つべき者の高貴なるドレス
マリア:飾るべきは服ではない。自らを輝かせよ
マリア:「マリア・エルカサンドラ。咲かせるは紫のヒガンバナ」
マリア:「美しき世界よ。我が情熱を称えよ。我が願いを永久に輝かせよ」
マリア:「世界の頂に咲くために、我が力をとくと見よ」
監督:【紫のヒガンバナ:ブリンガー/マリア・エルカサンドラ シース/リシャール・ギー】
監督:【ブーケ:202 願いの決闘場へ】

白のオダマキ

---:シトラ女学院 中庭

ミシェル:色とりどりの薔薇が咲き乱れる、学院の中庭。
ミシェル:普段は生徒で賑わうこの場所に、今はただ二人の姿だけがある。
ミシェル:「……準備はいいかしら?ユミナ」
ユミナ:「もちろんですとも!」
ミシェル:「……何度目になっても、やっぱり緊張するわ。この時は」
ミシェル:やや固い笑みを浮かべる。
ユミナ:「もう、本当にかわいいですねえミシェルちゃんは!」
ユミナ:「そういう時はユミナさんの手のひらに人と書いて舐めるといいんですよ!」
ミシェル:「本当……?聞いたことがないけれど……」
ミシェル:「ユミナの掌からそんな成分が……?」
ユミナ:「あっこれだめ、嘘つくことの罪悪感がやばい。半分くらい嘘です」
ミシェル:「もう、ユミナったら」くすくす笑って。
ミシェル:「……行きましょう、ユミナ」幾分か緊張の解れた様子で、頷く。
ユミナ:「はいミシェルちゃん。せっかく目が見えるようになるんですから」
ユミナ:「楽しんでいくぐらいでいいんですよ、ミシェルちゃんは」
ユミナ:「それで勝って、またおいしいごはん食べましょう」
ミシェル:「ええ」
ミシェル:ミシェル・シュクロウプの抱く願いは、盲目の解消ではない。
ミシェル:生まれつき目の見えない彼女にとって、ステラバトルで初めて得た視覚は強烈な刺激であり、何より焦がれて然るべきものだったが
ミシェル:ミシェルにとっては、それはステラバトルの時だけの、『たまの贅沢』で事足りるものだった。
ミシェル:その理由はただ一つ。
ミシェル:自分の傍らには、いつでもユミナ・イチノセがいると知っているから。
ミシェル:彼女が両の瞳よりも、美しくて素敵な世界を教えてくれることを知っているから。
ユミナ:ミシェルがちゃんとわかるように、しっかり手を握って前に跪く
ミシェル:だから、ミシェル・シュクロウプは、もうとっくに満たされていた。
ミシェル:すう、と息を吸って、
ミシェル:「──遥かなる蒼穹の下」
ユミナ:「われ導くは紅蓮の灯」
ミシェル:「囀るは金糸雀の唄」
ユミナ:「やま萌ゆる常盤の影」
ミシェル:「黎明に烟るは紫煙」
ユミナ:「無辺の暗夜行路にて」
ミシェル:「咲き誇るは、白き苧環」
ユミナ:「染めましょう この世界を」
ミシェル:「彩りましょう 遍く全てを」
ユミナ:「あなたと」
ミシェル:唄う。暗闇の世界で、どこまでも色彩に満ちた言葉を紡ぐ。それは祈りにも似て。
ミシェル:見えざるユミナに顔を向けて、笑い掛ける。
ミシェル:「──わたしで」
ユミナ:ユミナの体が輝き、光となっていく
ユミナ:ミシェルが例えこの身を見ることがなくとも
ユミナ:心は常に共にある。恐れることはない
ミシェル:光はミシェルの身体を包み、色彩も一点の曇りも無い、純白のドレスへと変わっていく。
ミシェル:その手に握るのは細身の刺突剣。あらゆる光を取り込み、そして反射する銀の輝き。
ミシェル:やがて、閉ざされた目蓋がゆっくりと開かれる。
ミシェル:光を浴びて、複雑に揺らめく虹色の輝き。その瞳の虹彩は、一秒たりとも同じ色として留まることはない。
ミシェル:「……」
ミシェル:ゆっくりと、辺りを見渡す。
ミシェル:どこまでも深い空の色。年経た白亜の壁に、青い葉の群れに咲き乱れる花々。
ミシェル:何もかもが、信じ難いほど美しくて。
ミシェル:けれどそこに、ユミナ・イチノセの姿だけが無い。
ミシェル:ステラバトルで視力を得る以上、ミシェルにとっては世界でただ一つ、ユミナの顔だけが絶対に見ることが出来ないものだ。
ミシェル:それでも、悲しくなど、寂しくなどある筈がない。
ミシェル:「……行きましょう、ユミナ」
ミシェル:剣を握り締め、遥か階層都市の空を見遣る。
ミシェル:「二人で」
監督:【白のオダマキ:ブリンガー/ミシェル・シュクロウプ シース/ユミナ・イチノセ】
監督:【ブーケ:258 願いの決闘場へ】

黒のアネモネ

芳乃百夏:……重い体をベッドから起こす。
芳乃百夏:ひどくいい気分だ。今なら、なんでもできそうな気がする。
芳乃百夏:「カーラ」
芳乃百夏:いつものように名を呼ぶ。
カーラ:「ああ」虚空から現れる。いつものように。
カーラ:「始まるぞ。戦いが」
芳乃百夏:「そうだね」
芳乃百夏:「ねえ、カーラ」
カーラ:「準備は……何だ?」
芳乃百夏:「私、今日すごく元気だよ」
カーラ:「ああ。素晴らしいことだ」
芳乃百夏:その目は。
芳乃百夏:いつになく、きらきらとしていて。
カーラ:「お前が壮健であれば、喜ばしいに限りないが」
カーラ:(……何だ?)
芳乃百夏:「はやく、はやく」袖を引っ張る。
カーラ:引かれるままに従って。「どうした。そんなにはしゃいで……」
芳乃百夏:「きっとね」
芳乃百夏:「これまでで最高のステラバトルになるよ」
カーラ:「そういう実感が、お前にはあるのか」
芳乃百夏:「うん!」
カーラ:彼女の思う、ステラバトルへの高揚の予感は、往々にして。
カーラ:歪みをもたらすほどの、凄惨さを孕む。
カーラ:「そうか。では、俺もそれに応えなければな」
芳乃百夏:「うん」
芳乃百夏:「カーラ。手、出して」
カーラ:「? ああ」言われるがままに差し出す。
芳乃百夏:その、手に
芳乃百夏:どすっ
芳乃百夏:小さな果物ナイフが突き立てられる。
芳乃百夏:…これまで。
芳乃百夏:決して芳乃百夏は彼女のシースを傷つけることはなかった。
カーラ:「……?」
カーラ:その手を眺める。
芳乃百夏:「あは」
芳乃百夏:「やっぱり、とっても綺麗」
カーラ:「……百夏」
芳乃百夏:「…あなたの血を、飲ませて」
カーラ:(お前に足りないのは、親でも、恋人でも、友でもなく)
カーラ:(遊び道具か?)
芳乃百夏:うっとりと、青い目を見上げる。
カーラ:「……本来、推奨し難い行いだ」血の滴る手の甲を押さえて。
カーラ:「だが」
カーラ:「お前が望むのであれば、いいだろう」すくい上げて、口に流し込む。
芳乃百夏:「んく……」こくり、と喉を鳴らす。
芳乃百夏:「ああ………」
カーラ:「旨いものでもあるまい」口の端を拭いてやる。
芳乃百夏:「おいしいよお。カーラのだもん」
芳乃百夏:そして自分より大きいその体に抱きつく。
芳乃百夏:「カーラ。カーラ。カーラ。カーラ」
芳乃百夏:「好きだよ」
カーラ:「芳乃百夏」
芳乃百夏:「はぁい」
カーラ:「俺も、お前を愛そう」
芳乃百夏:「……嬉しい」
カーラ:……基底世界での物語だ。
カーラ:聖なるものに懸想した少女が、それと交わり、怪物を産んだ。
カーラ:その怪物は、迷宮の奥深くに、封じ込められたのだという。
カーラ:あるいは、この少女に怪物を宿させたのは。
カーラ:抱きつく少女を、強く抱き返す。
芳乃百夏:蕩けた表情を、隠そうともせず、その言葉を紡ぎ始める。
芳乃百夏:「───あなたは私の道標、そのいと辿れば光が見える」
カーラ:「その光の先も、悲劇だ。英雄が辿る道行きは知れている」
カーラ:彼女の詠唱は彼女一人で完結している。彼に出来るのは混ぜ返すことだけ。
カーラ:その道に進まぬようにと。せめて。
芳乃百夏:「それでも私は進むのです。その先に未知があるならば」
カーラ:「それは罠だ。踏み入るものを欺き、謀り、殺すための。」
芳乃百夏:「謀るならば、それに飲まれても飲み返すだけ」
カーラ:「そこには魔物が棲む。哀れな子供を喰らい、屠る、また哀れな魔物が」
芳乃百夏:「それを私は■■倒■。いいえ、いいえ」笑顔が───はじける。
芳乃百夏:言葉に聞き取れない部分が混じる。口から黒いものが零れ落ちる。
カーラ:「それをお前はうち倒す」
カーラ:聞き取れぬものを補うように。
芳乃百夏:「共に手を取り、歩みましょう」
カーラ:「俺は歩まない」
カーラ:「お前の手に持つ手繰り糸となり、灯火となり、短剣となる」
芳乃百夏:「ほら───ほら!見えるでしょう、■■が、」
カーラ:「俺には見えないよ」
カーラ:「――は」
カーラ:「ここは昏いな。ラビュリントスだ」
芳乃百夏:「さあ、行きましょう、■ー■」
芳乃百夏:その首に手を這わせて───
芳乃百夏:握り潰す。
カーラ:その頸はたやすく圧し折られて。
カーラ:その遺骸から溶け出すように、黒い砂粒が溢れ出る。
芳乃百夏:「あなたと共にあるならば、どのような昏暗くらやみでも」
芳乃百夏:砂粒は少女に纏わりつき。
芳乃百夏:黒い婚礼衣装となる。
芳乃百夏:顔を覆う黒のヴェールは、しかし
芳乃百夏:喪に服しているようだった───いつもの彼女のように。
芳乃百夏:「行こう」もう一度、言う。
芳乃百夏:その手に握られるのは、漆黒の大斧。
芳乃百夏:これが、彼女の愛のあかし。
芳乃百夏:ぶわりと締め切られた室内に風が巻き起こり
芳乃百夏:その姿は黒いアネモネとなって散った。
監督:【黒のアネモネ:ブリンガー/芳乃百夏 シース/カーラ】
監督:【ブーケ:180 →エクリプス化に伴い全て枯死】
監督:【舞台を形成───願いの決闘場へ】

最終章

監督:───その舞台は、暗い澱みに満ちていた。
監督:目を凝らせば、銀色の糸が見えるだろう。それも、澱みに飲まれてしまう。
監督:舞台の中央には大きな天秤が聳え立ち、
監督:両側に心臓が一つずつ置かれていた。
ライルート:燐光が閃き、青の騎士がその場に降り立つ。
ライルート:「ここは……」
ライルート:何か、違和感がある。いつもとは違う、圧力を感じるような。
ライルート:今までのステラバトルと言うより、どこかそれは、かつての世界での。
ライルート:人同士が殺し合う、戦場に近いような。
マリア:紫の騎士がそこに立ち、あたりを見る。
マリア:「……ここは……」
マリア:わからない、ここにあるのは愉悦か、悲観か、読み取ることができない
ライルート:その少女に気づく。「……子供?」
ライルート:「どうしてあんな、小さな子供が……」
マリア:素早く手に持った剣を喉元に突き付ける
マリア:「ここに来た時点で相手は騎士よ。ちゃんと覚悟をしてきているのかしら?」
ライルート:「……失礼。覚悟は十全に……」
ライルート:「……”相手は騎士”?何を……」
ミシェル:上空から一条の光が差し込み、それが形を成すように、純白のドレスを纏った少女が姿を現す。
ミシェル:重力を感じさせない動きで軽やかに降り立ち、虹色の瞳が周囲を見回す。
ミシェル:「……あら?」
マリア:「……わたくしも初めて来たけれど、これはおそらく……」
マリア:「……ミシェル?」
ミシェル:「マリアちゃん!マリアちゃんも一緒なの?」
ミシェル:既知の顔を見つけて、嬉しそうに。
ライルート:そちらを振り向く。「また、子供だって……?」
ライルート:「こんな小さな子たちも、星の騎士として戦わされるのか」
ライルート:「弱きを扶けるのが、騎士の務めのはずなのに……」
マリア:「久々ね、ミシェル。ここで会うとは思わなかったけれど……」
ミシェル:「そちらの方も、初めてお目に掛かりますね。ミシェル・シュクロウプと申します」恭しく一礼する。
マリア:「わたくしとしたことが自己紹介が遅れました。マリア・エルカサンドラと申します」
ライルート:「……ライルート・シュオレグナードです」片膝を付いて礼を。
ミシェル:「……今回は、いつものお花畑じゃないのね?」きょろきょろして「ちょっぴり楽しみにしていたのだけれど」
ライルート:「……本当に、君たちは騎士なんですね」
ライルート:「エンブレイスと戦う、星の騎士だと」
マリア:「もちろん。わたくしは世界を背負う覚悟を持ってここにきていますもの」
マリア:「でも……聞いたことがあります。戦う相手がエンブレイスではない場合があると」
ミシェル:「エンブレイスではない……?」
監督:そのとき。闇がどう、と吹き上がる。
ライルート:「エンブレイスでなければ、一体――」
ミシェル:「……じゃあ、何と戦うの…… ……?」
芳乃百夏:その闇の中から現れたのは、黒いドレスの少女。
芳乃百夏:「……見て。■■■。今日は3人もいる」
芳乃百夏:「でも大丈夫。今日の私は、なんでもできるから」
芳乃百夏:自らの持つ、大斧に向かって話しかける。
ミシェル:「……あなたが、四人目の騎士の方かしら?」
ライルート:「……騎士?いや……」ミシェルを手で制する。
ライルート:「……何だ……?」
マリア:「……エクリプス。ロアテラに支配された騎士」
芳乃百夏:ざんっ
芳乃百夏:その一振りによって起こった斬撃は、3人の隙間を通り抜ける。
ミシェル:「きゃっ……!?」
芳乃百夏:「あぁ……避けられちゃった」
芳乃百夏:「でも……すごいよ。あなたの力がたくさん、流れ込んでくる…」
芳乃百夏:陶然とした表情で呟く。
ライルート:彼女を後ろに下げさせて、咄嗟に抜いた剣を、正眼に構えている。
マリア:「ミシェル、警戒して」
ライルート:「我らが戦うべきは、この女の人だということですか」
ライルート:「これが、エクリプス……」
マリア:「ライルートさん、あなたは騎士とお見受けします」
マリア:「ならば、感じられると思いますわ。あれは、放置していいものではない」
ライルート:「……ご存知でしたら。救出の余地は?」
マリア:「……わたくしが知る限りでは」
マリア:首を横に振る
ミシェル:「……じゃあ……」眉根を寄せて、黒い少女を見遣る。「……あの人も、元々はステラナイツだったってこと……?」
ライルート:「……畏まりました」
ライルート:「……いえ、あるいは」
ライルート:「今もステラナイツであるのかもしれませんね。命を2つ、感じます」
ライルート:「ブリンガーとシースであることに、相違はないのかもしれない」
ミシェル:「……そんな……」無意識に、剣を握り締める。
マリア:「……救う方法はあるのかもしれない。わたくしは最後まで諦めたくはない」
マリア:「でも歴戦のステラナイツであることに違いはない。故に、手を抜いて勝てるような相手ではない」
ライルート:「君たちが傷ついてしまっては意味がない」
マリア:「ならば守ってくださいな、騎士様」
ライルート:「御身の仰るままに」
芳乃百夏:「…なんだか、今日の敵は、たくさん何か言ってる……」
芳乃百夏:「変だね?でも、ねえ、大丈夫」
芳乃百夏:「たくさんいても、私、無敵だから」
芳乃百夏:「はやく、はやく。戦いましょう、待ちきれないの」
マリア:「ミシェル。無理はしないで、わたくしやライルートさんに頼りなさい」
マリア:「わたくしも……二人を頼りにさせていただきますので」
ミシェル:「……そうね」虹の瞳で黒の少女を見据え、頷く。「あの人、すごく強い」
ミシェル:「沢山の強い色が混ざり合って、濁り切ってる」
ミシェル:「頑張りましょう。ここにいる皆、負けるわけにはいかないのだから」
ミシェル:「大丈夫、わたし達は6人もいるのだから」
ライルート:「ええ、我々が敗れれば、それは世界の崩壊につながる」
ライルート:「それに――」エクリプスの少女の姿を見る。
ライルート:(あれに負けては、ハルさんになんと言われるか)
ライルート:「……いえ。来ます」
マリア:「わたくしの野望は世界を優しく美しい世界に変える事」
マリア:「取りこぼしたいものなどありはしない……それでも、それを恐れて戦えないのは愚の骨頂」
マリア:「紫のヒガンバナに賭けて、負けるわけにはいきません」
芳乃百夏:「───行くよ。■■■」
芳乃百夏:その名は、聞き取れない。

監督:戦闘に入ります。
監督:順番に解説しながらいきましょう。まずは、セット。
監督:ラウンド1では、まずエネミーがフラワーガーデンに配置されます。
芳乃百夏:ガーデン6に配置。
監督:次に、ステラナイトのコマをガーデンに配置します。
監督:好きな場所にコマを置いてね。固まっても大丈夫!
監督:相談して決めてもいいよ〜エネミーとの距離とか、スキルとかと見比べて配置してみてね。
ミシェル:3に行きます
ライルート:ガーデン2に配置します。
マリア:ガーデン4に行きます
監督:オーケー!
監督:では、次にステラナイトの行動順を決めます。
監督:これは話し合って自由に決めてOKです。
ライルート:では一番に!
マリア:2番で!
ミシェル:最後三番!
監督:では、準備はここまで!

監督:まず、セットでは舞台のセットルーチンが発動します。
監督:舞台はマップ兵器みたいなもので
監督:セットルーチンはセットアップに色々してくるやつですね。
監督:ラウンド1:セットルーチン「私は夢の中にいる」
監督:このラウンドが終了するまで、エネミーの防御力は1点増加する。
ライルート:いやらしいやつ!
ミシェル:ゲゲェ~ッ
マリア:ぬぬぬ
監督:結構強いやつだぞ がんばってね
監督:では、セット終わり!次はチャージ判定です。
監督:これは、サイコロを振ってどのスキルが使えるかを決めます。
監督:サイコロの目と同じ数字のスキルが使えるわけですね。
監督:同じ目が出たら2回使えたりするわけ
マリア:ほほう
監督:で、このサイコロはキャラシートのチャージダイス数+現在のラウンド数ぶん振ります。
監督:チャージダイスが3なら4個振れると言うわけですね
監督:と言うわけで振っていきましょう。出た目はサイコロシンボルを右クリックで出して、マップの123456ってなってるところに置いていくと良いです。
監督:4b6
StellarKnights : (4B6) → 3,3,4,6

ライルート:4b6
StellarKnights : (4B6) → 1,2,4,5

マリア:3b6
StellarKnights : (3B6) → 2,2,6

ミシェル:3b6
StellarKnights : (3B6) → 2,6,6

監督:えー、このタイミングで
監督:ブーケが使えます

・プチラッキー(3枚)
チャージ判定ダイス1個の出目を増減
1個のダイスのみ、複数回使用可能
1→6 6→1はできない

ミシェル:片方の6を4にします ブーケ258>252
ライルート:プチラッキー使用。1を2に。
監督:1増減につき3枚ですね、はい、そう言う感じです。
ライルート:ライルート・シュオレグナードのブーケを3(→ 3)減少 (347 → 344)
ミシェル:いや……すいません 5ですね ブーケ255個で
マリア:プチラッキー使用、2を3に
監督:エクリプスは…ブーケが使えない…
監督:かなしみ…
マリア:マリア・エルカサンドラのブーケを3(→ 3)減少 (202 → 199)
監督:では、チャージ判定はこれでOK!セットダイス(スキルの上にダイスを置く)もマップでやってもらったので
監督:いよいよアクションに入ります。

監督:まずはエネミーのアクションが最初に来ます。
監督:敵が先に行動すると言うわけ。
マリア:動かれるぜ~
監督:アクションの順番はまず、使うスキルを決めて、使えるタイミングが「あなたのターン」であることを確認して
監督:セットダイスをひとつ取り除いて効果を発動する。
監督:となります。
監督:実はね〜〜
監督:あなたのターンにつかえるのが
監督:今回4しかない
監督:《黒き絢めきは刃の如く》
監督:0〜2マスまで移動する。その後、キャラ1体に【アタック判定:[2+移動したマス数](+1)ダイス】を行う。その後、あなたは1点のダメージを受ける。
監督:この(+1)はエネミー補正です
監督:まあこれなら2マス移動かな
監督:ガーデン4に移動します。
監督:そして、
監督:choice[ミシェル,マリア]
StellarKnights : (choice[ミシェル,マリア]) → マリア

マリア:ヒエーッ
監督:マリアにアタック判定。
監督:5SK[4] 5…アタックダイス数[4]…相手の防御力
StellarKnights : (5SK) → 1,2,2,6,6

監督:表記方法間違えた…
監督:この場合は5SK4が正しいです
監督:それはそれとして、防御力以上の出目を出したダイスの数がダメージになるので
監督:この場合2ダメージですね
マリア:2ダメージ!いたい!
監督:ダメージを受けたタイミング発動スキルはないな…
監督:で、使えるスキルがないのでエネミーのターンはこれで終了です。

監督:で、行動完了になって、次にライルートくんのターン。
監督:ターンのはじめに予兆が発生します。
監督:予兆とは、舞台が引き起こす攻撃とかの予告ですね。
監督:これがガーデン指定だったらそれに合わせて移動したり、対策が取れるというわけ
監督:アクションルーチン1:「私は小さく無力で」
監督:この効果が実行される時点で、ステラナイトのうち今いるガーデンの値が最も低いステラナイト1体に【アタック判定:7ダイス】を行う。
監督:えーと…
監督:誰か一人は必ず喰らいます 耐久力と相談してね
ライルート:このままだと私が食らってしまうわけですね。
監督:そうです
監督:ライくんは耐久力が低いので
監督:出来れば回避したい感じ
ライルート:では、まずはNo.4 深遠なる熟慮を使用。
ライルート:同意するキャラクター全員は【チャージ:1ダイス】を行う。あなたがガーデン1にあるならチャージした全員の耐久力を[ラウンド]点回復
ライルート:みんな追加でチャージダイス振っちゃって~
ライルート:後半の効果は不発。
マリア:やったー
ライルート:1b6
StellarKnights : (1B6) → 1

ミシェル:わ~い
マリア:1b6
StellarKnights : (1B6) → 4

ミシェル:1b6
StellarKnights : (1B6) → 2

ライルート:プチラッキーで出目を1→3に。
ライルート:ライルート・シュオレグナードのブーケを3(→ 3)減少 (344 → 341)
ライルート:ライルート・シュオレグナードのブーケを3(→ 3)減少 (341 → 338)
ミシェル:プチラッキーで出目を2>4に
ミシェル:芳乃百夏のブーケを6減少 (180 → 174)
ミシェル:ミシェル・シュクロウプのブーケを6減少 (255 → 249)
マリア:プチラッキーで4を5に変えます
マリア:マリア・エルカサンドラのブーケを3(→ 3)減少 (199 → 196)
マリア:ダイス目を変更しました。(4 → 5)
ライルート:続いてNo5 蒼天の架け橋
ライルート:0~2マスまで移動し、【アタック:移動したマス+1ダイス】を行う
芳乃百夏:《儚き夢こそ我が彩り》をアタック判定直前に使用。
監督:ちょっと早かったかな 移動もどうぞ
ライルート:2→4に移動して攻撃します。
芳乃百夏:これはスキル3ですね
芳乃百夏:この1回のアタック判定の間、キャラ1体の防御力を[現在のラウンド数]点増加。効果は重複しない。
芳乃百夏:なので防御力が5になります。
マリア:めっちゃかたくなる
ライルート:ヤバ……
ミシェル:かちかち
ライルート:アタックは2マス移動したので3ダイス 咲き乱れよ、騎士のためにの常時効果で+1
ライルート:ここにダイスブーストを3回使用。アタックダイスを+3個します。
ライルート:ライルート・シュオレグナードのブーケを12(→ 12)減少 (338 → 326)
ライルート:計7個でアタック判定。
ライルート:7SK5
StellarKnights : (7SK5) → 1,1,3,5,5,6,6 → 成功数: 4

ライルート:いい感じ!
監督:うわマジで!?
監督:芳乃百夏の耐久力を4減少 (0 → -4)
監督:だいぶ痛い
ライルート:イエイ イエイ
ライルート:続いてNo2 咲き誇れ薔薇の花 を2度使用。
ライルート:対象1体に【アタック:2ダイス】を行い、対象1体に【アタック:2ダイス】を行う。その後耐久力を2点回復
芳乃百夏:儚き夢こそ我が彩り。
芳乃百夏:また防御を5点にします。一回のアタック判定の間のみです。
芳乃百夏:つまり1回目に対しては5、2回目に対しては4というわけね
ライルート:1撃目。ダイスブーストを3回使用。
ライルート:いや……
ライルート:人にもらったほうがいいかな。
マリア:じゃあやるー
ミシェル:投げます
ライルート:やった~ じゃあマリアさんに1撃目もらおう
マリア:OK!
ミシェル:2回目に投げます
ライルート:ミシェルさんには2発目にもらうね
マリア:ダイスブースト!3回!
マリア:マリア・エルカサンドラのブーケを12(→ 12)減少 (196 → 184)
ライルート:ありがたく!
ライルート:基本2+ 咲き乱れよ、騎士のために+1 ブースト+3
ライルート:6SK5
StellarKnights : (6SK5) → 3,4,4,6,6,6 → 成功数: 3

ライルート:調子いいな……
監督:芳乃百夏の耐久力を3減少 (-5 → -8)
ライルート:2撃目!
ミシェル:ミシェル・シュクロウプのブーケを12減少 (249 → 237)
ミシェル:投げ!
ライルート:受け!
ライルート:再び6個になりました。判定します。
ライルート:6SK4
StellarKnights : (6SK4) → 2,3,6,6,6,6 → 成功数: 4

ライルート:メチャクチャ調子いい
監督:6が多い
監督:芳乃百夏の耐久力を4減少 (-8 → -12)
監督:もうだいぶ削れた
ライルート:じゃあ2回めの咲き誇れ薔薇の花に。
ライルート:対象1体に【アタック:2ダイス】を行い、対象1体に【アタック:2ダイス】を行う。その後耐久力を2点回復 これです
ライルート:ダイスブースト!
ライルート:ライルート・シュオレグナードのブーケを12(→ 12)減少 (326 → 314)
ライルート:6SK4
StellarKnights : (6SK4) → 1,1,3,3,6,6 → 成功数: 2

ライルート:ん~ リロールしてみよう
監督:おっと
監督:どうぞ
ライルート:ブーケを5個消費で一度だけ振り直せます
ライルート:振り直した結果は必ず適用。
ライルート:ライルート・シュオレグナードのブーケを5(→ 5)減少 (314 → 309)
ライルート:6SK4
StellarKnights : (6SK4) → 3,4,4,5,5,6 → 成功数: 5

監督:マジかよ…
ライルート:えへへ……
ミシェル:なにこれ……
監督:芳乃百夏の耐久力を5減少 (-12 → -17)
監督:あっちょっとまって
ライルート:ムッ
監督:ここだ。スキル使います。
芳乃百夏:スキル6:黒影はほら、あなたの後ろに
芳乃百夏:ダメージを与えたキャラに対し、[受けたダメージと同じ値]のダメージを与える。
ライルート:痛すぎる
芳乃百夏:ライくんに5ダメージ返します。
マリア:カウンター!
ライルート:つまり5点喰らい、2点回復し、2点回復し
ライルート:1点減りました
監督:???
ライルート:耐久12→11に。
ミシェル:なにこれ……
監督:紙耐久…?
ライルート:最後の一撃……ん~
ライルート:ブーストなしで行くか
ライルート:3SK4
StellarKnights : (3SK4) → 1,1,3 → 成功数: 0

ライルート:リロール!
ライルート:ライルート・シュオレグナードのブーケを5(→ 5)減少 (309 → 304)
ライルート:3SK4
StellarKnights : (3SK4) → 2,3,6 → 成功数: 1

ライルート:1点です。
監督:芳乃百夏の耐久力を1減少 (-17 → -18)
ライルート:最後にNo.3 咲き乱れよ、騎士のために のアクティブの効果を使用。
ライルート:あなた以外のキャラクターに【チャージ:1ダイス】、耐久2点回復
ライルート:ミシェルさんに使用。
ライルート:耐久回復は最大値を超えます このゲームは
ミシェル:そうなの!?
ミシェル:破裂しちゃうよ~
ライルート:チャージどうぞ~
ミシェル:1b6
StellarKnights : (1B6) → 2

監督:p.148ですね>耐久最大値超え
ミシェル:プチラッキーで3にします
ミシェル:ミシェル・シュクロウプのブーケを3減少 (237 → 234)
ライルート:これで全て使い終えました 終わりです
ミシェル:ミシェル・シュクロウプの耐久力を18に変更 (16 → 18)
監督:では、舞台の効果が発動。
監督:今ガーデン数がいちばん低いのはミシェルちゃんなので
監督:ミシェルちゃんにアタック判定7ダイス
監督:割り込みありますか?
ミシェル:あります!
監督:どうぞ!
ミシェル:《輝きの盾》アタック判定の対象1体の耐久力を1点回復し、これから行われる1回のアタック判定の間、防御力を1点増加する
ミシェル:それと《より迅きは光の一手》あなたにアタック判定を行おうとしているキャラクターに(1+ラウンド数)のダメージを与える。また、これから受けるアタック判定1回の間、あなたの防御力を(ラウンド数)点増加する。
ミシェル:1回復して防御力が6になります
監督:6出さないとダメ!
ミシェル:ミシェル・シュクロウプの耐久力を19に変更 (18 → 19)
監督:硬すぎ〜
監督:舞台の攻撃だから反射は来ないのね
監督:では、アタック判定いきます
監督:7SK6
StellarKnights : (7SK6) → 1,3,3,3,6,6,6 → 成功数: 3

ミシェル:ぎゃ~出しすぎ
監督:3ダメージ通りました
ミシェル:ミシェル・シュクロウプの耐久力を16に変更 (19 → 16)
監督:では、ここまででいったん演出しましょう!
監督:まずはエクリプス側の攻撃から、その後ライくんのターン〜舞台の攻撃まで!

芳乃百夏:足元から力が登ってくる。本当に、何でもできてしまいそうだ。
芳乃百夏:いつも以上に、強く守られている。それは恋する相手のものか、自身のものか。
芳乃百夏:地面を蹴る足が軽い。大きな斧も、全然重くない。
マリア:「……来る……!!」
芳乃百夏:少し離れた、小さな影のところに辿り着き、振りかぶった斧を叩きつける。
芳乃百夏:「……えい」
芳乃百夏:ごぽり。
芳乃百夏:その攻撃を終えると共に、口から黒い澱みが吐き出される。
マリア:「……!!ぐ、あっ!」剣でガードしようとするも弾かれ、ドレスが裂ける
ミシェル:「マリアちゃん!」
ライルート:「くっ……」
芳乃百夏:そのまま、動かない。
芳乃百夏:斧を地につけたまま、君たちを見ている。
マリア:「わたくしは平気です……それより……様子が……」
ライルート:駆け出し、マントが翻る。
ライルート:翼あるように疾駆。そこにたどり着く。
芳乃百夏:斧を盾のように、眼前に構える。
芳乃百夏:「…疾いね」
芳乃百夏:「でも、平気だよ」
芳乃百夏:「ね、■■■」
ライルート:粒子が舞い、2人の少女の力を活性化しながら、
ライルート:迫り、目にも留まらぬ連撃。
ライルート:奇を衒ったものではない。
ライルート:ただやはり、正しく、美しい、教本通りの剣。
芳乃百夏:斧の防御を時折通り抜けて、刺突が至る。
ライルート:それは弱いということにはならない。
芳乃百夏:「……ふふっ」
ライルート:確かに通る。それは正しいから受け継がれている。
ライルート:万全ならば、最も効率の良い――
芳乃百夏:ふわり、と
芳乃百夏:ドレスのスカートがめくれていく。
芳乃百夏:何層にもなったスカートが、いちまいずつ
ライルート:それには目もくれず、さらなる追撃をと構えて。
芳乃百夏:その、中から
芳乃百夏:黒い影が溢れ出す。
ライルート:「……!」
芳乃百夏:構えた眼前の敵を飲み込み、闇に溺れさせる攻撃。
芳乃百夏:背を逸らして闇の奔流を味わう。
ライルート:――かわせるか。いや。
ライルート:踏み込み、前へ。
ライルート:影の浸蝕を受けながらも、そこの通過時間を最小限に。
ミシェル:「……ライルートさん……!」
ミシェル:純白のドレスから溢れ出したシャルトルーズイエローの輝きが、彼の身体を加速させる。
マリア:「受け取って……!」あふれ出る光が力を与える
ライルート:(……ミシェルさんに、マリアさんか)
ライルート:激痛に苛まれながらも、まるでそれを意に介しないかのように。
ライルート:光剣が幾条もの剣閃を描く。
ライルート:8の字を描くように剣を動かしていく、王道の剣。
ライルート:反撃を受けながらでもなお、その動きが乱れることはない。
ライルート:速度と膂力で敵を圧倒する、基本にして真髄。
芳乃百夏:「あ あ あ あ あ」
芳乃百夏:影を透過して辿り着く剣に声をあげる。
ライルート:「君と、君のシースが。どれだけ強いのかは分かりませんが」
ライルート:「ハル・メリア・マグノリアには及ばないでしょう」
ライルート:「やはり、私は。あの人以上の騎士を見たことはない」
芳乃百夏:「………誰?」
芳乃百夏:「……私のことはいいんだあ」
芳乃百夏:「でも」
芳乃百夏:「このひとのことを、ばかに」
芳乃百夏:「するな!!」
芳乃百夏:どうっ
芳乃百夏:舞台が、咆哮を上げる。
ライルート:「まだ、これほどの力が……!」
ライルート:連撃を取りやめて。
ライルート:その魔手の予兆を聞く。
ライルート:(この局面で、もっとも不意をつくなら)
ライルート:「ミシェルさん!」
芳乃百夏:その力の奔流は、隣の庭にいた盲目の影に向かう。
ミシェル:「……!」
ミシェル:画用紙に水彩絵具を落としたように、ドレスから色彩が溢れ出す。
ミシェル:障壁めいて立ち昇るベルディグリの輝きが、奔流を阻み、衝撃を相殺する。
ミシェル:「っ……!」
ライルート:その奔流の根を、遅れて切断した。
ライルート:「無事ですか!」
ミシェル:「……え、え……!」
ミシェル:全くの無傷とはいかない。影に侵蝕され、拒絶反応のようにドレスから燐光が弾ける。
ミシェル:「有難う、助かったわ」
ミシェル:「……強いのね、とても」
ミシェル:「あなたも、あの人も」
ライルート:「鍛えられていますから。ええ、あちらは――」
ライルート:「情念を感じます。とても深く、踏み入れそうにない、力を」
マリア:「……まだやる気、みたいね」
ライルート:ふう、と息を吐く。疲労が激しい。
ライルート:「お気をつけて」
マリア:「……ええ」

監督:では、マリアさんのターンへ。
監督:予兆が発生します。
監督:アクションルーチン2:「あなたの手は大きい」
監督:この効果が実行される時点で、ステラナイトのうち今いるガーデンの値が最も高いステラナイト1体に【アタック判定:7ダイス】を行う。
マリア:はわわ
監督:がんばってね
ライルート:結局こっちもじゃん!
監督:そういえば予兆の直後に使えるスキルがあったようですが
監督:どうしますか?
マリア:そうですね、とりあえず
マリア:5番、紫縞の裏路地を使用します
監督:どうぞ!
マリア:この効果に同意するあなた以外のキャラクター1体は1~3マスまで移動できる
マリア:対象はライルートくんかな
ライルート:はい……ライルート動きます
監督:催眠・・・
マリア:好きに動きなさい!
ライルート:では2に!
監督:くっにげられた
監督:では、そのままマリアさんのスキル使用ですね
マリア:OK、とりあえず6番、闇夜に並ぶ九つの塔を使用!
マリア:同意するならチャージ判定[現在のラウンド数]ダイス!その代わり[現在のラウンド数]分のダメージ!
監督:ふんふん ダメージを受ける代わりにチャージ判定!
マリア:ライルートくん、ミシェルちゃんはやるか選んでくれ!
ライルート:同意します!
マリア:私はやる!
ミシェル:同意!
ライルート:耐久は11→10へ。
ミシェル:ミシェル・シュクロウプの耐久力を15に変更 (16 → 15)
ライルート:1d6
StellarKnights : (1D6) → 6

マリア:耐久14→13
ライルート:あっ欲しいやつが出た このままで
ミシェル:1b6
StellarKnights : (1B6) → 4

マリア:1b6
StellarKnights : (1B6) → 4

ミシェル:プチラッキーで4>5に
マリア:このままで
ミシェル:ミシェル・シュクロウプのブーケを3減少 (234 → 231)
監督:OK!
監督:どうすればいいか悩んだ時は相談とかどんどんしよう
マリア:はーい
監督:スキルはばんばか使っていいからね〜
マリア:2番、紫影の剣で3に移動してアタック判定:3ダイス!
マリア:3番
監督:ダメージブーストもできるぞ
ライルート:こっちでやろう!
ライルート:ダイスブーストを3回します!
マリア:それを待っていたぜ
ライルート:ライルート・シュオレグナードのブーケを12(→ 12)減少 (304 → 292)
マリア:これで6ダイス!
監督:こっちの防御は4!
マリア:6SK4
StellarKnights : (6SK4) → 1,1,1,2,2,4 → 成功数: 1

マリア:んーこれはリロール
監督:うむ
マリア:マリア・エルカサンドラのブーケを5(→ 5)減少 (184 → 179)
マリア:6sk4
StellarKnights : (6SK4) → 1,1,3,3,4,6 → 成功数: 2

マリア:ふるわないなあ
ライルート:思考の渦使用します。
監督:来た
ライルート:1,1を振り直してください。
マリア:なんと
マリア:2sk4
StellarKnights : (2SK4) → 2,5 → 成功数: 1

ライルート:よきよき
マリア:いっこふえた!
監督:3ダメージだ!
監督:芳乃百夏の耐久力を3減少 (-18 → -21)
監督:まだ立ってるぞ〜
マリア:では4番、紫縞の回廊を使用
マリア:対象はライルートくん!1か3に移動しつつ耐久力を2点回復したまえ!
ライルート:たすかります!1に行こうかな。
ライルート:耐久は10→12に。
監督:うお〜
マリア:最後に2番!勝利と敗北の彼岸!奇数ガーデンのキャラは全て耐久1回復!偶数ガーデンは1点ダメージだ!
監督:芳乃百夏の耐久力を1減少 (-21 → -22)
ミシェル:わ~い
ミシェル:ミシェル・シュクロウプの耐久力を16に変更 (15 → 16)
マリア:つまりこっちが全員1回復して相手が1ダメージ受けるってことだぜーッ!
ライルート:ワオワオ
ライルート:耐久12→13に!
マリア:マリア・エルカサンドラの耐久力を1(→ 1)増加 (13 → 14)
マリア:これでできることはすべてやった
監督:OK!では舞台の効果が発動!
監督:ステラナイトがいるのは1番と3番なので3番の一人に…今回はミシェルちゃんにアタックが行きます
監督:アタック判定ダイス7だ
ミシェル:やめて~
監督:7sk4
StellarKnights : (7SK4) → 1,1,1,1,3,3,5 → 成功数: 1

監督:マジかよ…
ミシェル:痛い~
監督:エネミーにリロールはない
ライルート:そんなことあるんだ
ミシェル:ミシェル・シュクロウプの耐久力を15に変更 (16 → 15)
マリア:痛かったのだ
監督:じゃあ演出行きましょう

マリア:「我が道を開け……行け!」紫の彼岸花が道ならぬ道を作り出す!
マリア:「ライルートさん、その道を通って体勢を立て直してください!」
ライルート:反駁は一瞬もない。我が意を得たとでも言うように頷き返し、その道を駆ける。
マリア:「そしてあなたには……こう!」百夏を剣で一気に切りつける!
芳乃百夏:「あっ!」
マリア:「ふっ!」そのまま彼岸花の道で一気に距離を離す
ライルート:立て直した体勢の先で、剣を投げつける。追撃の起点を潰す。
芳乃百夏:「やっ!」
芳乃百夏:「…だめ、ぜったい」
芳乃百夏:「勝たなきゃ」
芳乃百夏:「だって」「無敵なんだから」「私たちは」
マリア:「……想いは同じ、なればこそ、わたくしはその罪を背負ってでも勝たなければならない」
マリア:「我が光よ、我が世界よ。今ここに理想の世界を築かんことを」
マリア:「此方に力を!彼方に痛みを!しかしてわたくしは、いずれすべてを引き連れよう!!」
マリア:「溢れろ!!」その力は、マリア達に活力を与え、百夏にダメージを与える!
芳乃百夏:「あ……あ!」それは、痛みではない。守られているその身に痛みはない。
芳乃百夏:ただ、悔しくて、悲鳴を上げる。
ライルート:「……すごいもんだな」
マリア:「信じる者あればこそ、ですわ」
芳乃百夏:「う……あ……」「ああっ!」大斧を、振りかぶる。
芳乃百夏:それは、先ほどと違ってひどく重そうで。
芳乃百夏:「やあっ!!」地面に落ちた、その斬撃は狙いをそれて、ミシェルを掠めるだけに終わった。
ミシェル:溢れ出した暗緑、スプルースの色彩が結晶化し、両者を阻む壁となる。
ミシェル:「……わたしがなるべく受け止めるわ」
ミシェル:黒の少女を見据えたまま、背後の二人に向けて言う。
ミシェル:「出来るだけ早く、終わらせてあげて」
ライルート:「……気をつけて」

監督:ではミシェルちゃんのターンへ!
監督:予兆!
監督:3:「心の天秤は傾き」
予兆の段階で[1ダイス]振る。効果が実行される時点で、予兆で出た目と同じ番号のガーデンにいるステラナイト全員に【アタック判定:5ダイス】を行う。誰もいないなら、全てのステラナイトに【アタック判定:4ダイス】を行う。

監督:1d6
StellarKnights : (1D6) → 3

監督:3の全員にアタック5だよ〜
マリア:うわ、3じゃん
監督:じゃあミシェルちゃんどうぞ!
ミシェル:《閃光の突撃》でガーデン3>5まで移動、1+移動したマス数のアタック判定を行います。
ミシェル:2マス移動しつつ、3回ダイスブースト
ミシェル:ミシェル・シュクロウプのブーケを12減少 (231 → 219)
ミシェル:6SK4
StellarKnights : (6SK4) → 1,2,3,4,6,6 → 成功数: 3

ミシェル:リロールなし
監督:芳乃百夏の耐久力を3減少 (-22 → -25)
監督:かなりやばい
ミシェル:《オダマキの花言葉は》を2回使用します。
監督:ヒィ
ミシェル:1回目、ガーデン5>3に移動。
ミシェル:5+移動したマス数ぶんのアタック判定を行います
監督:来ませい
ミシェル:これもダイスブースト
ミシェル:ミシェル・シュクロウプのブーケを12減少 (219 → 207)
ミシェル:10SK4
StellarKnights : (10SK4) → 1,2,2,2,3,3,3,3,4,4 → 成功数: 2

ミシェル:いやいやいや
ミシェル:リロールします
監督:はい
ミシェル:ミシェル・シュクロウプのブーケを5減少 (207 → 202)
ライルート:こんなにあるのに
ミシェル:10SK4
StellarKnights : (10SK4) → 1,2,3,3,4,4,4,5,5,6 → 成功数: 6

ミシェル:まあよし
監督:芳乃百夏の耐久力を6減少 (-25 → -31)
監督:あー
監督:ジャスト!
監督:死にます
ミシェル:倒した……
監督:君たちの勝利だ…!
ライルート:ひゅう!
ミシェル:1+移動分のダメージを受けます
マリア:やったぜー
ミシェル:ミシェル・シュクロウプの耐久力を12に変更 (15 → 12)
監督:【Finish move:ミシェル・シュクロウプ…《オダマキの花言葉は》】
監督:演出をどうぞ〜

ミシェル:虹色の双眸を開いて、決闘場を見渡す。
ミシェル:暗い淀みに満ちた舞台。花園と比べれば、禍々しくすらある。
ミシェル:けれどそんな光景も、ミシェルにとっては美しい、掛け替えのない、一秒たりとも見逃したくないものだ。
ミシェル:一度、目蓋を閉じる。広がるのは彼女の親しんだ、誰よりも良く知る暗闇だ。
ミシェル:「……ええ、ユミナ」
ミシェル:目蓋の上から、眼球を撫でるようにして。
ミシェル:「よく見えるわ」
ミシェル:それから、黒の少女を見据える。
ミシェル:「……聞かせて頂けるかしら」
ミシェル:「あなた達のお名前は、何というの?」
芳乃百夏:「……百夏。芳乃百夏」
芳乃百夏:「……この人は」斧を愛おしげに撫でる。
芳乃百夏:「■■ラ」
芳乃百夏:「私の、いちばん」
芳乃百夏:「いちばんのひと」
ミシェル:「……そう……」
ミシェル:「……そうなのね」
ミシェル:芳乃百夏の──二人の姿を、その眼に、脳裏に焼き付ける。
ミシェル:決して忘れてしまわぬように。自らが乗り越えるべきものを、糧とするものを、踏みつけにするものを。
ミシェル:純白のドレスから、膨大な色彩の奔流が溢れ出す。それは地上に虹が架かるのにも似て。
ミシェル:疾駆するウィスタリア。
ミシェル:力強いコバルトブルー。
ミシェル:活力のメイズ。
ミシェル:燃え盛るスカーレット。
ミシェル:幾重にも重なる無数の輝きが混然一体となり、苧環の花弁にも似た結晶となって散っていく。
ミシェル:やがて混ざり合う輝きは、白を織り上げ、溶けていく。
ミシェル:「百夏」
芳乃百夏:「……?」
芳乃百夏:「なあに」
ミシェル:レイピアの切っ先を向け、構える。
芳乃百夏:斧を、抱きしめる。
ミシェル:「あなたと、あなたの大事な人のこと」
ミシェル:「決して忘れないわ」
芳乃百夏:「私たちは」
芳乃百夏:「負けちゃうの?」
芳乃百夏:一筋の涙が伝う。
ミシェル:「──ええ」
ミシェル:彼女を見据えたまま、言い切る。
ミシェル:「わたしが。わたし達が」
ミシェル:「勝たせて貰う」
ミシェル:一閃。
ミシェル:彗星にも似た輝きが、大斧を抱く少女を貫いた。
芳乃百夏:「ああ………」
芳乃百夏:「ごめん……ね」
芳乃百夏:「……カーラ……」
芳乃百夏:歪みの消えたその言葉が、溢れて落ちる。
ミシェル:虹色の色彩が、暗い淀みを照らして舞い散っていく。
監督:照らされた淀みは、そのまま流れ落ちて───
監督:元の美しい庭の姿を取り戻していく。
芳乃百夏:少女は、
芳乃百夏:斧を掻き抱いたまま、仰向けに倒れていた。
ミシェル:「……そう……」
ミシェル:「……カーラというのね」
ミシェル:「覚えておくわ」
ミシェル:静かに呟き、瞑目する。
ライルート:そこに駆け寄り、倒れた少女の首筋に手を添える。
ライルート:「……脈があります」
ライルート:「あるいは、ロアテラの支配のみが、崩れたと。そうとも取れますが……」
芳乃百夏:「ん……」
芳乃百夏:触れる感触に身動ぎする。
マリア:「命に別状はなさそうだけど……」
ライルート:「……よかった」と漏らす。
芳乃百夏:少女の瞼がゆっくりと持ち上がる。
ミシェル:「あっ……」
ミシェル:「……目が覚めた?」
ライルート:「……そのようですね」剣を握ったまま、2人を遠ざけるような位置取りで。
芳乃百夏:「……」パチパチと瞬きをして、身体を起こす。
芳乃百夏:「……ステラナイト?」
芳乃百夏:君たちを見て、不思議そうに呟く。
ライルート:「……ええ、我々はステラナイトです」
芳乃百夏:「……そう……だったんだ」
芳乃百夏:「私……そっかあ」ヴェールの奥の表情が悲しそうな笑みに変わる。
マリア:「……エクリプスになると、ステラナイトがエンブレイスに見えると話には聞いたことがあるけど……」
ライルート:「……あ、貴女を」
ライルート:「支配していたものは、打ち砕きました。ご安心ください」
芳乃百夏:折り曲げた膝に、顔を埋める。
芳乃百夏:「いいの。もう」
芳乃百夏:「……もう、おしまい」
芳乃百夏:「私はどうなってもよかった……」
ライルート:「何を……」
ミシェル:「……あなたの、シースのこと?」
芳乃百夏:「……」頷く。
芳乃百夏:「あのひとをしあわせに、したかった」
ライルート:「……貴女のシースが、どういう人なのか、私は知りえませんが」
ライルート:傍らに転がる、ひび割れた斧を見る。「ですが」
ライルート:「まだ遅くないでしょう」
ライルート:「貴女も、貴女のシースも、まだ生きているんですから」
マリア:「ええ、ステラナイツとしてはもう活動できないでしょうけど」
マリア:「共に過ごすだけなら問題ないんじゃないかしら」
芳乃百夏:「…私の、ねがい」
芳乃百夏:「……もう、叶わないんじゃないのかな」
マリア:「……どうして?」
芳乃百夏:「もう、ステラナイトじゃない」
ライルート:「……貴女の、願いは。何だったんです」
芳乃百夏:「……笑って、ほしかった」
芳乃百夏:「あのひとの、ほんの時々しか見せてくれない笑顔」
芳乃百夏:「それを、ずっと、ずうっと、守っていたかった」
芳乃百夏:「何にも…脅かされることなく」
芳乃百夏:世界の滅びにも。私にも。
ライルート:「……それは」
ライルート:「……まだ、叶えられるでしょう」
ライルート:「ロアテラとの戦いは、我々が引き継ぎます。それに脅かされぬようにするのは、きっと、成し遂げましょう」
ライルート:「それ以外の他の脅威からは、貴女にお任せします」
ミシェル:「……ええ」
ミシェル:「それは、あなたにしか出来ないことでしょう。百夏」
芳乃百夏:「……わたしが」
芳乃百夏:「傷つけたの……」
芳乃百夏:ヴェールの下の顔を覆う。
マリア:「……」
マリア:「傷つけて……それで、どうしたの?」
芳乃百夏:「……ここに、来た……」ただ、手折って。自分のものにした。
芳乃百夏:「このドレスに……武器に、して……」
マリア:「……あなたは……その人を傷つけて、見限られたと思っているの?」
芳乃百夏:笑う。「きっと、今までと変わらないで接してくれるけど」
芳乃百夏:「でも、きっと」
芳乃百夏:「いやになってるよ」
ミシェル:「カーラがそう言ったの?」
芳乃百夏:首を振る。
ミシェル:「それなら、信じてみたらどう?自分のシースのことを」
ミシェル:「もし怒られたら、謝ればいいわ」
ミシェル:「結果がどうあれ、あなたは責任を取らなくてはいけない」
ミシェル:「話すのなら、わたし達にではなくて、その人にでしょう」
芳乃百夏:「……」
芳乃百夏:「なんだか、私、こどもみたいだね」
芳乃百夏:「……ごめんね」
芳乃百夏:「話して、みる…」
ミシェル:「それがいいわ」微笑する。
芳乃百夏:ドレスと武器の周りに、静かに光の粒子が起こる。
芳乃百夏:「……私は、死なせたくなかった」
芳乃百夏:「そんな、願いも」
芳乃百夏:「こうして……歪んでしまう」
芳乃百夏:「気をつけてね」
マリア:「……肝に銘じます」
ライルート:「……承知しました」
ミシェル:「ええ」頷く「忘れない」
マリア:「(わたくしの道は、特にそういった穴に陥りやすい……常に自分を見つめなおさないと……)」
芳乃百夏:「……じゃあ」
芳乃百夏:「さよなら」
芳乃百夏:そのまま、光に包まれて、消える。
ライルート:「……あれが、エクリプスですか」
ライルート:「我々も、ああなる可能性を秘めている、と」
マリア:「……そう、ですわね」
ライルート:「無論、進んでなるつもりはありませんが。お嬢様がたも、お気をつけください」
ライルート:「戦場では何が起きるやも分かりませんから」
ミシェル:「……それでも、止まれないものね。わたし達」
ミシェル:「お互い、譲れないものがあるのだから。それに」
ミシェル:「あの人の夢を、踏みつけにしたのだから」
ミシェル:消えていく光の粒子に目を細める。
マリア:「ええ、わたくしも背負っていきますわ」
マリア:「そして、わたくし達がわたくし達であるために、戦い続けることを誓いましょう」
マリア:再び、祈る。ここに立ったすべての者たちへ。

カーテンコール

青のバラ

ライルート:再び、いつもの訓練場にて。
ライルート:少年が剣を佩き、深く一礼する。
ハル:少女が剣を携え、緩く一礼する。
ライルート:「……参ります」
ハル:「ん。掛かってきなさい」
ライルート:「ふっ――!」正眼からの、神速の突き。今までと全く変わっていないような。
ハル:突きの軌道が逸れ、刀身が弾き上げられる。
ハル:返す刀が胸元を掠める。
ハル:「今回のステラバトルはどうだった?ライくん」
ライルート:そのまま、弾かれた剣を振り下ろす。想定済みだとでも言うように。
ライルート:「どうって……!何です」
ハル:ぐるん、と身体を捻り、軽やかに回避する。
ハル:「あるでしょ、感想とか」
ライルート:それを受けて素早く剣を引き戻し、次の攻撃の準備を。
ライルート:「感想って……驚きましたよ」
ライルート:再びの突き。隙の少ないコンパクトな軌道。
ライルート:「ステラナイトが相手とは、そんな場合があるとは、思いませんでしたから」
ハル:「エクリプスってやつだっけ」最小限の動作で躱し、スカートの内から短刀を投げ放つ。
ライルート:「ええ」身をかがめるようにして回避して。「シースへの歪みが蓄積すると」
ライルート:「ロアテラの精神支配の餌食になりうるそうです」足元を払う横薙ぎ。
ハル:人間離れした身軽さで跳躍し、刃を飛び越える。空中でライルートの肩を蹴り、とん、と背後に着地して。
ハル:「じゃあ、僕達もそうなりかねないってわけだね」
ライルート:「させません」素早く振り向いている。
ライルート:「君にそうさせないようにします」
ハル:「ライくんが?」
ハル:面白そうに目を細めて
ハル:「どうやって?」
ライルート:「……どうやってって……勝てばいいんでしょう」
ライルート:「君を傷つけさせること無く、正しく」
ハル:「うーん……」
ハル:「65点」
ライルート:「……」
ライルート:「……私と、ハルさんで、勝ちます」
ハル:「ん。それなら80点くらいかな」
ライルート:「ええ……まだ100にならないんですか」
ライルート:「ハルさんを入れておけば満足すると思ったんですが……」
ハル:「それ、普通口に出す?」口を尖らせる
ライルート:「え……あ」
ライルート:「いや、その……」
ハル:「50点減点」
ライルート:「あああ」
ハル:「赤点だね。ライくんは色々分かってないなあ」
ハル:「女の子の扱いも、騎士のたしなみなんじゃないの?」
ライルート:「今のがよくなかったことは……認めますが」
ライルート:「……それは……そうなのですが」
ライルート:「その……どうしていいものか……」
ハル:「はぁ……」これ見よがしに溜息を吐く。
ライルート:「ハルさんは、どうすればいいと思いますか」
ライルート:「教えてもらえれば、そのようにします」
ハル:「どうすれば、ねえ……」
ライルート:じ、とその顔を真剣な眼差しで見る。
ハル:「こういうのは、相手を喜ばせなきゃダメなんだよ」
ハル:「ライくんはいつも素直に言いすぎ」
ライルート:「喜ばせるために、空言を言えと?」
ライルート:「それは……できません。道理に反するでしょう、そんなことは……」
ハル:「ちょっとわざとらしくても、相手が嬉しくなってくれるならそれでいいじゃん」
ハル:「誰も傷付かないなら嘘とは言わないんだよ、ライくん」
ライルート:「……」
ライルート:顎に手を当てて考える。「そうでしょうか……」
ハル:「そうなの。試しに僕に言ってみなよ」
ライルート:「ええ……?」
ライルート:「……ハルさんはでも、そういうことは……」
ライルート:「言われ慣れているでしょう。騎士団でも、皆が……」
ハル:「だから、試しにって言ってるじゃんか」
ハル:「いつか好きな女の子が出来た時、そんなことじゃ困るんじゃないの~?ライくんもさ」
ライルート:「……いや私は、そういうのは……」
ライルート:「考えないように……」
ハル:「ふーん」腰に手を当てて待っている。
ライルート:「……」
ライルート:「……目」
ハル:「め?」
ライルート:「瞳が。綺麗だと思います。その、美しい、瑠璃のような、眼が」
ライルート:「吸い込まれるようで……それから、髪が、その」
ライルート:「艷やかで、美しく、その……戦う度に、舞うように、流れるような優雅さで」
ライルート:「それから、その、」
ライルート:「笑顔が」
ライルート:「笑顔が、可愛らしいと、思います」
ハル:「……」
ライルート:「それで……」
ライルート:「……」
ライルート:「……あ、あの」
ライルート:「何とか言ってください」
ライルート:「点数は……」
ハル:「……や……」
ハル:「…………ふーん……」
ハル:「……やっぱ、こういうの向いてないね。ライくん」
ライルート:「……ええ……?」
ライルート:「ハルさんがやれって……」
ハル:「他の子に言うの、やめといた方がいいよ。笑われるから」
ハル:「ライくんは、今のままで丁度いいね」
ライルート:「いや別に言いませんが……」
ライルート:「いいんですか?今30点なんですけど」
ハル:「いーいーの!」
ライルート:「……?怒ってます……?」
ハル:「は?どうして僕が怒る必要あるのさ」
ライルート:「いや、あの、誤解が在れば訂正しますが……先程のは」
ライルート:「その、嘘を申し上げたわけでは……」
ハル:「……あー、はいはいはいはい。わかったわかった」
ハル:「わかったから、この話終わりね」
ライルート:「ええ……?」
ハル:「……そんなことより!」
ハル:「今回のステラバトル、頑張ったね。ライくん」
ハル:「ご褒美をあげないといけないね」
ライルート:「……ありがとうございます。味方に恵まれたおかげですが……」
ライルート:「……ご褒美、ですか?」
ハル:「そう。騎士の働きには栄誉と勲章でしょ」
ライルート:「ええ。謹んで……?」片膝をその場につく。
ハル:「ああ、そこじゃなくて」手招きする。
ハル:「あげるから、こっちにおいで」
ハル:指の先で、薄桃の唇をついとなぞる。
ライルート:「はあ……」
ライルート:立ち上がり、傍に。
ライルート:「これでいいですか……?」
ハル:眼前まで歩み寄ろうとしたとき、突然ライルートの足元がずぼ、と陥没する。
ライルート:「はっ?」
ハル:落とし穴だ。深く掘られた穴。大量の土が頭から降りかかる。
ライルート:「あぶっ……」
ライルート:「ゲホッ……はあっ!?」
ハル:「あ~あ」穴の淵から悪戯っぽい表情で見下ろしている。
ライルート:「いやあの……!」
ライルート:「勝手に掘ったんですか!?」
ライルート:「場所を借りてるだけなのに……!」
ハル:「許可は取ったよ?」平然と言う。
ハル:「誰がもう訓練は終わりだなんて言ったのかな~?」
ライルート:「言われては……いませんが……」見上げる。
ライルート:目をそらす。「その位置に立たないでください」
ハル:「今日はスパッツ履いてるよ?」
ライルート:「履いていてもです……」
ハル:「はいはい、分かりました」けらけら笑いながら手を伸ばす。
ライルート:手を取る。「全く……」
ハル:「この程度の罠も避けられないようじゃ、先が思いやられるなあ」
ライルート:「……次はこうは行きませんよ。覚えましたから」
ライルート:「きっと君を超えてみせます」
ハル:「本当かなあ」ぐい、と穴から引っ張り上げて。
ハル:同時に、頬にキスをする。
ライルート:「は」
ライルート:「……!?」
ハル:「……言ったでしょ」
ハル:僅かに頬を染め、上目に見る。
ハル:「ご褒美って。僕のじゃ不満?」
ライルート:「……!?」目を白黒させる。
ライルート:「いや、その……」
ライルート:「最上の……栄誉です……?」
ハル:「……そっか」
ハル:口元を緩ませて、くるりと背を向ける。
ライルート:「……ハルさん……?」
ハル:「……ほっぺたにキス程度でそんな調子じゃ、やっぱり先が思いやられるなー」
ハル:「もっと精進しなよ、ライくん」
ハル:「僕より強くなるんでしょ?」
ハル:顔を見せずに言って、そのまま歩いていく。
ライルート:「ええ~……は、はい」
ライルート:「ハルさんより、強く……」
ライルート:未だにぬくもりを感じる、自分の頬に触れて。
ライルート:彼女の唇を思い出す。
ライルート:自分は、少しは近づけたかと思ったが。
ライルート:それ故に思う。
ライルート:「まだ、全然。勝てそうにありません」

紫のヒガンバナ

マリア:再び、彼女の部屋で
マリア:「リシャール!!」
マリア:「紅茶と薬膳ケーキの試作品を持ってきなさい!!5秒よ!!」
リシャール:30秒。
リシャール:1分。
リシャール:ティーカートに紅茶とケーキを乗せて現れる。
リシャール:「お待たせしました〜こちら紅茶と薬膳ケーキでございます」
マリア:「……まあ速度は今回はよしとしましょう」
リシャール:「ハハ、ドレスになってる間なら5秒でも行けるんですがね」
マリア:「まったく」
マリア:「さて、今日こそ美味しい薬膳ケーキはできたのかしらね」
リシャール:「まあまあ味を見てやってくださいよ」
リシャール:「あの人ら、相当頑張ってたんで」
マリア:「では、いただきます」
マリア:「もぐ」
マリア:「……」
マリア:「……とりあえずはケーキとして合格点まで行ったかしらね」
リシャール:「そいつぁ、よかった」
マリア:「でも美味しいって言ってやるにはまだまだこれからね!」
マリア:「休ませたパティシエも戻して本当に美味しいものを作れと言っておきなさい!」
リシャール:「はいさい。ちゃんとやっておきますよ」
リシャール:「それで、嬢さん」
リシャール:「どうでしたか、ステラバトルは」
マリア:「そうね」
マリア:「背負うと口で言うのは簡単だけども、目の前でそれを見ると、やはり応えるわね」
リシャール:「うん」
リシャール:「ちゃんと言ってもらえて助かります。あんたは無理しがちだから」
マリア:「……そうでもないつもりだけど」
リシャール:「口では我を通しててもね」
リシャール:「弱みって奴、あんま見せたがらんでしょう」
マリア:「それは…………」
マリア:「……まあ、そうね、我がままに見えてもわたくしは強い者に見えなくてはいけないのよ」
リシャール:「だから、心配ですよ」
リシャール:「一応伝えておきますけどね」
マリア:「……」
リシャール:「倒れても立とうとすれば、今回の子のように歪みを生みます」
リシャール:「だから、倒れる時は倒れてください」
リシャール:「おれがそれを受け止めますから」
マリア:「……あんたってほんと」
マリア:「……いつもそう真面目であってくれれば従者として言うことないのにね」紅茶を飲む
リシャール:紅茶が苦い。
マリア:「んぐっぶっ」
マリア:「え、は?なにこれ」
リシャール:「え?」
リシャール:「しつれい」
リシャール:味を見る。
リシャール:「あ〜〜〜」
リシャール:「これ、間違って薬草煮出してますね」
マリア:「……これを淹れたのは誰」
リシャール:「はーい」手を挙げる。
マリア:「おばか!!」
マリア:「わざとね?これはわざとね!?」
リシャール:「いやあ」
リシャール:「嬢さんの疲れが取れるようにって思って」
マリア:「わたくしはね?普通に疲れを取りたいのよ」
マリア:「美味しい紅茶を飲みたいし美味しいケーキを食べたいの!!」
リシャール:「そうかあ〜〜」
リシャール:「それじゃあ温泉でも手配しましょうか」
マリア:「温泉」
リシャール:「そう、温泉」
リシャール:「普通に疲れが取れますよ」
マリア:「珍しく悪くない真っ当な提案じゃないの」
マリア:「いいじゃない温泉!いきましょう!」
リシャール:「よし、じゃあ一応こっちである程度候補はしぼっといたんで」
リシャール:情報誌を渡す。付箋が所々に貼ってある。
マリア:「手際がいいじゃない、ふふふ、いいわね温泉。ふふふ」
リシャール:珍しいことに
リシャール:まともな情報誌だ。
リシャール:溶岩風呂とかの異世界マガジンではない。
マリア:「……まともね」
リシャール:「まあそりゃあ、たまには」
リシャール:「楽させたいんで」
リシャール:人好きのする顔で笑う。
マリア:「……まったく」
マリア:「こんな温泉、わたくし達だけで行くのはもったいないわ」
マリア:「屋敷全体の慰安旅行にするわよ!数日に分けてグループごとに向かわせなさい!」
リシャール:「御意」
リシャール:「まったくほんと」
リシャール:「誰だよなあ、当主に相応しくないとか言ったの」
マリア:「別に誰だっていいわ」
マリア:「いつの日か認めさせればいいだけの話よ」
リシャール:「違いない」
マリア:「リシャール、わたくしは、決して道を間違えない」
マリア:「それでも間違えたと少しでも思ったら、すぐさまわたくしを……」
マリア:「……いえ、わたくし達は一心同体ですものね、それはきっとできないのでしょう」
マリア:「それならばせめて、覚悟をもってわたくしについてきなさい」
リシャール:「仰せのままに───我が主」

白のオダマキ

ミシェル:シトラ女学院、学生寮。
ミシェル:陽が沈み、辺りが宵闇に包まれる頃。ミシェル・シュクロウプの部屋の窓からは、暖かな光が漏れていた。
ミシェル:「とってもいい匂いがするわね」
ユミナ:「ふふふ、せっかく海のお魚を獲ってきましたからね」
ユミナ:「アクアパッツァでも作ろうかと」
ミシェル:ちょこんと椅子に座り、膝にナプキンを載せて待っている。
ミシェル:「楽しみだわ。ユミナの料理はとっても美味しいもの」
ユミナ:「ふふふー、良妻ですから、胃袋をつかみにいきますよー」
ミシェル:「結婚はしていないけれど……そうね、お腹が空いてくるわ」
ユミナ:「そ、そこはかたくなに否定するんですね……めげませんけど……」
ミシェル:ステラバトルは終わり、両の目蓋は閉じられて、開かれることはない。
ユミナ:「もうすぐできますからねー」
ユミナ:「……ミシェルちゃん、今回は大丈夫でしたか?」
ミシェル:「……そうね。ユミナのおかげで、怪我はしなかったけれど……」
ミシェル:「……今回はね、同じステラナイツの人と戦ったの」
ユミナ:「ええ、もちろん見ていましたとも」
ミシェル:「芳乃百夏。それに、カーラ」
ミシェル:「彼女達も、わたし達と同じように、譲れない願いを持っていたのでしょうね」
ユミナ:「……そう、なのでしょうねえ」
ミシェル:「これからも、こんなことが何度もあるのでしょうね」
ミシェル:「美しい夢を踏みつけにして、進まなくてはならない時が」
ユミナ:「……怖くないですか?」
ミシェル:「……怖くはないわ。けれど、残酷なことだとは思う」
ミシェル:「それでも、迷いはしないわ」
ミシェル:「まだこの世界には、わたしの知らない素敵なものが、沢山あるのだもの」
ミシェル:「滅ぼさせるわけにはいかないわ」
ミシェル:「たとえそれが、わたしの我儘だとしてもね」
ミシェル:閉ざされた目をユミナに向ける。
ミシェル:「……手伝ってくれるかしら、ユミナ」
ユミナ:「ミシェルちゃんは、強いですねぇ、ふふ」
ユミナ:「もちろんですとも、ミシェルちゃんが行くならば例え火の中水の中、いろいろすっとばしてミシェルちゃんのスカートの中にだって!!」
ミシェル:「……ありがとう、ユミナ」
ミシェル:ふわりと笑って、
ミシェル:「……そうだわ」
ユミナ:「どうしましたか?」
ミシェル:「スカートで思い出したけれど、ユミナにお願いしたいことがあるの」
ユミナ:「スカートで!?」
ユミナ:「えっそれは、ちょっと、なにか、イケない感じの……!?」
ミシェル:「どうしても触ってみたい植物があるの。ユミナ、何とか出来るかしら?」
ユミナ:「あ、はい、植物ですか、まあそういう感じかなあとは思ってました」
ミシェル:「ええ。ネペンテス・アッテンポロギというのだけれど」
ユミナ:「ねぺんてす あってんぽろぎ」
ミシェル:「世界最大級の食虫植物なの。小さなネズミくらいなら食べてしまうのですって」
ミシェル:「中には2リットルくらいの消化液が貯めこまれているのだとか……」
ユミナ:「……」宇宙の真理を知ったような顔
ミシェル:「一体、触ったらどんな感じなのかしら。とっても気になるわ……」
ユミナ:「いや、丸呑みは流石に現実では」
ユミナ:「いえいえ、違います」
ユミナ:「消化液で服だけとかされて……」
ユミナ:「違うそうじゃない!」
ユミナ:「ミシェルちゃん、さすがにちょっと危ないんじゃないかなーっとユミナさんは思うんですけど……」
ミシェル:「あ……そうよね……」
ミシェル:夢から覚めたような表情。
ミシェル:「ごめんなさいね、いつも無茶なことばかり言ってしまって……」
ミシェル:「忘れて頂戴、ユミナ」
ミシェル:しょんぼりして肩を落とす。
ユミナ:「う、ううぅ、ううぅぅうう……ちょ、ちょっと待ってくださいね」
ユミナ:「……んんんんん……すみません!さすがにちょっと危なすぎます!!」
ユミナ:「……標本なら、ギリギリいけるかもしれません」
ミシェル:「標本……?用意できるの?」
ユミナ:「なんとか!します!!」
ミシェル:「本当……?ありがとう、ユミナ!」
ミシェル:パッと明るい表情で笑う。
ミシェル:「やっぱりユミナは頼りになるわね!」
ミシェル:「いつか本物も触りに行きましょうね」
ユミナ:「いいんですよミシェルちゃんのためなら!!もう馬車馬のように扱ってやってください!鞭を!鞭をくださいお嬢様!!」
ユミナ:「そ、そうですね、本物はまあ、とりあえず植物園で小さいのを触りに行きましょう」
ミシェル:「鞭は打たないけれど……」すん、と匂いを嗅いで「……あら、出来たかしら?」
ユミナ:「……おおっといけないけない、今盛りつけますからね!」
ユミナ:例え見えなくとも、盛り付けに手を抜くことはない
ミシェル:「ふふ…… ……ねえ、ユミナ」
ミシェル:顔も知らぬ彼女に向けて、笑い掛ける。
ユミナ:「どうしましたか?結婚しますかー?」
ミシェル:「結婚はしないけれど」
ミシェル:「明日も、明後日も、その先もずっと」
ミシェル:「二人で、おいしいご飯を食べましょうね」
ユミナ:「……ふふ、もちろんですとも」
ユミナ:「ミシェルちゃんがユミナさんを求めてくれる限りは、ユミナさんはいつまででもずっと一緒ですよ」
ミシェル:「それなら、きっと大丈夫ね」
ユミナ:「はい、できましたよ」料理を並べて
ユミナ:「ミシェルちゃん!本当にユミナさんのことをいくらでも求めてくれていいですからね!あと結婚したくなったら言ってくださいね!!」
ミシェル:「ええ。たとえ目が見えるようになっても、世界を救ったとしても」
ミシェル:「ユミナが必要なくなる時なんて、無いもの」
ミシェル:「結婚はしないけれど」
ミシェル:手を合わせる。「頂きましょうか、ユミナ」
ユミナ:「ミシェルちゃん……」
ユミナ:「なぁんでそこだけはそんなにかたくななんですかぁー……」
ユミナ:「……ふふ、いただきましょう、ミシェルちゃん」

──────

芳乃百夏:気がつくと、自分の部屋にいた。
芳乃百夏:ステラドレスは着ていない。だから、つまり。
芳乃百夏:「……───」
芳乃百夏:怖くて、その名を呼べない。
芳乃百夏:呼んでも現れなかったら?現れても、なんて言って償えばいいのか。
カーラ:「……なんだ」
芳乃百夏:「わっ」
カーラ:「呼ばないのか?」壁に沿うように立っている。
芳乃百夏:「か、か、か」
芳乃百夏:「……」息を吐いて、吸う。深呼吸。
芳乃百夏:「……かーら」
芳乃百夏:「…無事だった」顔をくしゃ、と歪めて。
カーラ:「……無事ではないがな」嘆息して。
カーラ:その顔はところどころに罅が入っている。
芳乃百夏:「あ」
芳乃百夏:「ご…めんな、さい」
芳乃百夏:「わたし、……」
カーラ:「……」
カーラ:「落ち着いたか?」
芳乃百夏:「い、色々……謝らなきゃ……だって、だって」
芳乃百夏:「私のせいで……私……」
芳乃百夏:こんな疵を、残してしまって。
カーラ:首をかしげる。「お前は」
カーラ:「俺を誰だと思っている?」
芳乃百夏:目を瞬かせる。「……カーラ」
カーラ:「この程度の疵が、尾を引くものか」
芳乃百夏:「あ……」そうだ。彼は元々、癒すものだ。
カーラ:「俺の疵などいい」
カーラ:「百夏。お前の疵はどうだ」
芳乃百夏:「えっ」
芳乃百夏:ぺたぺたと自分の顔や胴に触れる。
カーラ:「……そうではない」
カーラ:鳩尾を軽く押す。「こちらだ」
芳乃百夏:「あう」
芳乃百夏:「……わた、私は……」
芳乃百夏:「その……」
カーラ:「……」黙って次の句を待つ。
芳乃百夏:すごく、かなしくて、はしりさってしまいたいけれど。
芳乃百夏:それは私が。
芳乃百夏:「……あなたを……傷つけた……」
芳乃百夏:「……だから……痛くて……」
芳乃百夏:「あなたを、守りたかったのに」
芳乃百夏:「……ごめんなさい」
カーラ:「……」頭を撫でる。
カーラ:「……いい」
カーラ:「俺は、ここにいる」
芳乃百夏:「ぅあ………」
芳乃百夏:「うわ、あう。ううううぅっ…」涙がぽろぽろとこぼれて。
カーラ:「……待て」
カーラ:「何故泣く」
芳乃百夏:「だ、だって、だって…」
カーラ:「この疵は治るし、俺はここにいる」
芳乃百夏:「ううう、うわああ…っ…かーら、カーラが……」
芳乃百夏:「そんな……やさしく、やさしいから、なんだか、たまらなくて」
芳乃百夏:「ううううっ、ごめんね、ごめん、ありがとう、ぅううう」
カーラ:「……」抱き寄せ、背中を撫でる。
カーラ:「……言っておくがな」
カーラ:「……俺は、ただ、その優しさとやらを発揮していたつもりではない」
カーラ:「……お前が。あれらと戦えば」
カーラ:「敗けると分かっていた」
芳乃百夏:「ふえ」
カーラ:「そうなれば、お前は。力を失う」
カーラ:「お前がこれ以上の、危険に晒されることはなくなる」
芳乃百夏:「……でも。願い事は」
カーラ:「……ああ。願いか」
カーラ:「これから達さねばならないな。それは」
カーラ:「俺の願いを達したいか?」
芳乃百夏:「これから……」
芳乃百夏:「……うん」
カーラ:「そうか……では」
カーラ:抱き寄せた手を離して、手を取る。その手を引く。
カーラ:鏡の前へと。
芳乃百夏:鏡には泣きあとの残る自分が映っている。
カーラ:「……笑え」
芳乃百夏:「へっ」
カーラ:「俺の願いを達したいのであればな」
芳乃百夏:「……?」
芳乃百夏:疑問符を浮かべながらも、ぎこちなく口角をあげてみる。
カーラ:「悄気げているよりは余程マシだが……」
カーラ:「心から、でもないか」嘆息する。
芳乃百夏:「だっ、だってっ」
芳乃百夏:「泣いてたばっかりでいきなり笑うのは難易度が高くない?!」
カーラ:「……そういうものなのか」
カーラ:「では、どうすればいい」
芳乃百夏:「むぅー……」
カーラ:「どうすればお前は心から笑う?」
カーラ:「それが俺の望みだが……」
芳乃百夏:「………」
芳乃百夏:「……えっ」
カーラ:「あるいは、また血でも……うん?」
カーラ:「……どうした。呆けて」
芳乃百夏:「願い事って、それ…?」
カーラ:「そうだが」
カーラ:「問題が?」
芳乃百夏:「えっいや、そのっ」
芳乃百夏:「問題はぜんぜんなくって……」
芳乃百夏:「……でも……なんだ」
芳乃百夏:「カーラもそうだったの?」
芳乃百夏:「私と……同じで」
カーラ:「俺も?同じ?」
カーラ:「……」
カーラ:「……いや、待て。それは……」
カーラ:「俺が笑わぬせいか……?」
芳乃百夏:「……うん。笑わないもん」
カーラ:「全くそうしないわけではないが……」
芳乃百夏:「それは……そうなんだけど」
芳乃百夏:「でも、ときどき不安で」手を握る。
芳乃百夏:「カーラは……義理って言うか…義務っていうか……」
芳乃百夏:「そういうのでそばにいてくれるだけで」
芳乃百夏:「本当は私といても楽しくないんじゃないかって」
カーラ:「お前はなにか、勘違いをしているようだが」
カーラ:「司祭の身であれば、欲より解き放たれたと思っているのか?」
芳乃百夏:「へっ」
カーラ:「戒律によって過ぎたる行いを縛られているだけだ」
カーラ:「食事を取れば、それが美味であると思う」
カーラ:「人の温もりを、欲することもある」
カーラ:「お前は温かい」手を握り返す。
芳乃百夏:「あ……」
芳乃百夏:体温が伝わってくる。
カーラ:「それとも、なんだ」
カーラ:「俺から求めれば、お前は信じるか?」
芳乃百夏:「……求めて、くれるの?」
カーラ:「……」体を抱えあげる。
芳乃百夏:「ひゃ」
カーラ:そのまま、ベッドの上に優しく放り出す。
芳乃百夏:顔を赤くして口をぱくぱくさせている。
カーラ:傍らに座って。「そういう物言いを、先にされた場合は」
カーラ:「どちらからになるのだろうな」髪を梳くように撫でる。
芳乃百夏:「わっ、わかんない…!」
芳乃百夏:「でも……」
芳乃百夏:少し控えめに、ふにゃりと笑って
芳乃百夏:「うれしいな」
カーラ:「ああ」つられて、少しだけ笑う。
カーラ:「何と叶いやすい願いだったか」
芳乃百夏:「ふふ」
芳乃百夏:「そうだね」
カーラ:そのまま、彼女へと身を沈めた。
芳乃百夏:眠るように、溶ける時間は。
芳乃百夏:たとえようもなく、愛おしくて。
芳乃百夏:どうか星の煌めきが、願いに届くようにと───
芳乃百夏:柄にもなく。世界のことを、想った。

銀剣のステラナイツ 『乙女の願いの糸を手繰る』 終幕

勲章授与

監督:最後に勲章授与と参りましょう
監督:勲章を集めると願いを叶えられるぞ!
マリア:やったー
ライルート:なんと……
監督:がんばってね
ミシェル:わ~い
監督:1:勝利の騎士
監督:ステラバトルに勝利した時、全てのステラナイトに授与される。
監督:というわけでこれは3人に贈られます!どうぞ!
ライルート:謹んで。
ミシェル:やったわね
マリア:わーい
監督:2:終撃の騎士
監督:エネミーの耐久力を0にしたステラナイトに授与される。
監督:これはミシェルちゃんですね。
監督:どうぞ!
ミシェル:やったわ~
ライルート:お見事でした。
マリア:すごいぜ
監督:3:鉄壁の騎士
監督:ステラバトル終了時に、耐久力が初期値から減っていない、或いは増えているステラナイトに授与される。
監督:いるんだよなあ、なぜか
監督:ライルートくん、どうぞ!
マリア:わおわおー
ミシェル:やったわね
ライルート:ありがたく!
ライルート:なんで増えてるんだろう
マリア:わたくしが回復させたから
監督:協力プレイの賜物だ
ライルート:感謝します……
監督:4:模範の騎士
監督:自分以外にブーケの効果を使用したステラナイトに授与される。
監督:これは全員ですね。どうぞ!
ミシェル:わ~い
ライルート:受領いたします
マリア:やったわ
監督:5:共闘の騎士
監督:ステラバトル中、他のステラナイトと会話した場合に授与される。
監督:これも全員!
監督:チームプレイ!えらい!
ミシェル:えらいわ
ライルート:我々の力です
マリア:すごいわ
監督:以上で勲章授与おしまい!
監督:そして全行程終了となります!ありがとうございました!
マリア:おつかれさまでした!
ライルート:4点頂きます。
ミシェル:ありがとうございました!