【木滝夏芽/岡倉雪次】
木滝 夏芽:「これ。…昨日つくったご飯。すごいでしょ」
木滝 夏芽:ブリンガーの木滝 夏芽(きたき・なつめ)です。
木滝 夏芽:聖アージェテイア学園高等部に通う16歳の女の子です。
木滝 夏芽:幼い頃に両親を亡くし、それ以来、叔父を後見人として過ごしています。
木滝 夏芽:なので家事は一通りできるようです。年頃のため、最近ちょっと反抗期気味。
木滝 夏芽:根は素直な性格です。
木滝 夏芽:色と花は赤色のバラ。
木滝 夏芽:シースの岡倉雪次さんが、先ほど言った叔父さんにあたりますね。
木滝 夏芽:叔父さんと、平穏に暮らせる日々を願いながら戦いたいと思います。
木滝 夏芽:以上です。他に追記すべきことはあるでしょうか…?
監督:バッチリです!ありがとうございます!
木滝 夏芽:はい、ありがとうございます!
監督:よろしくお願いします!では、シースの岡倉さんもどうぞ!
岡倉雪次:「……うん。夏芽の飯はいつも美味いな」
岡倉雪次:姪を後見している叔父です。
岡倉雪次:以前は聖アージェテイア学園で教鞭を執っていた教師でしたが、病気をして退任。
岡倉雪次:姪と同居をして、療養をしています。
岡倉雪次:性格は悲観主義にして純粋なので、現在の状況に割合絶望をしているようですが、
岡倉雪次:それでも姪のことは大切に思っているのだとか。
岡倉雪次:普段は和装で、夏だと甚平スタイルが好きなようです。
岡倉雪次:同じく、平穏に暮らせるように願いながら戦っていきたいですね。
岡倉雪次:以上です!
監督:はい、ありがとうございました!
監督:では続いてルイスさん!
【ルイス・エルダーン/フヨウ】
ルイス:はい!
ルイス:「……見えなくても、ゆっくり慌てないでいけば、きっと。世界の形はわかるんだよ」
ルイス:ブリンガーのルイス・エルダーン。26歳男性です。
ルイス:元々人形師の家系に生まれ育ち、本人も造形を志していたのですが、事故で失明。
ルイス:以来、目に包帯を巻いて杖をついています。
ルイス:イデアグロリア芸術総合大学に通っていたので、そこの厚意で今も雑用の仕事などをしています。
ルイス:で、一緒に暮している祖父が作り上げた人形をシースにしている、という関係です。
ルイス:不幸があったわりにはのんびりした性格ですが、いざとなると勇敢になったりするようです。
ルイス:願いは、自分と脚の使えないシースが共に一人で立って歩けるようになること。
ルイス:そのためにがんばっていきたいと思います。
ルイス:こんな感じかな……。
監督:ありがとうございます!
監督:では、シースのフヨウさん。どうぞ!
フヨウ:はあい!
フヨウ:「ルー。わたしのかわいいルイス。大丈夫、わたしはどこにも行かないわ」
フヨウ:シースのフヨウ(芙蓉)です。ルイスの祖父が作った、魂と意志を持つ生き人形。文字通りの、生きた人形です。
フヨウ:ただし初期の作品であるため、作品群中随一の美しさを持ちながら、足が十全に機能しません。
フヨウ:なので、盲目であるルイスの目となる代わりに、抱えて運んでもらっています。
フヨウ:ルイスに対しては、辛辣な物言いをしつつ、接し方は過保護気味。
フヨウ:その在り様は、まるで祖母と孫のそれのようですが、実際にルイスの祖父…つまり自分の作成者を特別な存在と思っていた過去があります。
フヨウ:が、人形であるため、見守ることしかできない。ルイスにも、いつか自分から離れて独り立ちしてほしい、と願いつつ。
フヨウ:あるいは、いつか来るその日を怖れているのかもしれません。
フヨウ:以上、こんな感じで…!
監督:はーい、ありがとうございます!
監督:続けて、来栖君の紹介に参りましょう。
【来栖架/慈雨院みつき】
来栖 架:はい!
来栖 架:「見せてやるよ。いつか、空の向こう側を!」
来栖 架:アーセルトレイ公立大学付属高等学校所属、学年は2年生。
来栖 架:子供のころから「空を飛ぶもの」について天性の才能を示し、学校でもそれらしい部活を勝手に立ち上げているのだとか。
来栖 架:ではなぜ、こうも空に拘るのかと言えば。本人は「そうしたいから」としか答えません。
来栖 架:やると決めたこと以外に無頓着な性格もあって、こいつはそういう奴だ、と周囲はあきらめ気味に納得しているようですが…。
来栖 架:その実。子供の頃に幼馴染と交わした約束と、思い出の歌を忘れたことは、ひと時もなく。
来栖 架:才能の限界、人の手で為せる業の限界を自覚しつつ、決して諦めるものかと。
来栖 架:今日も元気に、部室でロケットを爆発させています。
来栖 架:こちらはこんな感じで!
監督:はい!ありがとうございます!ではシースのみつきちゃん、どうぞ!
慈雨院みつき:はい!
慈雨院みつき:「もーっ!またそんなバカなこと言って…バカッ!」
慈雨院みつき:アーセルトレイ公立大学付属高等学校所属、学年は1年生。
慈雨院みつき:幼い頃からバカなことばっかりやってるバカ幼馴染を追いかけて
慈雨院みつき:同じ学校・同じ部活に所属しました。
慈雨院みつき:名前の由来となった「満月」に行くことが昔からの夢で、そんなことを話したような気はしますが
慈雨院みつき:まさか実現させるつもりだなんて、そんな……
慈雨院みつき:まあバカなことばっかりやってるバカですからね。もしかしたらできるかもしれませんね。
慈雨院みつき:とりあえず、私がしっかり監督します。誰かが見ていないと、無茶ばっかりする幼馴染ですからね。
慈雨院みつき:そんな風に、幼馴染の夢の実現を誰よりも信じているけど、口ではバカバカばっかり言う女の子です。
慈雨院みつき:そんな感じかな!どうぞよろしくお願いします。
監督:よろしくお願いします!
監督:では、開幕の詩を流して開始といきましょう!
ルイス:夏の夕方。まだ日は落ちる様子もなく、周囲は明るい。
ルイス:緑の豊かな道を行く人影がひとつ。
ルイス:……足音はひとつ。声はふたつ。そして、杖をつく音。
ルイス:「なんとなくだけど」
ルイス:「ずいぶん外が明るくなったような気がするなあ」
ルイス:目には白い包帯を巻いている。盲目の青年だ。
フヨウ:地に落ちる影は、上半分が不自然に大きい。ともすればアンバランスなそれは、けれどしっかりと結びついていて。
フヨウ:「ええ、本当に。夕焼けが綺麗だわ。まるで天鵞絨の絨毯のよう」
フヨウ:青年に抱き抱えられ、自身は青年の首にしっかりと腕を絡めて。見据える先は、空ではなく、青年の歩む先。
ルイス:「すごい。この位置で見える? もっと近づけた方がいい?」
ルイス:抱えた相手をそっと持ち上げようとする。
フヨウ:「いいのよ、このままで。あなたの声が遠くなる方が心配だわ」
フヨウ:上向きの力を、そうっと抑えるように、首筋に抱きつく。
ルイス:「そう。じゃあ、仰せのままに」
ルイス:もう一度、軽く抱き締め直しながら、ゆっくり、ゆっくりと歩いていく。
ルイス:よく慣れた道で、人通りも少ない。転倒の心配もさほどないし、奇異の目もない。
ルイス:穏やかで、幸せな時間、と思っている。
フヨウ:そして何より、この道は。ふたりが暮らす家への道だ。だから。
フヨウ:「……ねえ、ルー」
ルイス:「なんだい、フヨウ」
フヨウ:「わたしは、あなたの役に立てているかしら」
ルイス:「え?」
フヨウ:彼が"仕事"をしている最中、自分は対して役に立ててはいない。四六時中、自分を抱いて歩かせるわけにもいかない。
ルイス:杖をつく手が一瞬止まる。
ルイス:「なんでいきなりそんなこと……?」
ルイス:心底不思議そうに言う。
フヨウ:「目が見えなくても、あなたには足がある。大学の皆さんも、仕事について色々気を回してくださるでしょう?」
ルイス:「うん、みんないい人達だよ」
フヨウ:「わたしは、ちょこんと座って、あれやこれやと声をかけるだけ。……ふふ、一生懸命働くあなたを見るのは、それはそれで楽しくはあるけれど」
フヨウ:「……少し、寂しくもあるわ」
ルイス:「……みんないい人達だよ」
ルイス:「フヨウもね」
ルイス:「今日、俺は落ちてた荷物に引っ掛かって転びかけた」
ルイス:「覚えてるだろ?」
ルイス:「フヨウが教えてくれなかったら、擦り傷を作ってたかも」
ルイス:「フヨウに座ってもらってる場所は、部屋の中がよく見えるんだって。教えてもらったんだよ」
フヨウ:「……ええ。万が一にも、あなたに怪我をさせるわけには、いかないわ」
フヨウ:「あなたは、エルダーンの孫。あなたのお爺様も、あなたのお父様も」
フヨウ:「そして、誰よりも、あなたは。わたしにとって、大事な大事な人だもの」
ルイス:「……はは」
ルイス:軽く顔を動かして、その滑らかな髪の毛に頬を触れさせる。
ルイス:「役に立ってる。当たり前だし」
ルイス:「……本当は、そんなことだって考えなくていいんだよ。フヨウ」
フヨウ:「ん……」
フヨウ:髪にも、その向こう側の頬にも。人形らしからぬ温もりがある。
ルイス:それを当たり前のように受け取って。
フヨウ:「……ふふ、大丈夫よ。ちょっとだけ……そう、ほんのちょっとだけ」
フヨウ:「寂しくなっただけだもの。なんてことはないわ」
ルイス:「じゃあ、もうちょっと話そうか」
ルイス:「教えて。フヨウ」
ルイス:「天鵞絨の絨毯は、今どんな色になってる?」
ルイス:少し立ち止まって、軽く上を見上げる。
ルイス:光の強さ程度しかわかる目ではないが。
フヨウ:「……まるで、世界が燃え落ちるよう。昏くて、真っ赤で、恐ろしくて」
フヨウ:「けれど、暖かいわ」
フヨウ:そう感じる理由を告げる代わりに。青年の首を抱く腕に、僅かに力を込める。
ルイス:「……うん」
ルイス:頭の中に、まだ世界が色彩を持っていた頃の記憶を蘇らせる。
ルイス:「暖かいなら、きっとみんな凍えずに済むね」
フヨウ:「そうね。あなたが連れ出してくれる前のように、箱に納められて凍えるのはもう嫌よ、わたし」
フヨウ:鈴を鳴らすような、華やかな声。
ルイス:初めて、彼女を見つけた時。心臓が止まるかと思ったあの時。
ルイス:もう、その姿も目に映すことはできないが。
ルイス:「今は、暖かい?」こちらも、しっかりと抱き止めて。
フヨウ:─ええ。これからも、ずっと。
フヨウ:そんな願望は、明るい声の裏に隠して。
フヨウ:「……ええ。とても、暖かいわ。少し暑いくらい」
ルイス:「あはは。夏だもんな」
ルイス:明るい声で言いながら。
ルイス:それでも、じゃあ離れようか、とは口にしなかった。
フヨウ:むしろ。今までよりも強く、軽い体重を預けて。
フヨウ:「……ねえ、ルー。わたし、今夜はあれが食べたいわ。冷たくて、つるっとした、白くて細いあれ」
ルイス:「んんん……」
ルイス:「イカ?」
フヨウ:「……わざとやってるのかしら、この子は」
フヨウ:子供のように、楽しそうに笑いながら。青年の短い髪に、指を差し入れて。くしゃりと撫でる。
ルイス:「この子はないだろ、もう20……5だったか6だったか」
ルイス:「……いつまでたっても、子供扱いなんだから」
ルイス:口元を尖らせるようにして、それでも笑みは浮かべて。
フヨウ:「どうか自信を持ちなさいな、ルー。わたしの可愛いルイス」
フヨウ:「あなたはきっといつか。今よりも、ずっと素敵な殿方になるのよ。……わたしが、保証してあげる」
ルイス:「……ありがとう、フヨウ」
フヨウ:その言葉は。母が子に向けるような、祖母が孫に向けるような。
フヨウ:そして、乙女が愛しい人に向けるような。─それら全てが、ない交ぜになっているようで。
ルイス:(……いつか、とか。この子、とか。可愛いとか。君は)
ルイス:(……君は)
ルイス:何よりも美しいと言われる、自分には決して見ることのできないその瞳を思う。
ルイス:(フヨウ。いつかが来るなら、その時は)
ルイス:(その目で、俺を……)
木滝 夏芽:夏の夜。まだ日は沈んだばかりで、空の端にはオレンジ色が滲む。
木滝 夏芽:とあるマンションの一室。二人が住む家。
木滝 夏芽:昔叔父さんが使っていた本の上に、あたしの買った雑誌が無造作に積み重なっている。
木滝 夏芽:「今日はそうめんです。めんどくさかったから」
木滝 夏芽:食卓に、そうめんとサラダ、そして一人分のから揚げ、一人分の卵焼き。
岡倉雪次:「めんどくさかったって、そうめんだってだいぶめんどくさいだろ」
木滝 夏芽:「えー、茹でるだけだよ。そんで冷やせばいいの」
岡倉雪次:「学生時代にそうめんなんて、暑くて茹でてられなかったぞ」
岡倉雪次:言いながら、食卓につく。夏なので甚平姿の男。
木滝 夏芽:「‥‥叔父さん、それめんどくさがりすぎ」
木滝 夏芽:から揚げは自分の側に、代わりに卵焼きを叔父さんに。
岡倉雪次:「男の独り暮らしなんて、何もかもがめんどくさいんだぞ」
岡倉雪次:「どうも」受け取る。
木滝 夏芽:「うん」
木滝 夏芽:「つーか叔父さん、料理できんの? 初耳なんですけど」
岡倉雪次:「あれは……できるとは言わないな……」
岡倉雪次:「『パスタは茹でられる』くらいだから」
木滝 夏芽:「ふっ」ちょっと笑い。
岡倉雪次:「……っと」
岡倉雪次:食前の薬を一錠、慣れた様子で飲む。
木滝 夏芽:「………」その様子を何とも言えない顔で見届ける。
岡倉雪次:「ああ、悪い。食べよう食べよう」
木滝 夏芽:「ふん」鼻を鳴らして、麦茶をゴクゴクと飲みます。
岡倉雪次:姿勢を正し、水のコップをよける。
木滝 夏芽:「いただきます!」
岡倉雪次:「いただきます」
木滝 夏芽:ガッと箸で大量にそうめんを奪い、自分のお椀に。
岡倉雪次:「いきなり攻めるなあ」
岡倉雪次:軽くそうめんを取り、つゆにつける。
木滝 夏芽:「だって今日、体育でマラソンさせられたんだもん」
木滝 夏芽:「高橋先生、あの人ひどくない? 何考えてんの?」
岡倉雪次:「炎天下だぞ」
木滝 夏芽:「炎天下だよ!」
岡倉雪次:「体育、まだあんな感じなのか……大変だなほんと」
岡倉雪次:かつての職場について、半分他人事のように。
岡倉雪次:「大体、職員会議で議題には出るんだよ」
岡倉雪次:「で、うやむやになって批判が負けるんだな」
岡倉雪次:つるり、とそうめんをすする。
木滝 夏芽:「え~~、何それ」から揚げももぐもぐと食べる。
木滝 夏芽:「生徒をギャクタイしてるよ、ほんと……まあでも」
木滝 夏芽:「もーすぐ夏休みだから許してあげたの」
岡倉雪次:「ん」
岡倉雪次:カレンダーを見る。
岡倉雪次:「あ、本当だ。もうすぐだな」
木滝 夏芽:「そ。来週から」
岡倉雪次:「あ、てことは昼間うちにいるのか」
木滝 夏芽:「そーだよ」
岡倉雪次:「寝坊がしにくくなるな……」
木滝 夏芽:「起こしてあげっから。ひひひ」顔を合わせずニヤニヤ笑う。
木滝 夏芽:「………、そんでさ」
岡倉雪次:「おう」
木滝 夏芽:ちょっと気まずそうに。顔を合わせないままに。
木滝 夏芽:「お墓参り」
岡倉雪次:「……ん」
木滝 夏芽:「どうしたらいい?」
岡倉雪次:今度は、カレンダーは見ない。
木滝 夏芽:「あたし一人で行く?」
岡倉雪次:「……あー……」
岡倉雪次:「いや。体調整えて行くよ」
木滝 夏芽:「マジで?炎天下だよ?」
岡倉雪次:「マラソンじゃないんだから、平気だろ」
岡倉雪次:「……それくらいはしとかないと」
木滝 夏芽:「ふーん…」ようやく顔を合わせる。
木滝 夏芽:「……あのさ。いつも寄るお店あるじゃん」
木滝 夏芽:「あそこ行こうね。かき氷食べよ」
岡倉雪次:「おう、和菓子のとこな」
岡倉雪次:「いいぞ。なんかトッピングが多いやつ食べてもいい」
木滝 夏芽:「えー、どうしよっかなー」
岡倉雪次:卵焼きを食べながら。
木滝 夏芽:「いつも限定のやつと迷ってさー、いちごのにしちゃうんだよねー」
岡倉雪次:「シンプルはいいよな」
岡倉雪次:「そうめんと一緒」
岡倉雪次:つるり。
木滝 夏芽:「……美味しい?」
岡倉雪次:「美味しい」
岡倉雪次:「特に卵焼きな。うちの味ーって感じだよ」
木滝 夏芽:「まーねー」ずずずとめんつゆを啜る。
木滝 夏芽:「胃に優しい食事ばっかり上手になっちゃう」
木滝 夏芽:から揚げはお惣菜を買ってきたやつだ。めんどくさかったので。
岡倉雪次:「……助かってる」
岡倉雪次:言いながら、こふ、と軽く咳き込む。
木滝 夏芽:「あ」
岡倉雪次:「いや」
岡倉雪次:「大丈夫。今のは大したことないやつ」
木滝 夏芽:「………んん」眉根を寄せる。
岡倉雪次:「本当だって。薬飲んでれば治まる」
木滝 夏芽:「んんんーーー」もにゃもにゃと返事。
岡倉雪次:少しだけ、声が弱くなっているが、悪化する様子はないようだ、と自分で判断する。
岡倉雪次:「…………」
岡倉雪次:「心配した?」
木滝 夏芽:「うわうっざ」
木滝 夏芽:「うっざ!」
木滝 夏芽:図星。
岡倉雪次:「ははは、はっ……こほっ」
岡倉雪次:笑いかけてまた咳が出るので止める。
岡倉雪次:「……食べたらちょっと休むから」
岡倉雪次:「それで平気。な」
木滝 夏芽:「うん。………うん」
木滝 夏芽:「分かった」止まっていた手を、ようやく動かす。
岡倉雪次:「よし。墓参りまでにはちゃんとするから」
木滝 夏芽:「約束だよ。マジで」
岡倉雪次:「かき氷もな」
岡倉雪次:「マジで」
岡倉雪次:にっと笑う。
木滝 夏芽:「もう」唇を尖らせる。
木滝 夏芽:「マジだかんね」
岡倉雪次:「はいはい、大マジのマジですよ」
木滝 夏芽:「言うほど嘘になってくんだよなー………」
岡倉雪次:箸を下ろす。あまり量は食べていない。
岡倉雪次:「困ったな。どうすりゃ信用してもらえるかねえ」
木滝 夏芽:箸で、残りのそうめんを全部掴む。
木滝 夏芽:「いいし、別に」
岡倉雪次:「……そっか」
岡倉雪次:姪は最近少し反抗期の様子だが……付き合いにくいわけでは決してない。
岡倉雪次:思いやりのある子だと、そのことはよく知っている。
岡倉雪次:「じゃあ。ごちそうさまでした」
岡倉雪次:「美味しかったよ。いつもありがとう」
木滝 夏芽:「はーい、はいはいのはーい」
岡倉雪次:「はいは一回でいいだろ……」
木滝 夏芽:ふん、ともう返事はしない。
木滝 夏芽:席を外す叔父さんを尻目に、残った卵焼きにぐさっとお箸を突き刺して。
木滝 夏芽:(……いいし、別に)
木滝 夏芽:ただ、こういう日々が続くことが、一番肝心なんだから。
来栖 架:─朝。否、むしろ早朝と呼ぶべき時間。
来栖 架:アーセルトレイ公立大学附属高等学校は、登校する生徒もいまだまばら。昼間の喧騒とは真逆の静けさが─。
:【爆発】
来栖 架:─突如、破られた。
来栖 架:爆音の出所は部室棟。通称「飛行部」……所属部員たった二人の、その部室から。
来栖 架:「けほっ……ああくそ、惜しい……!」
来栖 架:煤だらけの顔、汚れたツナギ。ズタボロ、と言って差し支えない姿の少年が転がり出てきた。
来栖 架:「……けどうん。この感じならイケるな。よし、次は屋上に発射台を作って……」
慈雨院みつき:そして、ダダダダダダッと、早朝に似つかわしくないドタバタした足音が遠くから響き渡る。
慈雨院みつき:「な」「な」「な」
慈雨院みつき:「何ッしてんのよッッッ! このバカーーーーッ!!!」
来栖 架:「げえッ、みつき!?」
慈雨院みつき:「こらーーー架! また徹夜で部室にいて変なことしてたでしょーー!」
慈雨院みつき:三つ編みの、制服をきちんと着こなした少女が颯爽と登場。
慈雨院みつき:架くんの耳をグイーーーッと引っ張ります。
来栖 架:「変なことじゃない!これはな、次に続く偉大な一歩……いだだだだだだッ!?」
慈雨院みつき:「何が偉大よこのバカ! だいたい失敗してんでしょどう考えたって!」
慈雨院みつき:「今の! 爆発! 先生に何て言い訳すんのよ!」
来栖 架:「失敗は成功の母って言うだろ!?先生たちだってな、最近は「またお前か……」ってなんとなく優しい目で見てくれてんだよ!」
慈雨院みつき:「あんたのお母さんは大激怒よ! 今日もおばさんに頼まれたのに……」
慈雨院みつき:ヨヨヨと崩れる。「また間に合わなかった………」
来栖 架:「……みつき……」
来栖 架:崩れ落ちた幼馴染の肩に、ぽんと優しく手を─煤で汚れた手を─置いて。
来栖 架:「大丈夫だ。俺は明日も明後日も、ここで頑張るからさ」
慈雨院みつき:「……架…………」
来栖 架:やけに爽やかな笑顔。……実際、顔立ちは悪くないのだ。煤や焦げで汚れてはいなければ、だが。
慈雨院みつき:「それが大問題なんでしょうがーーーーっっ!」怒りのアッパーを食らわせる。
来栖 架:「げはぁッ!?」 美事なアーチを描いて吹き飛んで壁に激突!
慈雨院みつき:「ギャー制服に痕ついたじゃないこのバカ~~!!」ギャンギャン言いつつ。
慈雨院みつき:「はあ、もう…。ほら、朝ごはん預かってきたわよ」
慈雨院みつき:鞄から、おばさんに託された朝食のタッパーを取り出します。「どうせ何も食べてないんでしょ?」
来栖 架:「……む」 のそり、と起き上がりながら。……ああ、そういえば。
来栖 架:「うん。よく考えたら、昨日の夕方から何も食ってなかった。いやあ、ピーンと閃いたら飯を食うっていう考えが抜けてさあ」
慈雨院みつき:「……あんた、いつか本当にブッ倒れるわよ……」呆れた顔。
来栖 架:「大丈夫だろ」 対照的に、あっけらかんと。
来栖 架:「いっつも、ブッ倒れる前に、みつきにブン殴られてるんだから」
慈雨院みつき:「はあっ?!」
慈雨院みつき:反射的に大声。
慈雨院みつき:「あ、あたしは別に、架が変なことしてないかしっかり監督しなきゃいけないからやってるだけで」
慈雨院みつき:「別にあんたが心配だからとかそんな優しい理由なんかこれっっっぽっちも無」
来栖 架:そんな、いつも通りのやり取りの最中、ふと。
来栖 架:「いつもありがとな、みつき」
来栖 架:どこか、しんみりとしたような声で─。
慈雨院みつき:「……………!??」 三つ編みがピーンと持ち上がったようになって、顔はドカンと真っ赤になる。
来栖 架:「……なんてな!茹でタコみたいだぞ、みつき!」
来栖 架:直後、そうまぜっかえす声は。どこか慌てたようでもあって。
慈雨院みつき:「……っ! バ、バ、バ…バカ!」 こちらも、何かを誤魔化すような大声を上げる。
慈雨院みつき:「とっ…とにかく食べちゃいなさいよっ」おにぎりとウインナー、プチトマトで彩られたタッパーを突き出しつつ。
慈雨院みつき:大股に、部室の中に入って行きます。
来栖 架:「おう、ありがたく……あ、まだ掃除とかしてないぞ、部屋ん中!」
来栖 架:受け取ったタッパーを手にして、みつきを追うように入った部室の中。言った通り、辺り一面が焦げてはいるけれど。
来栖 架:その真ん中。ロケットの部品、エンジンの一部らしき、真っ黒に焦げた金属の塊があって。
慈雨院みつき:その金属の塊を、恐る恐る見下ろします。
慈雨院みつき:「……何しようとしてたの、これ?」
来栖 架:「何って、決まってんだろ」
来栖 架:比較的汚れの少ない一角。そこに、ガラクタやら何かのシートやらで、二人分のスペースを作って腰を下ろしながら。
来栖 架:「上手く行きゃあ、このまま天井を突き破って空に一直線、だ」
慈雨院みつき:「なにも上手くいってないわよ、それ………」ジト目。
慈雨院みつき:くるっと踵を返して、架が作ってくれたスペースに座る。
慈雨院みつき:「架、もっとちゃんと頭使えば、もっとちゃんとしたものが出来そうなのに……」
慈雨院みつき:「どうしてこう、バカなことをするバカなバカなんだろ……」はあーー、とため息をつきながら頬杖。
来栖 架:「それ、先生にも言われてんだよなあ。今から推薦を蹴るつもりか、って」 やはり、あっけらかんと笑いつつも。
慈雨院みつき:「…えっ」
慈雨院みつき:「推薦蹴るの? 何で?」思わず顔を寄せる。
来栖 架:「うん。そりゃあ、推薦もらって大学行って、研究室の先生のとこ行けば勉強にはなるだろうけど」
来栖 架:「そうしたら、自分の好きなことはできないだろ。ってことは、だ」
来栖 架:「こうやって、みつきにバカバカって怒られることもなくなっちまう」
慈雨院みつき:「うん」
慈雨院みつき:「………なっ」
来栖 架:間近に迫った幼馴染の困惑気味の表情に。ニカっと笑みを返して。
慈雨院みつき:「はあ!? あんた、本当にバカのバカ………!」また頬を赤く染めて叫ぶ。
来栖 架:「……いやでも、流石に今日はバカって言いすぎだろ!?何回目だ今ので!?」
慈雨院みつき:「うるさいうるさい!知らないわよっ、バカバカバカ!バカ架!」
慈雨院みつき:「も~~~っ」
慈雨院みつき:口ではそう言いつつ、頬を染めたまま、そっぽを向く。
慈雨院みつき:そのまま、腰を上げようともしない。
来栖 架:─子供の頃と同じように、ここにいてくれる。自信を無くした時に、あんたなら大丈夫と、いつものように背中を押してくれる。
来栖 架:今はもう、それだけが空に向ける情熱の燃料で。こうして、何度も失敗を繰り返しているけれど。
来栖 架:いつかきっと、君を。あの時約束した場所へ連れて行くと。
来栖 架:「……なあ、みつき」
来栖 架:「本気なんだぜ、俺」
来栖 架:そう、半ば自分に言い聞かせるように─。
ルイス:街の少し端に近いところ。彼らの暮らす小さな家からはやや離れた場所に、一軒の美術館がある。
ルイス:華やかな絵や造形物がガラスの中に並べられた、展示室の一角。
ルイス:場には少しそぐわない、盲目の青年が人形を大事そうに抱えて立っている。
ルイス:「……ほら、やっぱり来てよかっただろ」
ルイス:彼らの前には、精緻な造りの美しい人形が一体。
フヨウ:「……ええ。けど、乗り気でないわたしを無理矢理連れ出すなんて。ルーも強引になったものね」
フヨウ:言葉は刺々しく、けれど暖かく。僅かな悦びも滲ませて。
ルイス:「昔は連れていきなさいーって言われて、渋々来てたっけ」
ルイス:おかしそうに笑う。
ルイス:「でも、来たらやっぱり嬉しかったんだ。よく覚えてる」
フヨウ:「そうね。いつも、あなたの方が夢中になって。あの頃の可愛さはどこへ行ったのかしら」
ルイス:「いつも可愛いルイス、って呼ぶのは誰だっけ」
フヨウ:ころころと、鈴を鳴らすように笑いながら。視線はゆっくりと、青年からガラスの向こう側へ。
フヨウ:そこには、青年に抱えられる人形と、どこか似た雰囲気で。けれど、命の息吹を感じさせないものが、椅子に座っている。
ルイス:「場所はここでいい?」
フヨウ:「ええ。ここなら、あの子がよく見えるわ」
ルイス:何度も来たから、感覚はよくわかっているが。細かい角度は聞かないとわからない。
ルイス:「よかった」
フヨウ:ありがとう、と。ルイスへとちらりと視線を移してから。
フヨウ:「……お久しぶりね、アオイ。大事にされているようで、安心したわ」
フヨウ:ガラスの向こう側。もう現存する数は少なくなってしまった、姉妹のひとりへと語り掛ける。
ルイス:その声をじっと聞いている。
フヨウ:無論、返事はない。"彼"が作った人形の中で、魂が宿り、意志を持ち、言葉を発するに至ったのは、自分だけで。
フヨウ:「わたしは……ええ、元気よ。以前にも増して、足はいよいよ駄目になってしまったけれど」
フヨウ:「こうして、この子も傍にいてくれる」
フヨウ:自分を抱き抱える青年の頬に、そっと手を添わせながら。
ルイス:「……こんにちは。アオイさん」
ルイス:届かないことはわかっていて、でも合わせて挨拶を。
ルイス:祖父は天才だったのだという。かつて見えていた時は、その造形の巧みさに何度も感嘆をしたものだが。
ルイス:今はそれを、この手の感触に思う。
ルイス:「フヨウは元気にしてるよ。たまに意地悪を言うけど」
フヨウ:「……ふふ。ごめんなさい、アオイ。この子ったら、あなたに会うといつもこうなんだから」
フヨウ:「わたしのお願いを、意地悪だなんて。なんてひどい子なんでしょう」
フヨウ:黄玉の瞳は、言葉とは裏腹に。慈愛に満ちた眼差しで、ルイスの─いまは閉じられた、包帯の下の瞳を見つめるように。
ルイス:くつくつと笑う。視線には気づかずに。
ルイス:「……もう一度」
ルイス:「見られたらいいんだけど」
ルイス:「アオイさんも……フヨウも」
ルイス:普段はあまりこぼさない性質のことを、ふと口にしてしまった。
フヨウ:「……ルー。ルー」
フヨウ:頬に添えていた掌に加えて。もう片方も、ルイスの頬に添える。
ルイス:「……うん。いや」
ルイス:「こういうとこにいるとさ。また、造りたくなっちゃうんだよ」
ルイス:家には、粘土の塊が置いてあって、夕食後にはまだよくそれをこねている。
ルイス:以前とは比べものにならない出来だが、それでも、やはり。
フヨウ:「……もう。しっかりなさい、ルー。そのためにあなたと、わたしは」
フヨウ:「戦うことを、選んだのでしょう?」
ルイス:「……わかってる」
ルイス:それでも、やはり、自分は。
ルイス:希望を捨てられない。
ルイス:「……わかってるよ。フヨウ」
フヨウ:女神の誘い。願いを叶えるという、ステラバトル。─よもや、この子がそれに応じるなどと。
フヨウ:驚愕、という言葉では言い表せないほど。ある種のショックを受けたことを、まだ、覚えている。
フヨウ:あるいは。そんな、無謀とも言える勇敢さを持たせてしまったのは、自分のせいかと─。
ルイス:「……ごめんね、アオイさん。目の前でいきなり」
ルイス:物言わぬ人形に向けて、そんな声をかける。
ルイス:「……でも、俺は……俺らは」
ルイス:頬に触れる小さな手を、自分の荒れた手で包んで。
ルイス:「もうちょっと頑張ってみようと思ってるから」
フヨウ:「……ええ。願いに向かって足掻くのが、人間なのでしょう?」
ルイス:「他人事みたいに言うんだよ、フヨウは」
ルイス:「……いつか」
ルイス:「いつか、またあなたを見られたら……」
ルイス:そして。
ルイス:その時、彼はきっと今は抱えたままの命を下ろしているのだと、そう夢想する。
ルイス:彼女はその時、両の脚でしっかり立って、すぐ傍にいてくれているのだと。
フヨウ:「……ルー。わたしの、わたしだけの、可愛いルイス」
フヨウ:感謝と、罪悪感と、愛情と。人形にあるまじき、どろりとした感情が滲む声を発しながら。
ルイス:「……うん」
フヨウ:重なった二つの掌越しに、頬を寄せて。
フヨウ:「安心なさい。……わたしは、わたしたちは。この先何があろうとも」
フヨウ:「ずっとずっと、あなたの記憶の中の姿で在り続けるわ。……ねえ、そうでしょう?」
フヨウ:「わたしたちは人形。稀代の人形師エルダーン、あなたのお爺様が創った─」
フヨウ:「─そう在ってほしいと願われて生まれた存在なのだから」
ルイス:ああ、ねえ、でも、フヨウ。
ルイス:俺は、先が見たい。
ルイス:記憶の中よりも少しだけ元気になって、道を自分で歩いていく君が見たい。
ルイス:俺も何かを造れるのであれば。
ルイス:少しだけ。偉大な祖父になし得なかったことを願いたいんだ。
フヨウ:─そう、先を見てほしい。あの人の血を、名を受け継ぐあなたには。
フヨウ:きっと、輝かしいものを創り出すことができると。そう、信じているのだから。
フヨウ:─美術館のどこからか。時を報せる音がする。
ルイス:「…………」
ルイス:こつん、と額を額に当てる。
ルイス:「結構、長居しちゃったね」
ルイス:「そろそろ行きますか、お嬢様」
フヨウ:「ええ。行きましょう、王子様」
フヨウ:冗談を口にするような声色でそう応じて。いつもそうするように、ルイスの首に腕を回す。
ルイス:「王子様かあ。目はツバメが持って行っちゃったかな」
ルイス:こちらも冗談めかして。
ルイス:「それじゃあ、アオイさん。また」
ルイス:きゅっ、と人形を抱く腕に軽く力を入れて。
フヨウ:また、と。ルイスに続いて、ガラスの向こうに小さく手を振って。
フヨウ:「……ルー」
ルイス:「うん?」
フヨウ:「また、連れて来て頂戴。……あなたは、この世でただひとりの」
フヨウ:「わたしを好き勝手にできる人なのだから」
フヨウ:─だから、どうか。いつか、あなたが光を取り戻すその時までは。
ルイス:「……光栄です」
ルイス:あなたを好き勝手にできるのが、いつか、この世でただひとり。
ルイス:あなた自身だと気づいてくれるまで。
ルイス:「俺は、ずっと傍にいるよ」
フヨウ:「……ばかね。人形に熱を上げて、身を滅ぼした人はごまんといるというのに」
フヨウ:「ルー、あなたは本当に。いつまで経っても」
フヨウ:「……あの頃と同じ。可愛いルイスの、ままなんだから」
ルイス:「……五万一人目の、かわいい王子様、か。わりといいな」
ルイス:かつん、かつん、と、よく響く足音と、杖の音が展示室を去っていく。
ルイス:後には、物言わぬ、身動きもしない人形が残される。
ルイス:美しいその目に映すものは、絶望か、それとも……。
木滝 夏芽:遠くには蝉の鳴き声が聞こえて、太陽がじりじりと地面を焼き尽くすような感覚に襲われる。
木滝 夏芽:炎天下だった。
木滝 夏芽:あたしと叔父さんは、あたしの両親であり叔父さんの姉とその旦那さんである人の、お墓参りに来ていた。
木滝 夏芽:「………」日光を浴びて溶けそうになってるお墓を眺める。
岡倉雪次:「……はー……」
岡倉雪次:自分も溶けそうになっている。
木滝 夏芽:「だから、あたし一人で行くって言ったじゃん」仏頂面。
岡倉雪次:「いや、こういうのは誰かがやればいいというやつじゃなくてだな……」
岡倉雪次:「……僕が行きたかったんだから。まあ、僕ががんばるさ」
木滝 夏芽:「ふーーーん…」
岡倉雪次:言いながら、日よけにタオルをかぶっている。
木滝 夏芽:「……姉想い?」
木滝 夏芽:「的な?」
岡倉雪次:「ん?」
岡倉雪次:「ああー、そうな……。世話にはなったし」
岡倉雪次:ほんの少し、言葉尻が濁る。
岡倉雪次:「それに、あれだろ」
木滝 夏芽:「ん?」
岡倉雪次:「夏芽のこと、報告しないといけないからな」
木滝 夏芽:「………」仏頂面が強まる。
木滝 夏芽:「うざ」
木滝 夏芽:「うざうざ」
岡倉雪次:「うざくてもなんでも、大事だろ」
岡倉雪次:「姪想い的な」
木滝 夏芽:「はーー?」
木滝 夏芽:「真似するのやめてよねー!」
木滝 夏芽:照れ隠しの大声。
岡倉雪次:「夏芽」
岡倉雪次:しーっ、と指を立てる。
岡倉雪次:「他の家もな。来てるかもしれないから」
木滝 夏芽:「……っ」
木滝 夏芽:「うるさいな~もう……」ごにょごにょ言う。
岡倉雪次:「ちゃんと手を合わせて心の中でな」
岡倉雪次:「別におじさんがうざいですとか、言ってもいいから」
木滝 夏芽:「………」
木滝 夏芽:「なんでそういう事言うの」
岡倉雪次:「んー?」
岡倉雪次:買ってきた花を飾る。
木滝 夏芽:「別に………」
木滝 夏芽:叔父さんの背中を見る。
木滝 夏芽:昔より、服が大きくなったみたいだった。
岡倉雪次:しゃがんだ体勢から、軽く振り返る。
岡倉雪次:顔色は、どちらかと言えば青白い。
岡倉雪次:「夏芽の花も、ほら」
木滝 夏芽:「…………」
木滝 夏芽:「…………うん」
岡倉雪次:仏花は、炎天下で少し萎れている。
木滝 夏芽:叔父さんの隣に立って、花を飾る。
岡倉雪次:「こういうのも、もうちょっと華やかだったらいいんだけどな」
木滝 夏芽:こちらの方は運が良かったのか、叔父さんのに比べれば、まだ瑞々しさを保っていた。
木滝 夏芽:「……まー、お母さん、結構シンプルな方が好きだった気がするし」
木滝 夏芽:「いーんじゃない。喜んでくれるでしょ」
岡倉雪次:「……バラが」
木滝 夏芽:「え?」
岡倉雪次:「好きだったんだよな。あんまり言ってなかったみたいだけど」
岡倉雪次:「まあ、墓にバラってのもアレか」
木滝 夏芽:「えっ、そうなの? 知らない」
木滝 夏芽:「え、マジ? バラ?」
木滝 夏芽:「赤? 赤だった?」
岡倉雪次:「こう、憧れみたいな感じだったかな」
岡倉雪次:「赤だった気がする。バラ!ってイメージだろ」
木滝 夏芽:「へーーー………」目を見開いている。
岡倉雪次:「それこそさ、シンプルなのが似合う人だったから」
岡倉雪次:「あんまりそれっぽくないでしょって言って……」
木滝 夏芽:「……」叔父さんの顔を見ている。
岡倉雪次:「……笑ってた。だいぶ、前の話」
木滝 夏芽:「…………なんか」
木滝 夏芽:「なんか、さあ……。叔父さんって……」
岡倉雪次:「お?」
木滝 夏芽:「………」思わず言いかけてしまったことをそのまま告げることは、ギリギリ思いとどまった。
木滝 夏芽:「…なんでもない。嘘」
岡倉雪次:「なんだなんだ。意外と男前とか?」
木滝 夏芽:「言ってねーし」
岡倉雪次:「言ってませんでした」
木滝 夏芽:「男前ならとっとと結婚してるでしょ、だいたい」
岡倉雪次:「うっわ、今キツいのが来たな!」
岡倉雪次:ふざけるように心臓のあたりを押さえる。
木滝 夏芽:「あはははー図星ーー」こっちも強気に笑う。
岡倉雪次:「姉さん義兄さん、夏芽がいじめるんですが」
岡倉雪次:墓に向けてこぼす。
木滝 夏芽:「たくましくなったって、笑ってくれるでしょ」得意げな顔。
岡倉雪次:「……娘には甘かったからな……あの夫婦は……」
木滝 夏芽:「そういやさー、あたし、結局どっち似だったのかなー」
岡倉雪次:「ああ、それは……」
木滝 夏芽:「うん」
岡倉雪次:夏の陽に目を細めて、成長した姪を見る。
岡倉雪次:……よく、似ている、と思ってしまうのは、強すぎる思い入れのためだろうか。
岡倉雪次:「……目元はね、姉さんに」
岡倉雪次:「鼻とか口の感じなんかは、義兄さんに、よく似ている」
木滝 夏芽:汗の滲む前髪をかき上げて、見つめられてくすぐったそうに目を細める。
岡倉雪次:当たり障りのないことを言いながら。
岡倉雪次:よく、目を合わせて喋ってしまうな、とそう思う。
木滝 夏芽:「そう」叔父さんの言葉を真正面に受け止めて、素直に顔を綻ばす。
岡倉雪次:そう。バラの話をした時も。
岡倉雪次:あの人は、軽く目を細めて、嬉しそうにしていた、と。
岡倉雪次:思い出してしまう。
木滝 夏芽:「嬉しい。こういうのって、自分じゃ分かんないから」
木滝 夏芽:「でもこういうとこで、あたしも、お父さんとお母さんの子なんだなーって思えるの、いいよね」
岡倉雪次:「そうだな」
岡倉雪次:綺麗な人で、ずっと憧れていて、他の誰かと結ばれた時もずっと祝福をしていた。
岡倉雪次:その幸せが破れた時はただただ悲しくて。そして。
岡倉雪次:「夏芽がこうして元気に育ってくれて、よかったし」
岡倉雪次:「姉さんと義兄さんもきっと、そう思ってるよ」
木滝 夏芽:「育ててもらったからね」
木滝 夏芽:「誰かさんに」
木滝 夏芽:ニヤッと、可愛らしくはない笑い方。
岡倉雪次:「……その笑い方は」
岡倉雪次:「夏芽のだな」
木滝 夏芽:「えー? なにそれ」
岡倉雪次:「らしさ、ってやつだよ。大事だぞ」
木滝 夏芽:「えーー……」なんとなく納得いってない顔。
木滝 夏芽:「……かき氷」ムスッとした顔で言う。
岡倉雪次:「おお、言ってたな。食べてこうか」
木滝 夏芽:「うん。今年は限定のやつにする!」
岡倉雪次:「お、冒険だな。僕はいつもの宇治抹茶にするか……」
木滝 夏芽:「冒険しないなー、叔父さんは………」
岡倉雪次:「歳なんだよ……」
木滝 夏芽:(……嘘つけ)
木滝 夏芽:あたしが知らないとでも思ってるのか。
木滝 夏芽:お母さんの話するとき。あたしの顔を見るとき。
木滝 夏芽:叔父さんの目つき、手の動き、そういったものが、
木滝 夏芽:どんな風になっているのか、自分じゃ分かってないだろう。
木滝 夏芽:臆病な叔父さん、
木滝 夏芽:赤い薔薇を、どうせ、贈ることもできなかったんでしょう。
来栖 架:アーセルトレイ公立大学附属高等学校、部室棟の一室。
来栖 架:部員たった二人の部にあてがわれたその部屋は、普段なら昼夜問わず何らかの音が発せられていて。
来栖 架:それは、今宵のような。月が満ちた夜であっても変わらない─はず、だった。
来栖 架:─けれど、今は。
来栖 架:「…………」
来栖 架:普段はとめどなく言葉を紡ぐ口も、今は閉じられて。ただただ窓の外、夜空を見上げている。
来栖 架:視界の中心。そして、傍らには。同じ名を持つものがいる。
来栖 架:「……こういう時の顔は、変わんないんだよなあ」
来栖 架:普段の強気な表情とは違う、子供の頃と同じような寝顔に。小さくため息とともに、言葉を漏らして。
来栖 架:「……っと」
来栖 架:みつきの肩にかかったジャージ。それがずり落ちそうになっているのを、そうっと手を添えて─
慈雨院みつき:「……んぅ」傍らにいた少年の肩にもたれかかって、すやすやと寝息を立てていたが。
慈雨院みつき:「……ん……?」触れられて、ゆっくりと目を覚ます。
来栖 架:「……おはよう、みつき。って言っても、夜だけどな」
慈雨院みつき:「あれ」もぞもぞと目を擦る。「あたし、寝ちゃってた……?」
来栖 架:無防備な姿を目にしたからか。その声は、普段とは違って、穏やかなもので。
来栖 架:「ああ、ぐっすりだ。もう校門の施錠時間も過ぎてるな、こりゃ」
慈雨院みつき:「う、うえ」
慈雨院みつき:「お、起こしてくれたらよかったのに……!」恥ずかしいそうに頬を膨らます。
来栖 架:「そういや、いっつも俺が起こされてばっかりだもんな。みつきを起こすまたとないチャンスだったか、ひょっとして」
慈雨院みつき:「調子に乗らないでくれるー? バカ架~~」くいーっと、じゃれるように耳を引っ張る。
来栖 架:「普段、みつきにブレーキかけてもらってんだからさ。たまには乗らせてくれよ、調子に」
慈雨院みつき:「……」普段なら、ここで『やめろー!』とか言い返してくるところなのに。
慈雨院みつき:打って変わって落ち着いた様子の彼に、なんだかどきどきしてしまって、手を放した。
慈雨院みつき:「きょ……今日の実験は、もういいの?」
来栖 架:「うん。今日は、もうとっくに終いだ。だって、ほら」
来栖 架:子供の頃に戻ったようなじゃれ合いを、惜しむような気持ちで。視線を、再び窓の外。
慈雨院みつき:「……ん」つられるようにして、窓の外を見る。
来栖 架:「あんなに月が綺麗なんだ。楽しまなきゃ損だろ」
慈雨院みつき:「……満月だ」
来栖 架:─いつかふたりで見上げた、まん丸の月が。変わらずに、そこにある。
来栖 架:「それに、こういう夜は。色々考えちまってさ」
慈雨院みつき:「色々? なあに」
来栖 架:「色々なんだから、色々だよ。学校のこと、家のこと、それに」
来栖 架:「……俺は、何がしたいんだろうな、って」
来栖 架:みつきがもたれかかっているのとは逆側の手を。遠い月へと伸ばすように、そっと挙げる。
慈雨院みつき:「………どうしたの、突然。あんたらしくもない…」
慈雨院みつき:「ロケット、飛ばすんでしょ」
慈雨院みつき:「……そのために、推薦だって蹴ったんでしょ…」
来栖 架:「先生の気が早すぎるんだよ。俺は2年だぞ、受験なんてまだまだ先だ」
来栖 架:あっけらかんと笑いながら、それでも。
来栖 架:「……子供の頃はさ。飛行機のプラモデルを組み立てるだけで、親父もお袋も褒めてくれた」
慈雨院みつき:「……ん」
来栖 架:「ラジコン飛行機を買ってもらって、上手に飛ばせた時も。初めてグライダーに乗った時も」
来栖 架:「みんなみんな、凄いって言ってくれてさ。それが、嬉しかった」
慈雨院みつき:よく覚えている。その時の彼の姿を。
慈雨院みつき:1年先に生まれた彼は、いつも明るい笑顔で、私にそれを見せてくれたから。
慈雨院みつき:「……凄いよ。架は。昔っから」
慈雨院みつき:「いろんなこと思いついて、試して、できちゃうんだもん」
来栖 架:ありがとう、と。素直に返す言葉も、普段と違って、どこか自信なさげで。
来栖 架:「……けどさ。いつかロケットを飛ばして、空の向こう側に─」
来栖 架:「─月に行くんだ、って言った時。信じてくれたのは、ひとりだけだった」
慈雨院みつき:「………」「……え」
来栖 架:よく覚えている。その時の、彼女のことを。
慈雨院みつき:瞬きをする。
来栖 架:いつも自分の痕をついてきた彼女は、年下だというのに、まるで姉のように振舞って。けれど、決して。
来栖 架:大人たちのように、笑って流したりはしなかった。
慈雨院みつき:「架」
慈雨院みつき:身を起こして、隣の彼の横顔を見つめる。
慈雨院みつき:「あんた。……本当に───」
慈雨院みつき:「───バカね!」グイーーーッと、耳を、いつものように引っ張った。
来栖 架:「っだだだだだだだだッ!?」
来栖 架:「お、お前ーッ!ここはアレだろ!?もっとこう……しんみり思い出話とかする感じだろ!?」
慈雨院みつき:「まーったく、珍しく真面目な顔してるんだと思ったら。は~あ、何言われるのかと心配して損しちゃった」
慈雨院みつき:パッと耳を離す。
来栖 架:「づぁッ!?」
来栖 架:痛み─いつも通りの痛みに、泣き笑いのような顔。
慈雨院みつき:「なっさけないわよバカ架。あのねえ、言っておくけど…」
慈雨院みつき:「昔っから、あんたがするって言ったこと、できるって思ってる大人の方が少なかったわよ」
慈雨院みつき:「なのに」ラジコン飛行機を自在に飛ばせた時も。グライダーに乗って、大空を駆けていた時も。
慈雨院みつき:「あんたは、それをぜーんぶ、やれてしまったでしょう」
慈雨院みつき:「……だから。あたしに言わせりゃ、プラモデルだってロケットだって、同じよ」
慈雨院みつき:「あんたが、やるって言った」びしりと指さす。
来栖 架:─ああ、そうだ。自分が、やると言ったことは。ぜんぶ。
来栖 架:「お前が、できるって言ってくれた」
慈雨院みつき:「当たり前じゃない」
慈雨院みつき:「何年、隣にいると思ってんのよ」
慈雨院みつき:フフンと強気に笑う。「気付くのが遅いんだから。バカ架」
来栖 架:「……そうだよなあ。ほんとバカだ。こればっかりは、言い訳のしようもない」
来栖 架:「でもな、みつき」
慈雨院みつき:「何よ」
来栖 架:「そんなバカに、もう15年も付き合ってんだ。ってことはだな」
来栖 架:「もうとっくにバカが伝染(うつ)ってるか、それか俺に負けないくらいのバカかのどっちかだと思うぞ」
慈雨院みつき:「……………」
慈雨院みつき:「………な」
慈雨院みつき:「な」「な」「な」ワナワナ。
慈雨院みつき:「なんですってぇーーーー!」
来栖 架:「ま、待て!そうだな、今のは言葉のチョイスが悪かった!そうだな、こういう時は……」
来栖 架:てのひらをみつきに向けて、「待て」のジェスチャーをしつつ。絞り出した言葉は。
来栖 架:「……同じ穴のムジナ?」
来栖 架:結局のところ、どっちもどっちで。
慈雨院みつき:「余計サイアクにしてんじゃないわよーーーー!!」
慈雨院みつき:だから結局、いつものような怒声が響き渡るのだった。
来栖 架:─いつもの大声。いつもの喧嘩。ああ、だから。
来栖 架:─いつもいつも、言い損ねるんだ。こんな夜に、いつか言ってやろうと思う言葉を。
来栖 架:─今夜は月が綺麗だ、って。
ルイス:夜。薄暗い部屋の中。外から差し込む星明かりが人影を照らす。
ルイス:簡素に整えられたこの家の主には、さほど明かりが必要ないので。
ルイス:包帯を巻いた目の前には、常の通り、美しい生き人形。
ルイス:「……そろそろ、行かなくちゃ、かな」
フヨウ:「ええ。女神様のご招待ですもの。遅れては大変よ、ルー」
ルイス:「時計を見てくれてありがとう。フヨウ」
ルイス:「……いつも、ありがとう」
フヨウ:人形にとっては大きすぎる椅子に、ちょこんと座って。暗い家の中、その美貌も影に沈んではいるけれど。
フヨウ:己の脚で動けぬ身であれば、暗さは苦にならず。そして、何よりも。
フヨウ:「ふふ。いつもそのくらい素直だと、昔のように、可愛いルイスのままなのだけれど」
ルイス:「お礼くらいは言うさ」
ルイス:「……パートナーだからね」
フヨウ:─そう。パートナーである彼と二人きりで過ごす、この場所に。満足しないことなど、あろうはずもなく。
フヨウ:「そうよ。あなたとわたしは、ふたりでひとつ。……だから、ね」
ルイス:俺の大事な目。祖父の形見。大事な人形。でも、それだけではなくて……。
ルイス:「……うん」
フヨウ:「ルー。ルー。……ほら、早くなさい」
フヨウ:迎え入れるように、腕を開く。
ルイス:「はいはい」
ルイス:「しょうがないなあ、フヨウはいっつも」
ルイス:「せっかちな、俺の……」
ルイス:見えているはずもないのに。
ルイス:その腕に応えて、そっと抱き締め。
ルイス:軽い身体を簡単に抱き上げる。
ルイス:「俺の、宝石」
ルイス:その黄玉の瞳も、目に映ることはないが。
ルイス:「『君に、絶望を乗り越えるための脚を』」
フヨウ:「わたしの、最初で最後のオーナー」
フヨウ:手を取り合って、並んで歩くことはできないけれど。
フヨウ:「『あなたに、希望を見つめるための瞳を』」
フヨウ:伸ばした腕が。細い指が。青年の、閉ざされた目を覆う白い包帯に触れて。
フヨウ:するりと、衣擦れの音がする。
フヨウ:はらり、はらりと。包帯がほどけてゆく。幾重にも巻かれたそれは、あっという間に残り僅かとなって。
フヨウ:─同時に。青年の腕の中。元々、決して重くはなかったものが。
フヨウ:からん、からんと。崩れて、外れて、落ちて─。
ルイス:目元が、夜気に触れる。
ルイス:追いかけるようにゆっくり、ゆっくりと目を開くと。
ルイス:そこにはもう何もない。誰もいない。夜の柔らかな光だけが満ちているのが、見える。
ルイス:その身は夜の色の衣装に包まれ、その目は、黄玉の色をしているはずだった。
ルイス:「……『二人で、歩くための道を。今』」
ルイス:杖を手に取る。それは今は歩みを支えるためのものではなく。
ルイス:戦うために振るうものだ。
ルイス:「行こうか、フヨウ」
ルイス:俺たちは、まだ、今は。ふたりでひとつだから。
木滝 夏芽:夏の夜。星明りが差し込む、たいして綺麗でもないあたし達の家は、まるで秘密基地みたいだった。
木滝 夏芽:「……いろんなタイミングが悪い」ベッドの傍に座りながら零す。
岡倉雪次:こほ、こほ、と軽い咳の音がする。
木滝 夏芽:「叔父さん」
岡倉雪次:「……うん」
木滝 夏芽:「大丈夫? なんか…」
木滝 夏芽:「なんかさ」
岡倉雪次:「何、大丈夫。僕が運動するわけじゃないんだから」
木滝 夏芽:「……こういうの」
木滝 夏芽:「なんで叔父さんとなんだろ」
岡倉雪次:「……他が良かった?」
岡倉雪次:ゆっくりと上体を起こす。
木滝 夏芽:「………」叔父さんを見る。
木滝 夏芽:丸い瞳が叔父さんを映す。
岡倉雪次:その目を見つめ返す。
岡倉雪次:誰かに似ている……けれども、彼女だけの瞳を。
木滝 夏芽:「………他の人とだったら」
木滝 夏芽:「もっと分かりやすかったのにね」
岡倉雪次:「でも、夏芽と僕は」
岡倉雪次:「同じ願いを持ってる。そうだろう」
木滝 夏芽:「………」目を伏せる。「うん」
木滝 夏芽:「病気治ったらステーキ食べに行こうね」
岡倉雪次:「いきなり重いところいくなあ」
岡倉雪次:「まあいいや。一番高いやつを食べてやろうか」
岡倉雪次:咳をこぼしながら、それでも笑う。
木滝 夏芽:「やった」軽く目を細めて、笑う。
岡倉雪次:その笑顔に笑い返し。
岡倉雪次:「『夏に降る雪のように』」
木滝 夏芽:「『次に来たる木の芽を濡らしましょう』」
岡倉雪次:それは、遠い遠い奇跡のような……叶うはずもない願いと知っている。
岡倉雪次:それでも。
木滝 夏芽:目を伏せる。
岡倉雪次:あの時夢見た赤いバラのような少女に、手を伸ばす。
岡倉雪次:そして、その姿は不意にかき消え……。
岡倉雪次:「『それは、悲しみの涙ではなく』」
岡倉雪次:耳元で声がした。
木滝 夏芽:「ふ」
木滝 夏芽:一人きりの部屋で視線を動かせば、鏡に映る自分を見れた。
木滝 夏芽:深紅に染まったプリンセスラインのドレス。動きやすいような膝くらいの丈に、花びらのようなベール。
木滝 夏芽:昔、叔父さんと結婚するって言ってたの、覚えてるかな。
木滝 夏芽:覚えてない方が、ありがたいや。
木滝 夏芽:「……それは、悲しみの涙じゃなくて」
木滝 夏芽:「『奇跡を願う、祈りの証』」
木滝 夏芽:静かに呟いて、剣を取った。
来栖 架:窓から月明りが射し込む、決して整理されているとは言えない、いつもの部室。
来栖 架:少年と少女は、そこで。いつものようにくだらない、けれど何よりも大切な時間を過ごして。
来栖 架:─そうして、学校のどこからか。遅い時刻を示す時計の音が、した。
来栖 架:「……あ。やべっ、そういや今日だった」
慈雨院みつき:「なっ……、ああもう、あんたとこんな話してる場合じゃなかった」
慈雨院みつき:「はあ~、もっとしんみり準備とかしたいのに、なんでいつもこうなのかしら…」
来栖 架:「しんみり、って言ってもなあ……」
慈雨院みつき:「何よっ」
慈雨院みつき:腰に手を当ててプンと架を見る。
来栖 架:床にぺたりと座り込んだまま、そんなみつきを、少しの間じっ…と見上げて。
来栖 架:「……うん。やっぱりさ、いつもみたいにぎゃあぎゃあ言い合って。どうしていつもこうなるんだ、って笑って」
来栖 架:よっ、と声に弾みをつけて立ち上がる。
来栖 架:「帰って来て、また同じように繰り返す。……俺は、みつきと」
来栖 架:「そういう風に過ごすのが、好きなんだ。たぶん」
慈雨院みつき:「……すっ………」
慈雨院みつき:「なっ…」顔が真っ赤になる。
慈雨院みつき:「ああもうはいはい、分かってるわよ、そうね、そういう事じゃなくて、平和は大事って事よね…」
来栖 架:「……そういう事じゃなくないんだよ。大事なのはさ、平和じゃなくて」
来栖 架:ひとつ下の幼馴染の、昔よりも大きくなった、けれど少女らしい可愛らしい手をそっと握って。
来栖 架:「願いを叶えることなんだ。そのために、俺たちは─」
来栖 架:「女神様の誘いに、乗ったんだから」
来栖 架:─願い。それは、自分のものであり、それ以上に。
慈雨院みつき:「………架」手を握られるがままに、ひとつ上の幼馴染をじっと見る。
慈雨院みつき:「あたし、信じられることしか、信じないから」
慈雨院みつき:「だから。今日も。信じてあげる」
慈雨院みつき:「勝ってよね」
来栖 架:─そう言って、かつても、今も、そしてこれからも。自分を信じていてくれる幼馴染の、願いを。
来栖 架:「勝つさ。俺たちふたりで」
来栖 架:─叶えるための。思い出の言葉を。
来栖 架:「─In other words.」
来栖 架:それは何処かで聞いた歌。君が好きだと告げる代わりに紡ぐ言葉。
来栖 架:「『月は空に。たとえ遠く、遥かな道でも─』」
慈雨院みつき:口を開けば憎まれ口をたたいてしまうから、呪文だったら素直に話せた。
慈雨院みつき:「『いつか、星の海へ連れて行く。そう約束してくれたから』」
来栖 架:─そうだ。いつか、いつかきっと。
来栖 架:「『─俺は』」
来栖 架:─きみと。
慈雨院みつき:──あなたと。
慈雨院みつき:──いつまでも、待ってる。
慈雨院みつき:「『─私は』」
架&みつき:「「『二人で、夢を見る』」」
慈雨院みつき:つま先から頭の先まで、全身が光輝く粒子と変わる。
慈雨院みつき:その粒子は大きく翼のように広がり、架を包み込んだ。
来栖 架:星のように輝く光が。微かに蒼く、空色に染まって。
来栖 架:纏うは和装。光と同じ色の、どこか神職めいた印象の衣。
来栖 架:腰に佩くは一振りの太刀。衣を見下ろし、ひと撫でしてから抜き放つそれは。
来栖 架:かつて、地球に存在したという。月の名を冠する天下の剣に似て。
来栖 架:「っし、それじゃあ」
来栖 架:抜き身の刃を肩に担ぎ。月を見上げて、にかっと笑って。
来栖 架:「行こうぜ、みつき」
来栖 架:開けっ放しの窓から、まるで月へと向かうかのように飛び出した。
監督:願いの決闘場に今、現れるはロアテラの尖兵。歪みの犠牲者。エンブレイス。
監督:そして決闘場は古代の遺跡に似て。
監督:君たちは、今戦いの舞台へと降り立つ。
ルイス:まず最初に、夜の色のマントを纏った青年が一人、姿を現す。
ルイス:手には杖。どこか軽やかな足取りで歩きながら、興味深げに周囲を見回している。
ルイス:その瞳の色は、透き通った黄玉の色。
木滝 夏芽:その瞳に、深紅のドレスを纏った少女が、カツカツとヒールを鳴らしながら歩いてくる姿が映るだろう。
木滝 夏芽:「ん、どーも」衣裳にそぐわない会釈。
ルイス:「……こんばんは」穏やかに声をかける。
ルイス:「今日は、よろしく」瞬きをして、そのドレスを見つめる。
ルイス:「……綺麗だな。きっと」
木滝 夏芽:「ん? あ、これ、ウェディングドレス的なやつね」ポンポンとドレスを叩く。
ルイス:「夕焼けの天鵞絨の絨毯っていうのは、そういう色なんだろうね」
ルイス:「素敵だ」その答えに笑う。
木滝 夏芽:「へへへ、ありがと」
木滝 夏芽:「あたしの勘だと、あと一人くらい来そうな気がするんだけど、いないねえ」
木滝 夏芽:キョロキョロと周囲を見渡す。
ルイス:「そうだなあ、もう一人くらいいると頼りになるんだけど」
来栖 架:─周囲ではなく、夜空。宵闇よりも鮮やかな、空色が。
来栖 架:「ちょっ、おッ、うわぁッ!?」
来栖 架:銀の煌きを携えて、落ちてくる。
ルイス:「え」まず音に反応して上を向いた。
木滝 夏芽:「うわっ!?」
来栖 架:ごしゃっ、と重い音がして。痛ェ、とぼやきながら立ち上がった姿は、しかし。
来栖 架:「……っと、悪い悪い。あんたらが今回の……うん、仲間ってわけだな」
来栖 架:衣も、刃も、そして浮かべた笑顔も。纏った色と同じく、明るいまま。
ルイス:「びっくりしたな。大丈夫?」
木滝 夏芽:「始まる前から死なないでよー」
来栖 架:「ああ、平気平気。……護ってくれてるからな」
来栖 架:誰が、とは口にしない。それはきっと、ここにいる誰もが同じだから。
ルイス:「ああ」そっと自分のマントに触れる。
木滝 夏芽:「……ラブが溢れてる……」
ルイス:「君だってそうだろ。ウェディングドレスちゃん」
木滝 夏芽:「木滝夏芽! あたしは…なんか…色々むずかしいの」
ルイス:「はは。俺と一緒だ」ルイス、と名を名乗りながら。
来栖 架:「架。橋を架けると書いて、カケル」
来栖 架:「よろしくな、ふたりとも。……さあ、そろそろ」
来栖 架:おでましだ、と。笑みの中に、僅かな緊張を滲ませながら。手にした剣を、真っ直ぐに構える。
監督:───君たちの前に、歪みの兵士が立つ。
監督:では、ステラバトルを開始します。
監督:まず、セットから!
監督:エネミーのコマを配置します。
監督:ガーデン3に配置。
監督:次に、ステラナイトのコマを配置します。
監督:これはガーデン1〜6ならどこでもいいです。固まってても大丈夫。
監督:と言うわけで配置をどうぞ。
来栖 架:では、自分は6に位置取りましょう。
木滝 夏芽:じゃあ5!
さささ:うーん、5で
ルイス:うーん、5で
監督:オーケー!では次に、ステラナイトの行動順を決めます。
監督:これは、話し合いで好きに決めてもらって構いません!
木滝 夏芽:さ 最後でもいいですか…
来栖 架:イエス、了解です。
来栖 架:<夏芽ちゃんがラスト
ルイス:はーい
木滝 夏芽:ありがとうございます!
ルイス:自分もあまり自信があるわけでは……ない!
来栖 架:そうしたら、こちらで先手を頂きましょうか。先駆けるのも青らしい感じがします。
ルイス:お願いしたく!
木滝 夏芽:お願いします!
来栖 架:は!では架→ルイス→夏芽、の順番で!(敬称略)
監督:はい、ありがとうございます!
監督:では次に、舞台のセットルーチンが発動します。
監督:舞台っていうのはマップがこう、攻撃とか妨害をしてくるわけですね。
木滝 夏芽:ふむふむ
監督:というわけでラウンド1・セット。来寇神話
監督:ガーデン1、ガーデン4に「戦乱マーカー」を1個ずつ設置。
監督:戦乱マーカー:キャラクターがこのマーカーが設置されているガーデンにいる間、防御力が1減少する。
監督:ガーデン1と4にいると防御力が下がってしまいます。
木滝 夏芽:たいへん!
監督:たいへん!
来栖 架:おのれ…!
監督:うまく避けたり
監督:しましょう!
ルイス:うおー
木滝 夏芽:はあい
監督:では次にいよいよチャージ判定です。
監督:皆さん。チャージダイス数+現在のラウンド数(1)のダイスを振ってください。
監督:4d
DiceBot : (4D6) → 13[2,4,3,4] → 13
さささ:3d
DiceBot : (3D6) → 13[6,6,1] → 13
来栖 架:4d6
DiceBot : (4D6) → 10[2,5,1,2] → 10
木滝 夏芽:4d6
DiceBot : (4D6) → 20[6,4,5,5] → 20
監督:で、出た目のダイスシンボルを右クリックで作成して
監督:この…自分のブリンガーの行に置いてください。
監督:微妙にわかりづらいなこれ
来栖 架:あ、なるほど。
ルイス:こうか
監督:はい、オッケーです
木滝 夏芽:できた もたもたしてすいません
監督:で、ここで
監督:ブーケを使うことができます。
木滝 夏芽:おお!
監督:ブーケ3枚を使うことで、ダイス1個の出目を増やしたり減らしたりできます。
監督:操作できるのは1個のダイスのみですが、そのダイスには何回でも使えるので
監督:実質1個のダイスを好きな目にできるということですね。
来栖 架:はい。では、ブーケ効果「プチラッキー」を使用。自分のチャージ判定のダイス1つの出目を操作します。
来栖 架:対象は出目「1」のダイス。これをブーケ9枚で出目+3、4に。
しんごろ:「しんごろ」のダイスシンボルの値が変更されました。(1→4)
さささ:自分もブーケ効果「プチラッキー」を使用します。「6」の目のダイス1個に。
木滝 夏芽:同じく「プチラッキー」を使用します。「5」のダイスを「1」に。ブーケ4個使用。
ルイス:ブーケ3枚を使って5に変更します。
さささ:「さささ」のダイスシンボルの値が変更されました。(6→5)
めかぶ:「めかぶ」のダイスシンボルの値が変更されました。(5→1)
監督:ああ、3×4で12枚ですね
監督:出目1につき3枚なのだ
木滝 夏芽:あ、失礼しました!12個つかう!
監督:オッケーです!
監督:では、アクションに入っていきましょう。
監督:ここではエネミーが先に動きます。
来栖 架:ヤー!
木滝 夏芽:ユー!
ルイス:ヨー!
監督:では、まずはNO.3。黒き絢めきは刃の如くを使用。
監督:2マス移動してガーデン5に。
監督:ルイスくんに対してアタック判定2+移動マス数、つまり4ダイスを行います。
監督:4d
DiceBot : (4D6) → 13[4,4,2,3] → 13
ルイス:あっ
ルイス:舞い踊るヒルガオの花を使用したかった
監督:おっと
監督:今からでもOKですよ!
監督:監督の確認不足だ
ルイス:すいません遅かった。ありがとうございます……!
ルイス:では、このアタック判定の間、ここと隣接ガーデンの防御力を1点増加します
来栖 架:おおー!
木滝 夏芽:やったー!
監督:ひゃー
監督:すると、ルイスくんの防御は5に
ルイス:なります!
監督:全部弾かれた…!
来栖 架:弾いた!
監督:そして1点ダメージを受けます。
監督:こっちがね
ルイス:やったー
監督:そういえば、エネミーはアタックダイスが一個増えるんだった
監督:振り足して良いですか?
ルイス:どうぞ!
監督:1d
DiceBot : (1D6) → 2
監督:だめだった
ルイス:ほっ
来栖 架:これもカキンと弾いた!
監督:では次にダイス2を除いて
監督:黒刃のかきむしりを使用。
ルイス:こちらも6の目のダイスを除きます。
監督:ガーデン6に移動。
監督:【アタック判定:2ダイス】を行い、【アタック判定:2ダイス】を行う。対象は架くん。
監督:ダイス1個増えるので3ダイスずつだ
来栖 架:どうぞ…!
監督:3d
DiceBot : (3D6) → 8[3,2,3] → 8
監督:3d
DiceBot : (3D6) → 10[5,1,4] → 10
来栖 架:防御力は3!一撃目で2、二撃目も2通る!
監督:防御力が3点なので、4点!
来栖 架:痛い!(残りHP8)
監督:で、エネミーは4のダイスは使わず
監督:行動完了状態になります。
監督:で、次に来栖くんのターンとなるわけですが
監督:予兆が発生します。
監督:これは舞台による攻撃がターン最後に起こるよという予告ですね。
木滝 夏芽:ほほう
来栖 架:マップ兵器…!
監督:『銀の腕』
ルイス:うおー
監督:この効果が実行される時点でエネミーと同じガーデンに存在する全てのステラナイトに【アタック判定:5ダイス】を行う。その後、エネミーの対角線上に位置するガーデンに存在する全てのステラナイトに【アタック判定:5ダイス】を行う。
監督:ということなので気をつけてね!
木滝 夏芽:こわ!
監督:では来栖くん、手番をどうぞ!
来栖 架:は!
来栖 架:ダイス目「2」を除去。《薄れゆく希望に火を灯せ》にてガーデンの数字、つまりダイス6つでエネミーに攻撃!
監督:ひえー!
監督:こちらはなにもなし!カモン!
来栖 架:ではまず、今回は自分でブーケを12枚使用!アタックダイスを3つ追加!
来栖 架:9d6
DiceBot : (9D6) → 30[4,4,1,2,1,2,6,6,4] → 30
監督:防御力は3!
監督:5点もらう!
来栖 架:うお、結構通った…!端数切捨ての2点バックファイア!
来栖 架:2撃目!同じく出目「2」を除去、同じく《薄れゆく希望に火を灯せ》でアタック!
監督:きゃー
来栖 架:で、今回は、自分のブーケを4枚使用します。これでアタックダイス+1個!
木滝 夏芽:架くんにブーケ4枚渡します。アタックダイス+1個してください!
ルイス:自分も自分のブーケを4枚使用します。アタックダイス+1個!
監督:くっ、こいやー!
来栖 架:頂きます!では合計で、先ほどと同じく9個!
来栖 架:9d6
DiceBot : (9D6) → 34[2,2,4,4,4,2,5,6,5] → 34
来栖 架:6個通ったかな。
監督:ろ、6点…!
監督:ひじょうにいたい
来栖 架:バックファイアは3点!続いて出目「5」を除去、《空歩き》でガーデン4へ2マス移動。
来栖 架:そして移動に同意するキャラクターひとりは1マス移動できますが、今は必要なさそうですね。
監督:MAP兵器をよけられた
ルイス:はい!
木滝 夏芽:ですね!
来栖 架:ラスト。出目「4」を除去、《蒼天の架け橋》を使用。1マス移動してガーデン5に。
監督:みんながあつまった
木滝 夏芽:仲間…
来栖 架:ここで「移動したマス数+1」個のアタック判定。ここに、今回は自前でブーケ12枚、アタックブースト3個!
監督:きゃー
ルイス:ではそこに「それで良いと思っているのですか?」
ルイス:対象の防御力を1点減少させます。
来栖 架:ありがたい…!
ルイス:出目5を除きます。
監督:防御力は2!
来栖 架:ではダイス5個でアタック判定!エネミーの防御が1減って、出目2以上がダメージとして通ります。
来栖 架:5d6
DiceBot : (5D6) → 25[5,6,6,5,3] → 25
来栖 架:あっ全部通った。
監督:防御力減らなくても通ったわ
監督:5点…
来栖 架:以上にてチャージダイスを全て使用しました、手番終了です!
監督:で、来栖くんは行動完了。舞台のアクションルーチンが発動しますが
監督:6、3には誰もいないので空振り!
監督:ではここで戦闘演出を挟みましょう。
監督:甲冑の騎士は、円形の舞台を駆ける。
監督:まず、黄玉の瞳の騎士をひと薙ぎ。
監督:それが効かぬとみるや、直ちにその先の空色の騎士に、大きな一振りを見舞った。
ルイス:戻った視覚と、見えぬ間に培った勘を頼りに杖を軽く振り、攻撃を逸らす。
ルイス:夜の色のマントが大きく揺れて、裏地がはためく。
ルイス:色鮮やかな空のような、海のような色彩の波が、一瞬翻った。
来栖 架:ドレスに護られた騎士には傷ひとつなく。空色の光が、火花のように散って。
来栖 架:─鮮やかな煌きの中。銀色の剣閃が、ひとつ、ふたつ。
来栖 架:青の欠片を星のように散らしながら、駆け抜ける風が、ひとつ。
来栖 架:「……ああ、分かってる。俺たちは、あいつとは違う」
来栖 架:只一人、戦場を駆けた甲冑の騎士に。険しい視線を向けながら。
来栖 架:「独りじゃあない。そうだろ?」
来栖 架:向けた言葉は、共に立つ二人の騎士に。そして。
来栖 架:自身が纏う、月の衣に。
監督:では、次はルイスくんのターン!
監督:まずは予兆!
監督:『輝ける剣』
監督:この効果が実行される時点でエネミーがいるガーデンと、それに隣接するガーデンにいるステラナイト全員に【アタック判定:5ダイス】を行う。
監督:危ない!
木滝 夏芽:このままじゃ死ぬ!
監督:ルイスくん、行動をどうぞ!
ルイス:はい。1の目を取り除いて「騎士のたしなみ」。
ルイス:エンブレイスに【アタック判定:2ダイス】を行う」後に「1マス移動」します。
来栖 架:そのアタック判定に、こちらからブーケを4枚使ってダイス+1個を!
ルイス:で、自前でブーケを12個使用します。
ルイス:おっと!
ルイス:じゃあ4個でアタックダイス+1個!
来栖 架:うす、ありがとうございます…!
木滝 夏芽:こちらもブーケ4枚使用!アタックダイス+1個を!
ルイス:いただきます! ではアタックダイス5個!
ルイス:5d6
DiceBot : (5D6) → 22[3,4,3,6,6] → 22
監督:いたい
監督:ぜんぶとおった
木滝 夏芽:すごい!
監督:まだ立ってます
来栖 架:うおー!
ルイス:ぐおー
木滝 夏芽:強い!
ルイス:ではガーデン4に移動!
監督:OK!
監督:そして舞台が火を吹く!
監督:アタック判定5ダイス!これは舞台によるものなのでボーナスはなし!
監督:5d
DiceBot : (5D6) → 15[3,4,1,1,6] → 15
監督:架くんーっ
来栖 架:グワーッ!!
監督:架くんが戦闘不能。
監督:ではルイスくんから、演出どうぞ!
木滝 夏芽:防御力が3なので、3点食らえばいいのかな
監督:そうです!
木滝 夏芽:おす!
監督:花丸
木滝 夏芽:やったー!
ルイス:「独りじゃない」それはこの場にいる者と、己と、そしてそのドレスに言い聞かせるような。
ルイス:かつん、と杖をひとつ鳴らし、踏み切る。
ルイス:「そうだね」
ルイス:その一撃は鋭い斬撃ではないが、確かに敵を打ち据える。
ルイス:マントがはためく。
ルイス:その裏の色は、揺らめいて暁の黄色に染まっていた。
監督:その一撃にエンブレイスはたたらを踏むと、その剣を大きく一振りした。
監督:途端、剣は強く輝き、先ほどまでルイスがいた場所、そして架と夏芽がいる場所を襲う。
来栖 架:「……ぁ」
木滝 夏芽:「っ……!」斬撃を食らう。刻まれたドレスが花弁のように舞った。
来栖 架:間に合わない。そう判断した思考に浮かぶのは、いつものように自分を叱る少女の、けれど何故だか泣きそうになっている顔で。
木滝 夏芽:「ちょっと架、気をつけ────」
来栖 架:─だから。大丈夫だと、そう応える代わりに。
来栖 架:「─ルイスがやってくれた。畳みかけるなら今、だろ。だからさ」
来栖 架:「やっちまえ、ナツメ」
来栖 架:空色の衣から、青い光がひとすじ。導くように、エンブレイスへと延びる。
木滝 夏芽:「────」明らかに無理をしているような顔なのに、自分を鼓舞する少年を見て。
木滝 夏芽:「あんた、バカって言われない?」
来栖 架:その言葉に、目を丸くして。楽しそうに笑いながら。
木滝 夏芽:「わかった。ありがとね」
来栖 架:がくりと、血に膝を突いた。
木滝 夏芽:少年を心配するような言葉は、もう駆けない。
木滝 夏芽:光に導かれるがまま、駆け抜ける。
監督:夏芽ちゃんのターン!
監督:最初に予兆が発生!
木滝 夏芽:なにっ
来栖 架:ヌゥーッ!
ルイス:ねの
監督:『必中の槍』
監督:この効果が実行される時点でガーデン1、3、5にいるステラナイト全員にアタック判定:5!
しんごろ:ぐわーッ
木滝 夏芽:ぎゃーっ
監督:なので今立ってる夏芽ちゃんはうまくよけないと危ないぞ!
監督:さて、改めて夏芽ちゃんのアクション!
木滝 夏芽:はあい!
監督:スキルダイスを取り除いてそのナンバーのスキルを発動できます。
木滝 夏芽:まず6の目を取り除いて「灯散らす赤き花輪」。
監督:イエス!
木滝 夏芽:「火炎カウンター」を1個得ます!
木滝 夏芽:こちらがダメージを受けるたびに、ダメージを与えたキャラクターに、1点のダメージを入れられるようになるとのことです。
木滝 夏芽:次に、4の目を取り除いて「赤熱鉄柱ぶん回しの刑」。
監督:ひえー
木滝 夏芽:まず1マス移動。ガーデン6に行きます。
木滝 夏芽:エンブレイスに【アタック判定:3ダイス】。
監督:カモン!
木滝 夏芽:はい!今回は自分でブーケを4枚使用!アタックダイスを1つ追加!
来栖 架:夏芽ちゃんの判定に、ブーケ4枚でダイスブースト1つ!
ルイス:こちらもブーケ4個使用してアタックダイス+1個
木滝 夏芽:わーありがとうございます!3つ増えた!
監督:増えた!
木滝 夏芽:6d6
DiceBot : (6D6) → 24[2,4,4,3,5,6] → 24
監督:わわわわわ
監督:防御力は3!なので…
監督:5ダメージ!
来栖 架:ヒュウ!
監督:いよいよやばい!
木滝 夏芽:おお!5ダメージ!
ルイス:いけー
木滝 夏芽:やったー! そして、このスキルの効果で
木滝 夏芽:エンブレイスをガーデン1に移動させます。
監督:移動させられた!
ルイス:えらい!
木滝 夏芽:更に、1の目を取り除いて「騎士のたしなみ」を使用します。
監督:やばいやばいやばい
木滝 夏芽:ガーデン1まで追いかけて移動しまして、【アタック判定:2ダイス】。
木滝 夏芽:今回は自分でブーケを12枚使用!アタックダイスを3つ追加!
監督:どうぞ…!
木滝 夏芽:5d6
DiceBot : (5D6) → 21[5,4,3,3,6] → 21
監督:ぎゃー!
監督:全部通りました
めかぶ:おお!やったー!
木滝 夏芽:おお!やったー!
監督:そして…
来栖 架:うおー!!!
ルイス:そして!
監督:これで総ダメージ33。体力は…33!
木滝 夏芽:おおおお
ルイス:!
監督:撃破です!おめでとうございます!
ルイス:やったー!!
木滝 夏芽:ワ~~~ッ!やった~~~!!
ルイス:すごいすごい!
監督:好きな演出でトドメを刺そう!
木滝 夏芽:はい!
来栖 架:ヤッチマエー!!
ルイス:ゴー!
木滝 夏芽:倒れる少年が拓いてくれた道を、駆ける。
木滝 夏芽:剣がきらめく。ヒールを鳴らして駆ける。
木滝 夏芽:───なんでこんなことしてるんだろうと時々思う。
木滝 夏芽:友達には言えないや。コスプレみたいな恰好して、漫画みたいな敵と戦って。
木滝 夏芽:それでもこの戦いは止められない。
木滝 夏芽:だって、あたし達は、願いを叶えるために戦っている。
木滝 夏芽:踊るようにエンブレイスの懐に飛び込んで、連撃を見舞った。
監督:煌く薔薇の連撃が。
監督:エンブレイスを縛る支配を断ち切っていく。
監督:甲冑の騎士はその場に倒れると、光の粒子に包まれ、姿を消した。
監督:女神によって、元いた場所へと還ったのだろう。
監督:そして君たちも───
来栖 架:「……っは、あー……」
来栖 架:「……勝ったんだな。俺たち」
来栖 架:優美な衣、美しい刃を携えながら。それとは真逆の、無謀とも言える突撃で先陣を切った少年は。
来栖 架:「こんなんじゃあまた怒られちまいそうだ。でも、まあ」
来栖 架:この場の誰よりも、眩く、激しく。蒼月の煌きを零しながら。
来栖 架:「─カッコよかったぜ、ナツメ、ルイス」
来栖 架:そう言って、笑いながら。夜空に溶けるように、ガーデンから退去してゆく。
木滝 夏芽:「ばいばーい」ブンブン剣を振り回す。
木滝 夏芽:「無茶すんなよー」
木滝 夏芽:「ルイスも、気を付けてね。いろいろ」
木滝 夏芽:「あっちで会ったら、色々むずかしい話、しよーね」にっと笑って。
木滝 夏芽:無数の花びらに分裂して散り、ガーデンから姿を消した。
ルイス:その二人の笑顔と、青と赤の色彩をじっと見つめながら。
ルイス:「あっちで会ったら、俺のことはわかってもらえるかな」
ルイス:そっと黄玉の目を押さえ、また離す。
ルイス:「俺の方は、声でわかる自信はあるけど……まあ」
ルイス:ぐるりと周囲を見渡す。帰ればすぐに消えてしまう光と色を。
ルイス:「それはきっと、その時のお楽しみだね」
ルイス:名残惜しげに、短い光の時間の全てを脳裏に焼き付けて。
ルイス:自分も、黄色の蛍のような光になって、その場から消えていく。
ルイス:再び、小さな部屋の中。今は仄かに明かりがついている。
ルイス:だが、それよりも、窓から差し込んでくる夜明けの光が微かに輝いてくる頃。
ルイス:どちらにせよ、帰還した部屋の主にはあまり関係はない。
ルイス:じっと目を閉ざしたまま、椅子に座っている。
フヨウ:そんな青年の膝の上。小さく、関節を軋ませながら。
フヨウ:背中に回された手に支えられて。小さく細い腕を、精一杯伸ばして。
フヨウ:真新しい、まっ白な包帯を。ゆっくりと、ゆっくりと巻いていく。
フヨウ:「……守りに長けた力だということは、重々承知しているけれど」
フヨウ:「あまり無茶をしては駄目よ、ルイス」
ルイス:「うん。ありがとう。フヨウ」
ルイス:大人しく包帯を巻かれている。
ルイス:「でも、フヨウも見てたろ。綺麗だったなあ……」
フヨウ:「………………」
ルイス:「あの空色の光がぱっと流れたところとか」
ルイス:「赤いドレスがひらひら揺れたところとか」
フヨウ:きゅっと、包帯が締まる。それは、ほんの僅かな、痛みなど何も与えない力だけど。
フヨウ:「ルー。ルー。せっかく、光を得たというのに。他人ばかり見ていてはいけないわ」
ルイス:「う」軽く締められる感触。
フヨウ:─それは確かに。彼が惹かれるに値する、命の煌きだった。しかし、それでも。
フヨウ:「まず最初に、褒めるべきものがあるでしょう?」
ルイス:「……一番褒めたいもの、ずっと見ていたいものは」
ルイス:「俺には見えないんだよ、フヨウ」
ルイス:それは、普段は世界の全てとともに閉ざされていて。
ルイス:微かな光の時間には……彼自身の眼窩に埋まっている。
フヨウ:「……莫迦ね、ルー。アオイの前で言ったことを、もう忘れてしまったのかしら」
フヨウ:「わたしは、ずっと変わらないわ。あなたの記憶の中の姿のまま、ここにいる」
フヨウ:─今は、ふたりでひとり。並び立つことは、叶わないけれど。
フヨウ:「だから、想像して」
ルイス:「…………」
フヨウ:「戦いの庭で、あなたが見た星空。その下で、わたしと、あなたが」
フヨウ:「手を繋いで、並んで立って。一緒に星を見上げているところを」
ルイス:目は見えなくとも、心は自由だと、ずっとそう思っていた。
ルイス:そう思って、ずっとなんとかやってきた。
ルイス:だから、想像する。満点の星空の下、自分と人形が……。
ルイス:包帯を解いた自分と、しっかりと自らの脚で立つフヨウが、そこにいるところを。
ルイス:それは、彼にとっての、確かに捨てることの出来ない希望で。
ルイス:「綺麗だね」
ルイス:そう呟く。
フヨウ:「でしょう。……自分が幸せ者だという自覚が、少しは持てたかしら」
フヨウ:そう、微笑んで応えながら。人形もまた、想像する。
フヨウ:再び開いた瞳で、道を見据えて歩き出す彼と。そんな彼を見送る、歩けない自分。
ルイス:(フヨウ、君の想像の中では、きっと)
ルイス:(俺は隣の君を忘れて、星空に見とれているんだろう)
ルイス:(もしかしたら、もっと想像力豊かなことを考えてるかもしれないね)
フヨウ:─そうであってほしい。世界は、美しいものに満ちている。
ルイス:(けど)
ルイス:(俺はいつまでも可愛いルイスじゃない。ずっと変わらないなんてできない)
ルイス:(こうして大それた望みをもって、戦うことだって、できるようになったんだよ)
ルイス:「フヨウ、前に王子様の話をしたよね」
ルイス:「目はツバメに持ってかれちゃったやつ」
フヨウ:「ええ。求められるがままに与え続けて、全てを失って。けれど、誰よりも幸福だった王子様」
ルイス:「……俺は、自分は多分そうじゃないんだって思った」
ルイス:「俺は運ぶ者(ブリンガー)」
ルイス:「いつか君に、持ってくるよ」
ルイス:「君が思ってるよりももっとずっと……驚くような未来を」
ルイス:「だから、今は……そこにたどり着くまでは、二人で」
ルイス:「一緒に歩こう」
フヨウ:「……ええ。いつか辿り着く、その日まで。わたしはあなたの目。あなたはわたしの足」
フヨウ:─そして、その"いつか"が来て。あなたが、美しいものを求めて歩き出した時。
フヨウ:─叶うのならば。きっと、その時も今と変わらないわたしを。
フヨウ:「覚悟なさい、ルー。わたしの、ルイス」
フヨウ:「わたしは、とても我儘なの。……王子様の贈り物が、わたしを満足させてくれるのか」
フヨウ:「楽しみにしているわ」
フヨウ:─世界に満ちる、"うつくしいもの"のひとつとして。あなたの傍に。
ルイス:─そして、その"いつか"が来て。俺が、美しいものを求めて歩き出した時。
ルイス:─俺が最初にすることは決まっていて。すぐ後ろを振り向くことだ。
ルイス:(一番近くにある美しいものだなんて、決まっているし)
ルイス:(君は多分、久しぶりに本当の俺の目の色を見ることになる)
ルイス:(その時。君が本当に自分は変わらない、なんて言っていられるのか)
ルイス:「……うん」
ルイス:「楽しみに、しているよ」
ルイス:白い包帯を巻かれた盲目のブリンガーは、夜明けの光の中、静かに笑った。
木滝 夏芽:晴れ晴れと青空が広がる、夏の朝。
木滝 夏芽:早起きして、とびっきり豪華な朝ご飯を用意した。
木滝 夏芽:クロワッサン、スクランブルエッグ、ハムにトマト、あとお粥に冷蔵庫の中にあった梅干しとか佃煮とか。
木滝 夏芽:ホテルのバイキングみたいに小鉢に盛り付けて、並べる。
木滝 夏芽:「映え」
木滝 夏芽:「……って、後片付けと引き換えだよね」
木滝 夏芽:最後の最後に本音が漏れた。
岡倉雪次:「おっ、なんだ。かわいいの作って」
岡倉雪次:小さく欠伸をしながらのそのそとやって来る。
木滝 夏芽:「おはよー」
岡倉雪次:「おはよ。なんかあれだな。世界名作劇場みたいな」
木滝 夏芽:「何それ? 分かんない」
岡倉雪次:「しまった。ジェネレーションギャップが……」
岡倉雪次:頭を掻いている。
木滝 夏芽:「ふふ」目を細める。
木滝 夏芽:「いいから座って、オジサン」
岡倉雪次:「ダブルミーニングを感じる……」
岡倉雪次:言いながら大人しく座る。
岡倉雪次:食前の薬は一錠。ごくりと素早く。
木滝 夏芽:自分の牛乳を持ってきて、こちらも座る。
木滝 夏芽:「いただきまーす」
岡倉雪次:「いただきます」
木滝 夏芽:「なんか好きに食べて。作りすぎちゃった」
岡倉雪次:「おう。彩りがあっていいな」
木滝 夏芽:「映えだからね」
岡倉雪次:言いながら、迷わずに白一色のお粥を取る。
岡倉雪次:「映えかー。じゃあ、こうか……?」
岡倉雪次:梅干しを乗せると、少しは華やかに。
木滝 夏芽:「……えぇ」
木滝 夏芽:「ちょっと学校で勉強してきて」
木滝 夏芽:ジトっと見ながらクロワッサンをちぎる。
岡倉雪次:「この年でかー」
岡倉雪次:「いいじゃないか、梅干し好きなんだよ。色とか」
木滝 夏芽:「色?」
木滝 夏芽:「赤いから?」
岡倉雪次:「そうそう」
木滝 夏芽:「薔薇じゃないよ、梅は」
岡倉雪次:「梅はバラ科だし、似たようなもんだ」
木滝 夏芽:「そんなこと言って」
木滝 夏芽:「次戦うとき、梅の花咲いたらどうすんの」
岡倉雪次:「はは、白くなっちゃう……」
岡倉雪次:ウェディングドレス的なやつね、と確か、言っていたっけ。
岡倉雪次:「……いかんな。白だとなんか……いかんぞ」
木滝 夏芽:「いかんの?」
岡倉雪次:「まだ早いだろ」
木滝 夏芽:「…………」
木滝 夏芽:「…………」
木滝 夏芽:「………あー」
岡倉雪次:「ん?」
木滝 夏芽:「いいじゃん」
木滝 夏芽:「いいじゃん?」
木滝 夏芽:ニヤッと笑う。
木滝 夏芽:「早くないかもよ?」
岡倉雪次:「んんん」
岡倉雪次:ごくりとお粥を飲み込む。
岡倉雪次:「それっ、どういう意味ですかね」
岡倉雪次:「夏芽くん」
木滝 夏芽:「んーーーー?」
木滝 夏芽:「どういう意味でしょーー」ニヤニヤ
岡倉雪次:「んーじゃないだろ、んーじゃ」
木滝 夏芽:「へへへ」
岡倉雪次:「いや、別に怒ってるとか慌ててるとかじゃないが」
岡倉雪次:「慌てて……慌ててはないが」
岡倉雪次:「何かそういう話があるなら、ちょっとくらい話してくれたっていいだろ」
木滝 夏芽:「…………」
木滝 夏芽:一気に仏頂面になる。
木滝 夏芽:「……はーーーー」
木滝 夏芽:「叔父さん、ほんと………」
木滝 夏芽:「ほんと、そういうとこだよね」
岡倉雪次:「あっなんか僕まずいこと言ったか……!」
木滝 夏芽:「そんなだから結婚できないんだよ、ほんとー」
木滝 夏芽:言いながらスクランブルエッグとハムを一緒に食べる。
岡倉雪次:「姉さん、義兄さん、夏芽が傷を抉ってきます」
岡倉雪次:離れたところの仏壇に手を合わせる。
岡倉雪次:お粥は半分ほど食べたところで残って、赤く染まっている。
木滝 夏芽:「……お母さんも、呆れてるよ」
木滝 夏芽:「会いたくないって思ってるはず」
岡倉雪次:「それは、思ってないよ」
木滝 夏芽:「思ってるよ」
岡倉雪次:「……死んだ人は、死んだ人だから」
木滝 夏芽:「………でも、来てほしくないはずだよ」
岡倉雪次:「……会いたくないとも、もう思ってもらえない」
木滝 夏芽:「…………」
木滝 夏芽:「……叔父さんの願いは」
木滝 夏芽:「お母さんに会うことなの?」
岡倉雪次:「いや」
岡倉雪次:「少なくともそれはもっと先だな」
岡倉雪次:一度置いた箸をもう一度手に取る。
木滝 夏芽:「あ」
木滝 夏芽:「……もっと先?」
岡倉雪次:「夏芽とちゃんと暮らして、立派な大人になってもらってから」
岡倉雪次:「な」
木滝 夏芽:「……50年くらいかかるから、ヨロシク」
岡倉雪次:そのまま梅粥をすする。
岡倉雪次:「立派な大人、だいぶかかるな……」
木滝 夏芽:「まあね」
岡倉雪次:「ん? 待てよ。そうすると、僕もまだ」
岡倉雪次:「立派な大人とは名乗れない……?」
木滝 夏芽:「……っあは」
岡倉雪次:「しまったな」
木滝 夏芽:「名乗れないでしょ、叔父さん」
木滝 夏芽:「あはは」けらけらと笑う。
岡倉雪次:「名乗れないかー」
岡倉雪次:ずず、と粥を食べて。
岡倉雪次:梅干しは半分残って赤を添えているが、白い粥は食べ終えた。
岡倉雪次:「じゃあ、まあ、もうちょっとは一緒に頑張りますか」
岡倉雪次:「立派な大人になるために」
木滝 夏芽:「うん。ヨロシクね」
岡倉雪次:「よろしく」
木滝 夏芽:叔父さんのを見て、ニヤッと笑う。
木滝 夏芽:「じゃあ叔父さん、立派な大人らしく、やってほしいことがあるんだけど」
岡倉雪次:「お?」
木滝 夏芽:「今度。赤い薔薇、あたしにちょうだい」
岡倉雪次:「なんだ、食器洗いくらいなら……」
岡倉雪次:「…………」
岡倉雪次:「お前は、姉さんに……」
岡倉雪次:はあ、とひとつため息をついて。
岡倉雪次:「全然、似てないな。そういうとこ」
岡倉雪次:少し顔を歪めて笑う。
木滝 夏芽:「まーね」目を細める。
木滝 夏芽:「だって、生きてる方が、有利だもんね」
岡倉雪次:「姉さん、義兄さん、聞いてますか。今の……」
岡倉雪次:言いかけて。
岡倉雪次:「……聞いてない方がいいか」
木滝 夏芽:あたしの浮かべた表情も、目の前の叔父さんの表情も、この会話も、それはあたしだけのものだった。
来栖 架:アーセルトレイ公立大学附属高等学校。夏休み初日を迎えた校舎に、人気はまばらで。
来栖 架:一応解放されているとはいえ、屋上となればそれも尚更。
来栖 架:そして、校舎の上空。真夏の太陽がギラつくそこに─。
:【爆発】
来栖 架:一瞬。太陽が、もうひとつ生まれて消えた。
来栖 架:それを生んだのは、屋上から発射された、手作りの小型ロケット。飛び立ち、空中で爆発四散した様を、砕けた発射台の傍らから見上げる少年は。
来栖 架:「…………」
来栖 架:「よし!」
来栖 架:力いっぱい、ガッツポーズを決めていた。
慈雨院みつき:「な」「な」「な」「な」
慈雨院みつき:ワナワナと、傍らで震える少女の姿。
慈雨院みつき:「何が『よし!』よーーーッッッ! このバカーーーーッ!!!」
慈雨院みつき:「全部爆発してんじゃない!」
慈雨院みつき:震える指で、木っ端微塵になった諸々を指し示している。
来栖 架:「違うぞみつき、よく考えろ。この前の部室じゃあ、跳ばずに木端微塵だ」
来栖 架:「今回は、飛んで大爆発だ」
来栖 架:「……どうよ!」
来栖 架:誰もが「なにがだ」と指摘したくなるような、おそらく本人にしか分からない理論を元に。自信満々に胸を張る。
慈雨院みつき:「アホかーーーッ!!」脇を締めて繰り出される怒りのストレート。
来栖 架:「ごはぁッ!?」
来栖 架:みぞおちにクリーンヒット、崩れ落ちる少年。
慈雨院みつき:「爆発してたら意味ないじゃないの!」
慈雨院みつき:「最終的に『着陸して、大爆発』ってなるじゃないのそれ!」
慈雨院みつき:「まず爆発しない方法を探りなさいよ!」
来栖 架:「……そうだよなあ。うん、今のままじゃあそうなる。だからさ」
慈雨院みつき:「……何?」
来栖 架:─自分が天才だったのは、子供の頃の話で。今は、その時の前借りを食い潰して走っているだけなのだから。
来栖 架:「ちゃんと、行って帰ってこれるように。ちょっとずつやってくんだよ」
来栖 架:「連れて行くんなら。一緒に帰って来なきゃな」
慈雨院みつき:「………ん…。分かってんじゃない…」これまでの彼とは打って変わって落ち着いた反応に、虚を突かれたような心地になる。
慈雨院みつき:「…変わったわね。架」
慈雨院みつき:「余裕ありそうな顔してる」
来栖 架:─そんなものはないと。届きかけた何かに向けて、必死に足掻いているだけなのだと。
来栖 架:「そりゃあな。ちょっとずつだけど、進んでんだ。なら、きっと」
来栖 架:「いつか、辿り着く」
来栖 架:─そんな弱音だけは、絶対に。この子の前で吐いて、たまるものか。
慈雨院みつき:「うん。大丈夫よ、あんたなら」
慈雨院みつき:まるで疑ってなどいないような、まっすぐな瞳で笑う。
慈雨院みつき:「女神様にだってお願いしてるんだもん」
来栖 架:「ああ。この世界の誰よりも、高く、遠くへ行きたいって」
来栖 架:「……女神様も呆れてんだろうなあ、きっと」
慈雨院みつき:「あはは、とんだバカだなって思われたかもね」
来栖 架:「だよなあ。……でもさ。この願い事は」
来栖 架:「必ず、俺が叶える」
来栖 架:叶えてもらうのではなくて。他の誰にでもなくて。
慈雨院みつき:「待って」ずいと顔を寄せる。
慈雨院みつき:「架、何か勘違いしてない?」
慈雨院みつき:「あたし、バカは一人だなんて言った?」
来栖 架:「……お前までバカになることはないだろ。おじさんとおばさんが泣くぞ」
来栖 架:そう言いながらも。ああそうだ、と思い出す。
来栖 架:願い事は、自分ひとりのものでも、彼女ひとりのものでもなく。
慈雨院みつき:「うちのパパとママを嬉し泣きさせてやるくらいのこと、言いなさいよ」
慈雨院みつき:「知ってる? 架。昔っから、バカと天才は紙一重って言うのよ」
慈雨院みつき:「あたしは、信じられることしか、信じない」
慈雨院みつき:腕を伸ばして、架の胸を突く。
慈雨院みつき:「……嘘だって、つかないんだから」
来栖 架:─そうだとも。だから、交わした約束も。嘘になんて、してやらない。
来栖 架:「……仕方ねぇなあ。んじゃあ、これからもバカに付き合ってもらうか」
来栖 架:そんな風に、悪態とさえ言える言葉を返しながら。声色に、絶望の色はなく。
慈雨院みつき:「しょうがないわね、架のことは、誰かが見てあげないといけないんだから」
来栖 架:「ああ、頼むぜ。……ああ、もし二人纏めてバカ扱いされて、嫁の貰い手がなくなっても安心しろ」
来栖 架:「その時は、俺がもらってやるよ。実はな、おじさんとおばさんにも「みつきをよろしくね」って前々から……」
慈雨院みつき:「はぁぁぁぁあああーーーーーッ!?!?!?」
慈雨院みつき:「なっ…ななななななっ!パパとママが…はあ!?ば、バカ!本ッ当、バカ!」
慈雨院みつき:顔を真っ赤にしながら、ギャンギャンと騒ぐ。
慈雨院みつき:「架の、大バカーーー!!」
来栖 架:しまった、これを言うのは少し早かったか。いつもと同じように罵られながら、ちょっとだけ反省する。
来栖 架:でも、これくらいは慣れてもらわないと。なんせ、いつか自分たちは、一緒に月に立つのだ。
来栖 架:月が綺麗ですねと。昔の文豪が、愛の言葉をそんな風に訳したのだという。
来栖 架:けれど、月に立っていては、月は見えない。そんな例え話は使えない。
来栖 架:だから。言い換えるのではなくて。代わりの言葉ではなくて。
来栖 架:その時には、こう言おうと決めている。
来栖 架:
来栖 架:─君を、愛している。
【Curtaincall End】
監督:お疲れ様でした!
監督:では最後に皆さんに勲章を授与して、当セッションを締めさせていただこうと思います!
来栖 架:わー、お疲れ様でした…!
監督:1:勝利の騎士
めかぶ:わああ おつかれさまでした…!
さささ:お疲れ様でした!
監督:ステラバトルに勝利した時、全てのステラナイトに授与!
監督:全員1個ずつ
木滝 夏芽:やった~!
ルイス:いただきます!
来栖 架:ゲット!
監督:2:終撃の騎士
監督:エネミーにトドメを刺したステラナイトに授与!
監督:夏芽ちゃんどうぞ!
木滝 夏芽:あたしね!
木滝 夏芽:ありがとうございます~!やった~!
ルイス:おめでとー!
来栖 架:おめでとうございます!バッチリ決めてくれた!
木滝 夏芽:ビギナーズラック!
監督:3:鉄壁の騎士
監督:バトル終了時に耐久力が初期値から減ってない、あるいは増えているステラナイトに
監督:つまりルイスくんだ
来栖 架:まさに鉄壁。
木滝 夏芽:おー!ルイス!ルイス!
ルイス:わお
フヨウ:(ドヤ顔)
ルイス:うんうん、フヨウのおかげ
木滝 夏芽:フヨウ!フヨウ!
監督:4:模範の騎士
監督:自分以外にブーケを使ったステラナイト
監督:つまりみんな!どうぞ!
木滝 夏芽:わーいわーい!
ルイス:やったー
来栖 架:投げて投げられ!助かりました!
監督:5:共闘の騎士
監督:ステラバトル中、他のステラナイトと会話した場合に授与される。
監督:みんな声かけあってた!全員どうぞ!
木滝 夏芽:あたしたち仲良し!
ルイス:ヘイヘイ!
来栖 架:イエーイ仲間!
監督:そんな感じでもらった勲章はシートに記入しておいてください
監督:またいつか使う時が来るかも…?
来栖 架:はあい!記録!
ルイス:りょ!
木滝 夏芽:はあーい!
監督:それではみなさん、今回はありがとうございました!
監督:お疲れ様でした〜!
めかぶ:はい、おつかれさまでした…!とっても楽しかった!
しんごろ:ありがとうございましたー!いやあ、楽しかった…!
さささ:お疲れ様でした! 楽しみましたー!
さささ:皆さんに感謝!